第60巻
第70章 大学見学 〜見学編 大阪電気通信大学〜 [5]
2時間後、じっくりゆっくり大学の見回れる範囲を見終わると、氷ノ山と星井出は待ち合わせ場所のベンチで座っていた。
片手には綿飴を持ち、もう片手は開いている氷ノ山と両手ともあいている星井出が、こぶし一つ分の隙間を開けて座っている。
「まだ来ないのかな」
氷ノ山が携帯の時計を見ながら、早く来ないかと、ずっと空を見上げている。
「まだ来ないだろうさ」
星井出がカバンから取り出した缶ジュースのプルトップを開けた。
「飲むか?」
気軽に聞いてみる。
「いらない」
そっけなく言い、氷ノ山は受け取らなかった。
数秒、間が空く。
間を持たせようとして、星井出が氷ノ山に聞いた。
「ところで、この大学はどう思う?」
「どうって、いろいろと珍しい事してるみたいだけど」
「昭和60年3月から続けてるらしいKa帯電波のを使った衛星実験などのための『衛星通信研究施設』とか、原子や分子レベルでの新素材開発に関連するための『エレクトロニクス基礎研究所』とかのこと?」
[作者注:
衛星通信研究施設に関するページ"http://www.osakac.ac.jp/oecu/gakka/satellite/"
エレクトロニクス基礎研究所に関するページ"http://www.feri.osakac.ac.jp/"
その他、大阪電気通信大学教育研究設備に関することに関しましては"http://www.osakac.ac.jp/oecu/faculty/ed_facility.html"にてご確認ください]
「そうそう、他の大学がしてないことをしているっていうことを、先駆けてするっていうのは、結構勇気がいることなのよね」
そういう氷ノ山は、微妙にほほを紅潮させている。
よくよく見てみなければわからないほどだが、確かにしていた。
「それで、全部飲んでしまってもかまわないよな」
その話をスパッと切り、星井出は缶ジュースを氷ノ山の方に向けて揺らした。
「いらないって」
あっさりと言い返すが、なにかほしそうな顔をしている。
「ほうひしゃの?」
水餃子を食べながらのったりと現れたのは、琴子と雅と文版だった。
「あ、琴子」
「なんや、お二人で"お楽しみ"の最中やったか?」
「なっ!」
氷ノ山が、はっきりと分かるほど顔を赤くしていた。
「お楽しみってなんだよ」
星井出はあまり分かっていないような顔をしているが、薄々感ずいているような表情も垣間見える。
「とりあえず、帰るか」
「そうねー、見たいものも見れたし」
文版が、立ち上がる氷ノ山と星井出に言った。
「例えば?」
「んー…ここの大学のサークルとか。やっぱり、大学生活を楽しむためには、部活とかは外せないと思うから」
来た道をたどるように、5人は歩き始めた。
「サークル展示とかしてたのか」
「してた」
たった一言だけ、雅が言った。
「気づかなかったな」
「あんなに堂々としていたのに、気づかないわけがないだろ」
あきれ顔で、雅が突っ込んだ。
「こんな気づかないやつもいるって言うことよ」
氷ノ山も半ばあきれているような顔をしている。
星井出も一緒にみていたらしいのだが、そのことをすっかりと忘れている様子だ。
「やれやれ、何でこんなやつ好きになったんだろ……」
「ん?どうした」
ちょっと離れたところを歩いていた星井出が、氷ノ山の方を立ち止まりながら振り向いた。
「なんでもない!」
そういって、ツンとした表情で再び歩き始める。
星井出は不思議そうな顔をしながらも、その2歩後ろをゆっくりと歩き出した。
「そういえば、なんで今日はミヤミヤがこなかったの?」
星井出のすぐ横を歩くようにして、文版が聞く。
「ああ、あいつの実家、神社なのは知ってるだろ。なんか、今日は外せない神事があるらしいんだ。それで今日は来れなかったって」
「一緒にいたかったなー」
大体の時間、文版は宮司のことを考えているような顔をしていた。
それでも、雅と琴子と一緒に行動していた。
「でもさ、一つ不思議なのはさ」
星井出が先にいっている氷ノ山たちを見ながら聞いた。
「なんで俺と一緒にいるとき、氷ノ山はポーっとした顔してたんだろ」
「なんだ、気付かなかったの?」
呆れた顔をして、文版は星井出を見る。
「ここまで鈍い人って、久しぶりに見たような気がする……」
「どういうことだよ」
「言ってる通りだよ」
文版は、星井出を置いて、早足になる。
「おい、ちょっとまて」
だがいくら聞いても、文版は星井出に教える気はなかった。