第59巻
第69章 大学見学 〜見学編 大阪電気通信大学〜 [4]
結局、星井出は氷ノ山と一緒に行動することになった。
「なあ、一人じゃなくていいのか?」
星井出が氷ノ山に聞く。
「いいの!別に、星井出が暇そうにしてたし、一人じゃさみしいと思ったからいてあげてるだけ!」
星井出は何かを想ったが、結局言い出せなかった。
「はは……」
空気が抜けたような声で軽く笑う。
「とりあえず、何処か行ってみようか。いろんな店が出てるみたいだし、大学のなかにも展示されているものがあるようだから」
星井出が手をつなごうとひょいと氷ノ山に触れる。
びくっとしてあわてて振りほどこうとする氷ノ山に対して、結局手をつなぐことはできなかった。
「ほら、食えよ」
星井出は、花壇の前にあるベンチに腰掛けている氷ノ山に、焼き鳥を渡した。
「ありがと…でもなんで焼き鳥?」
「なんだ、嫌いなのか?」
「いや、嫌いじゃないけど……」
差し出される紙コップの中にある串を、一本取る。
「んじゃ、いいじゃんか」
星井出は串に刺さっている鳥肉を、串からそのまま食べた。
「あふっ」
熱かったらしい。
口の中で、転がすようにして冷ます。
「アホだね〜」
そういって、氷ノ山はフーフーして少し冷ましてから、口にした。
「おいしい」
「ここの人たちが一生懸命作ってるんだ。うまくないわけがないだろうな」
氷ノ山のすぐ横に、星井出が座る。
互いの熱が伝わるほどにまで近い場所に。
「………どうしようか」
一本食べ終わると、さっきの紙コップに串を入れてから、氷ノ山が聞いた。
「どうせ時間はまだまだあるんだ。知り合いとかいれば、いろいろ教えてくれるんだけど……」
そんなとき、二人の背中から声が聞こえた。
「あれ?星井出たちも来てたの」
「先輩、どうしたんですか。今頃は受験勉強をしていると思ってましたが?」
東丸と屋久が、そこには立っていた。
「大学を見に来たんだよ。勉強はちょっと休憩さ」
「ときには、こんなふうに外に出ておかないとね。お肌も大変なんだから」
はた目から見ると、二人は付き合っているカップルのようにも見えた。
星井出がそのことを指摘すると、屋久は答えた。
「そりゃ、私たち付き合ってるからに決まってるでしょ」
あっさりという屋久に対して、かなり恥ずかしがているように見える東丸がいる。
「そんなあっさり言っていいんですか」
氷ノ山の突っ込みに、気にするそぶりすら見せずに屋久が続ける。
「私たちは付き合ってる。それは事実よ。事実を捻じ曲げて捏造する必要性を感じないわ。あなた達はどうなのよ。付き合ってるように見えるけど?」
「わ、私たちはっ」
「まだ付き合ってません!」
あわてて二人で否定するが、その言葉にもあやが見られた。
「そーなんだ。でも、今、"まだ"って言ったよね」
すかさず屋久は星井出に問いただす。
「どういうことかな?」
じっと見つめられる星井出は、焼き鳥を最後まで食べてから、屋久に言った。
「それは、また後日っていうことで…」
氷ノ山の腕を再び引っ張って一気に逃げ出した。
「逃げよったか……」
「まあ、いいじゃないか。彼らはそう思って行動したわけだし、このことが原因で、学校のデータに不備が生じるということもないし」
屋久が残念そうに彼らの背中を見ている横で、東丸が屋久の肩に手を置きながら言った。
「そうだね。これは彼らが決めた道。私たちが邪魔することはない。それに、いずれは白黒つける必要があるだろうけど」
そういっている屋久の眼には、何が映ったのか。
それは、本人以外誰も知らない。