第67巻
第77章 大学見学 ~発表編 学年会~ [3]
6人目の発表が終わると同時に、学年主任がマイクを手にとり、生徒全員に話しかける。
「以上で、発表はすべて終わりました。これから、先ほど配った投票用紙に自分の名前、クラスを書いたうえで、発表者の名前を書いてください。5分ほどすると回収します」
チャイムが鳴る10分前だった。
ぴったり5分経つと、主任は再びマイクを通して話し始める。
「では、後ろから前へ送るように。この結果は、終業式の時のホームルームで話すことにします」
そんなに長い間かからないだろうと誰もが思ったが、誰もそのことにふれなかった。
一刻も早く、涼しいから寒いへと変わりつつある体育館から逃げたかったからだ。
各最前列でまとめられた投票用紙の藁半紙は、それぞれのクラス担任へ届けられ、さらに学年主任へ渡った。
「では、これで今学期最後の学年会は終了です。みなさん、お疲れさまでした」
生徒一同が立ち上がり、ありがとうございましたと斉唱してから、列は崩れ、それぞれグループとなってばらばらに教室へ戻っていった。
教室へ戻りながらも、幌たちは友達同士で話しあっていた。
「それで、誰に投票したんだ?」
「誰でもかまわんだろ。ただ、行きたい大学っていうと、やっぱり阪大かな」
幌と同じ歩幅で歩いているのは、雅だった。
「でも、偏差値が高すぎるんだよな。さすが、旧制帝大のひとつだよ」
「偏差値が高いのは、旧制帝大のせいだけじゃないような気もするけど…大阪大学は国立だし、人気も高いからね」
雅の反対側には、山門がすこしゆっくり目に歩いていた。
時々追いつくために早歩きをして、歩調を合わせていた。
「国公立は概して偏差値高めだからな。合格するのに相当勉強しなきゃならんよ」
「幌の姉はきっと国立入ると思うな。あの人、模試の偏差値相当高いって聞いたけど」
山門の話を聞きながらも、雅は幌に聞いた。
「そうだよ、姉ちゃんは国内でも1桁に入るからね」
「ああ、前言ってたな。そんな好成績だから、行きたい大学も相当高いんだろうな」
「でもなさそうなんだ」
山門が相づちのように言ったが、幌は続けた。
「姉ちゃん、『甲南大学』に行きたいって、前言ってたんだ。何学部に行くかは決めてないみたいなんだけど」
「来年には理系か文系かは決めるだろうに。そんなので大丈夫なのかな」
「姉ちゃん、気にしないってずっと言ってるよ」
雅が幌に突っ込んだが、本人がいないところでため息交じりに言った。
「2年生には、とりあえず理系に進んで、受験の時に決めるってさ」
「そんな幌は、どこに進みたいんだ」
山門が笑いながら幌に聞いてくる。
「文系かな。大学まではまだ決めてないけど、法律に興味があるんだ。どこかの法学部にでも入ろうかなってね」
「ホー、法学部ですか」
「ダジャレかましてる場合か?」
廊下をのそのそと3人で歩いていると、後ろから怖い声が聞こえてきた。
「けっこうのんびり歩いてるんじゃないのか?」
幌たちの担任だった。
その直後、ダッシュで教室へと駆け込んだ。