第515巻
「あ、あれ……」
慌てて幌は手を離す。
運がいいのか悪いのか、ちょうど片付けが終わったようで、後輩らが教室へと外から入ってくる。
「伊野嶽先輩、片付け終わりました、よ……」
沢入がカラカラと扉を開けてくると、ギョッとした表情を見せる。
その後ろから岩嶋が急に立ち止まった沢入にぶつかる。
「どうしたんですか」
1年生の及川が止まった二人をかわすように教室内を覗き込んだ。
そして、琴子を見て、どうしようと考えている幌を見た。
「あ、お疲れ様です」
そして、くるりと戻ってどこかへ行こうといる及川を、幌が呼び止める。
「いやいやいやいや、大丈夫、大丈夫だからさ」
「せ、せやで。大丈夫やで」
幌と琴子の言葉に疑問を持ちながらも、何も言わずに3人は教室へと入った。
「それで、どうかしたんですか」
及川は幌のすぐ後ろの席に、沢入と岩嶋は琴子を挟むようにして座る。
「それで、どうかしたのですか」
再び沢入が聞く。
「まさか、告白されたとか……」
岩嶋が言ったが、慌てた様子で幌が言う。
「いやいやいや、まだだよ、まだ」
「まだ?」
琴子がそれに反応する。
ビクッとした幌はまたもや慌てた様子で立ち上がり、カバンをひったくるように持つと、それじゃあ明日な、と言って走って行ってしまった。
「まだ、ね」
「まだ、らしいね」
「卒業式のときかなぁ」
後輩3人は好き勝手なことを言うが、当事者である琴子はそれどころではない様子。
「まだ、まだっていつ?」
「いや先輩に言われましても分からないですよ。それこそ伊野嶽先輩に言われたとき、としか」
詰問される沢入の代わりに、琴子の後ろから岩嶋が答えた。
「そうやね。ま、気長に構えるか」
琴子はそれを結論としたようだ。