第73巻
第83章 冬休み前半 [2]
鈴はクリスマスパーティーが終わるとすぐに、正月用の服を合わせた。
「お嬢様、呉服が届いております。3階の居間にて着付けとなっております」
「わかりました」
家で宿題をしている鈴の部屋に執事がやってくるとすぐにそういった。
「それと、山門様がお見えになられておりますが、どういたしますか?」
「…山門が?」
「左様です」
「どのような要件かは聞きましたか?」
「お正月に関してと、初詣に一緒に行かないかというお誘いでございます」
「分かりました。私が会います。客間に通しておいてください」
「かしこまりました」
深々と入ってきたときと同じようにお辞儀をすると、音もなく部屋から出ていった。
鈴は、深呼吸をして気持ちを整えてから、部屋から出た。
「山門君」
螺旋階段を上がったすぐのところにある客間へ入ると、がちがちに緊張した山門が革張りのソファーに座っていた。
鈴が話しかけるとすぐに立ち上がり、その元へ歩み寄った。
「鈴、ちょっと聞きたいことがあって…」
「話は多井から聞いてるわ。お正月の初もうででしょ。近くの神社にでも行こうかという話?」
山門はうなづいた。
「どうかなって思って……」
「別に私はいいんだけど、ちょっと予定がいろいろと入ってて…」
「いいよ、妹と一緒に行く予定だったし」
手をヒラヒラ振りながら、山門は言った。
「あ、でも、大みそかに除夜の鐘を聞きながら…なら……」
鈴が思い出したかのように言ってくる。
「じゃあ、12月31日の何時にする?」
すぐに山門が時間を決めようとする。
鈴はポケットの中に入れていた携帯を広げると、予定を確認した。
「午後5時でどう?年越し蕎麦をどこかで食べるとするならだけど」
「自分んちで食べれるように親に言っておくよ。鈴のこと気に言ってるみたいだからすぐに大丈夫っていってくれると思うけど」
「分かった。私の家に来てくれる?それとも、山門君の家?」
「どっちでも」
山門が携帯で両親へメールを出しながら答えると、鈴も携帯で電話をかけた。
「ああ、お父さん。うん、鈴なんだけど、大みそかの日、午後5時までに山門君の家に行きたいの…除夜の鐘を聞きながら年越しっていうのも、ロマンチックだと思うけど…うん、わかった。それで、山門君の家に連れて行ってほしいんだけど…大丈夫?わかった、ありがとう」
電話を終えると、山門に伝える。
「山門君の家に行かせてもらうわ。普通の軽自動車で」
「分かったよ。こっちも、両親に話は通しておいたから。あ、普通の服で良いからな」
鈴はなにか考えていたようだが、気にせず笑顔になっていった。
「分かったよ」
それから、山門にさらに近づくと耳打ちした。
「じゃあ、よろしくね」
山門が何事かと考えている間に、鈴は部屋から出て行ってしまった。