第687巻
「何だ、大丈夫さ。ちゃんとメールもしてくれるだろ、電話もしてくれるだろ?」
うんうんと泣きじゃくりつつある文版に、頭をポンポンとして宮司は伝えた。
ちょうどその時、電車がもうすぐ来ることを知らせる放送がかかる。
「大好きだからさ、だから離れていても通じるんだ。月はどこから見ても月なのと同じ、心はどこから見ても同じなんだよ」
宮司は、その放送を聞きつつも、文版に声をかけた。
それからふいと顔を上げて、みんなに手を振る。
「それじゃあな」
「おう、行ってらっしゃい」
幌が手を振る。
「行ってくるわ」
宮司が答える。
それを合図にして、周りの目も気にせずに、特に文版が泣きながらも手を振った。
宮司が見えなくなると、ようやく文版も落ち着きを取り戻してきた。
「……行っちゃった」
寂しそうだ。
だが、眼にはまだ希望が宿っている。
「そうだね。行っちゃったね」
桜は文版のつぶやきに返す。
「宮司もちゃんと頃合いを見て何かしらアクションを起こすだろうさ。それまでしっかりと待ってやりな」
感情があふれて笑おうとしている文版に、幌が言う。
「できれば、ね」
「できるさ。いつでもな」
一行は駅から出ていく。
早咲きの桜は、少しばかりお化粧をしている。
まだ生まれたての衣を纏い、それでも懸命に背伸びをしようとしている。
これからたくさんの別れがあるだろう。
でも、同じだけたくさんの出会いもある。
これは最初の別れ、でも最後じゃない。
同じように出会いも。
楽しみも、苦しみも、悲しみも、何もかにもを渦巻きつつ、それでも幌らは歩き出した。
これからの人生に向かって。