第55巻
第65章 大学見学 〜見学編 『神戸学院大学』〜 [6]
誰もいないのを確認すると、堂々と入っていく。
「ここが、11号館。一番南側にある校舎で、一番高い所からは『明石海峡大橋』が見えることもあるんだよ。運が良ければ、淡路島も見えるし」
幸が幌たちに説明する。
「エスカレーターもあるんだね」
「1階から6階までだけどね。7〜9階までは、エレベーターか階段で登らないといけないのよ」
幸は、幌たちを見ながら説明する。
「それで、どうする?このまま別の建物へ行くか、それとも、登ってみるか」
エスカレーターを指さしたり、外を指さしたりしている。
「いったん登ってみようか。本当に見えるのだったら、きれいだろうし」
山門がみんなに聞いてみる。
別にかまわないようだ。
「じゃあ、エレベーターで9階まで行こっか」
誰もいない日曜日の校舎。
エレベーターはゆっくりと動き出した。
エレベーターから出ると、窓があった。
「今日は少し曇り気味だけど、いつもだったら明石海峡大橋や淡路島が見えるのよ」
もやがかかっているように、その橋の姿はわずかにしか見えない。
「ごめんねー。代わりに、見えるときの写メとってあるから」
結構画質が悪かったが、それでも、橋と島の輪郭は何となくわかった。
再び1階まで下りてきて、幸が幌たちにまた聞く。
「大体案内したような気がするね。薬草園とかあるけれど、薬学部の人たちしか入れないらしいし、『マクドナルド』も、今日は閉まってるから……」
[作者注:8月末をもって、マクドナルド神戸学院大学店は閉店しました]
「じゃ、今日は帰ろうか。また大学祭のころに来れば、また別の楽しみがあるかもしれないし」
桜がみんなに聞いてみる。
「そういうことで、帰りますね」
山門が幸に伝えると、幸は笑って言った。
「じゃあ、バス停まで見送ってあげるね。と言っても、すぐそばなわけなんだけど」
歩いて5分もしない所に、『神戸学院大学』バス停があった。
「明石駅行きのバスが来たら乗ればいいわよ。また、会いましょうね」
幸は、バスがすぐに来るのがわかっていたらしく、1分もしない間にバスが来た。
「それでは、また会いましょうね」
鈴が最後に幸に言ってから、全員がバスに乗り込んで、大学から離れた。
明石駅までは、約20分。
ゆっくりとしたリズムでバスは進んでいく。
「楽しかったね」
桜が誰かに聞くわけでなく言った。
「大学っていう感じだったからな。英検の時ぐらいしか大学には行かないからな」
「そうそう。ただ、日曜日だったのが残念だったわね」
「学食やら、いろいろな施設が開いてないっていうのは、想定してしかるべきだったがな」
山門が言ったが、本人も気づいてはいなかったようだ。
「まあ、あとは帰ってレポート作ってとか何とかするだけか」
「そのレポートがきついんですけどね」
鈴が幌たちに言う。
それを聞いて、一同気落ちをするが、一瞬で立ち直る。
「なあ、別に一人じゃいけないっていうわけじゃないんだろ?」
「レポート作成のこと……」
幌が唐突に何かを思いついたらしい。
桜が何か聞こうとするのを差し置いて、すぐに続ける。
「そうだよ、女子は女子、男子は男子でっていうくくりはあるけど、人数の制限とかはなかったはず。だからさ、この4人でレポートを作って、それぞれが発表するっていう形にすればいいんだよ」
「それだったら、作業効率も上がるな」
「だろ?」
幌の意見に、山門が賛同している。
だが、桜と鈴は、あまりい顔をしていないが、考えた結果、そちらの方がよさそうだという結論になったらしい。
「分かった。でも、作業するにしても、どこでするの」
「放課後、コンピューター部にでもお邪魔するよ。別にかまわないだろ?」
「ええ、大丈夫。先生には、わたくしから伝えておきます」
鈴がすぐに笑いかけながら答える。
そして、家へとの帰路についた。