641/688
第641巻
それから6人はまとまって受付で清算し、ホテルを後にした。
「楽しかったね」
受付があるフロントフロアから出ると、空は晴れていて、もう春が来たかと思わせてくれる雰囲気になっていた。
「春が来たんだなぁ」
「そうよ、春よ」
幌のつぶやきを、桜が拾う。
どこからともなく桜のような香りが漂うと、そこはかとなく一抹の寂しさを感じる。
「……卒業、なんだな」
もともとこの旅行も卒業旅行と銘打っている。
それだけあって、6人でどこかにこうして遊ぶということも、もしかしたらもう会わないクラスメイトも出てくるかもしれない。
「大丈夫だよ」
鈴が2歩前に出て、それからくるっとみんなに振り向く。
「今生きているところが未来なんだから。だからこれからもちゃんと会えるよ。だって未来にちゃんと会ってるんだから」
「何を言いたいかはわからないけど、結局こういうことだな」
鈴に並ぶようにして山門が進み、前を見据えて言った。
「会えなくても、会えても。俺らは俺らなんだよ」
何かいいことを言ったつもりのようだ。
少なくとも、ここにいる人らには響いたようで、ちょうど風が優し気に微笑みかけていた。