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女子高と男子校  作者: 尚文産商堂
入部編
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第5巻

第9章 本格的な高校生活開始


合宿から帰ってくると、3日間の休みがあった。しかし、それも実質的にはほとんど寝て過ごすことに費やされ、勉強などせずに、本格的な高校生活が始まった。


「さてだ。今日からが、本当の高校生活が始まる日だ。これまでのは、その前哨戦のようなことで、お前達の学力を高校1年生が終わるまでに、全国平均以上に引き上げるために必要なことだと思っていてくれ」

幌の担任になった、高啓槻が言った。

「だが、勉強をする前に、今日の放課後には、部活動の紹介がある。この高校にある部活動は、15個だ。その中から一つか二つぐらいを選んで、入部する事になる。今月は仮入部期間と言われる期間になって、どの部活に入るかあちこち見学する事が出来る。その見学している間に、決めたいのならばそれでも構わないが、今月を過ぎて決めても構わない。だが、長くても来月中までに決めておかないと困るからな。それだけは憶えておくように。じゃあ、1時間目の準備をしておけよ」

担任は、そのまま教室の外へと出て、職員室の方向へと歩いて行った。


教室の中は騒がしくなった。

「部活か〜、幌はどうするつもりなんだ?」

そう聞いたのは、星井出だった。

「ん〜、あんまし決めてないな。包矛はどうするんだ?」

「天文部に入ろうと考えてる。この高校、国際天文学会に何人もOBが発表していることで有名なんだ。この高校に入った理由もそれがあるね」

「そっか〜、天文部か…」

幌は、窓から空を眺めた。

「それもいいかもな…」

そう考えていた。


そして、放課後になった。体育館に集められた幌達は、部活動紹介の為に、その場にいた。

(姉さんも、向こう側で同じ事してるのかな?でも、姉さんの事だから、なんも話を聞かずに勝手に決めそう…)

そう言う幌だって、ほとんど聞いていなかった。


その頃、桜は、体育館にいて部活紹介を聞いていた。男子高側と女子高側が来年度統合されることに伴って、部活の中身も一本化されていた。だから、男子高側の説明と同じ内容のものを、女子高側も聞いていると言う事である。


「では、これより部活紹介をはじめます。最初に、生徒会会長より、簡単にあいさつをしてもらいたいと思います。では、お願いします」

そうやって出てきたのは、生徒会長だった。

「生徒会会長の長谷貝倫子です。新入生の皆さん、ようこそ高校へ。まだ、いろいろと分からないことがあるかもしれませんが、それでも楽しく高校生活を過ごしてくれたら、私達としてもこれ以上ない喜びです。なお、どの部活でも、兼部は可能です。では、早速ですが、各部活の代表者による紹介を順次行ってもらいたいと思います。それでは、よろしくお願いします」

会長は、マイクを渡した。

「女子陸上部です。私達は、走り幅跳びや長距離走など、さまざまな種目を対象にして幅広く活動をしています。みなさん、一度見に来てください」

代表が、次々とマイクを渡していく。その合間を縫って、会長が部の紹介をしていく。

「続いて、バスケットボール部です」

「女子バスケットボール部です。現在は、全員で4名だけなので、試合はできていませんが、誰かが入るとレギュラーになれるチャンスがあります。基本的には、練習を繰り返し行い、他校との交流試合をすることが多いです。ぜひ、入ってください。初心者でも大歓迎です」

「続いて、卓球部です」

「卓球部では、1対1の孤独な戦いが主になります。時には、ダブルスなども行いますが、個人戦に力を入れています。初心者でも、丁寧に教えます。ぜひ、卓球部に入ってください」

「続いて、柔道部です」

「柔道部では、全国大会優勝の実績を持つ先輩が、一つの技からゆっくりと教えていきます。見学だけでも構いません。初心者でも構いません。どんな人でも強くなるチャンスがあります。ぜひとも、柔道部に入ってください」

「続いて、野球部です」

「野球部では、ソフトボールを行っています。来年度以降は、硬式軟式の両方を行っていくことになります。マネージャーでも構いません。一度見に来るだけでもいいので、野球部を忘れないで下さい」

「続いて、剣道部です」

「剣道部は、3年生3人のみで活動をしています。挑戦心があれば、戦っていく事ができます。ぜひとも、入部してください」

「続いて、吹奏楽部です」

「初心者、経験者、どんな人でもやる気さえあれば、乗り越えていけます。入部を待っています」

「続いて、放送部です」

「放送部では、お昼の放送や、大会などに出場し賞を得るのを目標にしています。経験がなくても大丈夫です。仮入部もありますので、見に来るだけでも構いません。それでは、放送室であいましょう」

「続いて、コンピューター部です」

「本コンピューター部では、プログラミングや、パソコンの内部構造などを教えていき、全般的に使用が可能になることを目標にしているのと同時に、検定試験に合格する事も目標としています。見学も構いません。見にきてください」

「続いて、科学部です」

「科学部は、授業中ではできないような実験を主にします。物理の衝突の実験から、水ロケットの発射まで、幅広く行うつもりなので、ぜひとも、見に来てください」

「続いて、アニメ研究部です」

「アニメ研究部は、古今東西のアニメを日々研究し、その情報に基づいた研究を学会で発表しています。さまざまなアニメが好きな人なら天国のような場所です。アニメ好きなら大歓迎です。アニメが嫌いでも大歓迎です」

「続いて、天文部です」

「天文部では、文字通り天体観測を行っています。宇宙に興味さえあれば、どんなところを写してもらっても構いません。見学者も大歓迎ですので、北館の最上階にあるプラネタリウム室で待っています」

「続いて、情報部です」

「情報部は、本校に関する全ての情報を統括する生徒会直轄の機関です。生徒会執行予算から誰と誰が付き合っているまで、幅広い情報を仕入れます。故に、この部活に入るためには、情報集積能力と、誰にも話さないことの二つが必要です。その二つさえある人は、ぜひ、情報部に入部してください。なお、個人的な用事でも、本校生徒である場合は無料で調査します」

「続いて、料理部です」

「この料理部では、毎週水曜日に、それぞれが食材を持ちよって、料理を作っていこうという事をしています。料理が下手でも上手でも、どんな人でも大歓迎です。ぜひ、見学だけにでも来てください」

「最後に、公安部です」

「公安部は、生徒会直轄の機関で、本校の安寧秩序を取り締まる風紀委員的な存在です。そのため、行動力が伴っていなければ、公安部に所属する事はできません。誰に対しても平等に接する事ができる人や、規則を尊守する人が最適です。詳しくは、明日の部会に出席してください」

「これで、全ての部活動の紹介が終わりました。今月末までに、入部届けを各部の顧問と各クラスの担任に提出してください。それでは、解散してください」


解散が知らされると、三々五々、グループを作り、荷物を取りにクラスへと戻って行った。


「あかんわー。こんな場所、窮屈でしゃーないわー」

桜のすぐ横で、陽遇が愚痴っていた。

「どうしたの?」

「前にも話したやろ?長い間話してへんから、口が空回りしとるんや」

「いや、十分だと思うけど…」

「そか?そやかて、とことんしゃべらへん時にやらへんちゅーのは、わてにとってはきっつい事なんや。分かるやろ?」

「わかる必要性すら感じないね」

桜は、疲れたように言った。そして、ため息をついて、教室へと戻った。


桜は荷物を取り、そのまま、彼女達と話しながら家へと戻った。すぐ目の前で、幌が家に入るところだった。その周りには、数名の男子がいた。

「ただいま」

「あ、おかえり」

「誰だ?」

「俺の姉ちゃん」

桜は、そのすぐ横を通りぬけようとした。だが、後ろから腕をつかまれた。

「なあ、わてらも家に上がってもかまわへんか?」

「えー、でも、家の中散らかってるし…」

「かまへん。わての家の方が汚いからな。

なあ、ええやろ?」

「う〜ん…」

桜は、幌の方を見た。幌の方も、同じような目にあっていた。桜と幌は、ため息をついて、家の中に彼らを入れた。


「おじゃましまーす」

「おじゃまされます」

幌と桜は、先に入った。

「ちょっと待ってね。今お茶入れるから」

幌は、そう言って、台所でお湯を沸かし始めた。玄関からリビングへと抜ける一本のフローリング。そこを滑るようにして、台所に着いた。後ろの方で、桜が幌の料理について嬉々として話している声が聞こえた。

「やれやれ、毎日来たらどうするつもりだよ」

幌はため息をついた。


みんなが靴を脱いでリビングに集まった頃には、幌がお茶を入れ終わっていた。

「おまたせ」

幌は、お茶を配りながら言った。

「そう言えばみんなはどの部活に入るか決めたの?」

「そうねぇ…」

一応に決めているようだったが、声にして出さないだけみたいだった。

「いいたくないんなら、それでもいいよ」

「わては、料理部やな。なにせ、料理は好きやからな」

「食べるほうじゃなくて、作るほうだよね…」

「別にかまへんやろ?」

「俺も料理部かな…」

「幌ならそれも似合ってるね」

桜が、すぐ横に座った幌に言った。

「なにせ、我が弟が作る料理は比べようがないほどおいしいからね」

「へぇー」

「食べてみたいなー」

「ちょっと、何言ってるんだよ。そりゃ、家ではいつも俺が作ってるけどさ…」

「じゃあ、今日の晩御飯、幌が作った料理を食べるっていうのは?」

「いいかもね〜」

「わたくしは、家の方へ連絡を入れないといけませんが、おそらく大丈夫でしょう」

呆然とする幌をほっといて、勝手に話は膨らんでいっていた。そして、ため息をついて、幌が言った。

「分かったよ。作るから。だから、ゆっくりしてくれ」

「やったー!」

「で、今日のご飯は?」

「元々の予定は、あんかけチャーハンだったけど…」

「じゃあ、それに餃子も食べたいな…」

「興味ありだね。自分自身も食べてみたいよ」

結局、幌は9人分のあんかけチャーハンを作らされた。


彼らが帰ったあと、食器を洗っている時に、どこからか電話がかかってきた。

「はい、井野嶽です…ああ、お父さん?」

幌は、いったん食器洗いの手を休め、桜のところへ向かった。

「うん、元気だよ。学校?うん、充実してる。これからもうまくいけると思うよ」

その後、1分ぐらいしてから、幌に電話が変わった。

「父さん?」

「幌か」

「うん、そう」

「学校はどうなんだ?」

「順調だよ。これからもうまく行くと思う」

「そうか。それは何よりだ」

「父さんの方は?」

「ああ、仕事の方も順調だし、心配するような事はないさ」

「じゃあ、もうそろそろ…」

幌は時計をチラッと見て言った。国際電話は、値段が高くなってしまって、あまり長い間かけないようにしているのだった。

「おお、そうか。じゃあ、また電話かけるからな」

そして、そのまま、電話は切れた。幌は受話器を置いて、再び食器を洗い出した。


翌日、幌と桜は、それぞれの高校へと向かって出発した。だが、その時には既にどこの部活に入るかを決めていた。


その日の放課後。桜は、とある部屋の前で立っていた。

「よ〜し…」

扉を開けた。

「すいません、見学に来たんですが…」

「はいどうぞ」

そこは、天文部だった。

「失礼します」

扉を閉めながら中に入ると、そこは、比較的片付けられていたが、壁際には、よく分からないコード類が束ねられているところがいくつかあった。それらは、すべてダンボールの箱に納められていた。

「天文部の見学よね」

彼女は3年生だった。

「はい、そうです。宇宙とかにちょっと興味があって…」

「そう、それはとても嬉しい事ね。さて、何がしたい?」

「えっと…」

「とりあえず、望遠鏡だけでも見てみましょうか」

桜の顔が明るくなった。

「はい!」


一方の幌は、料理部の中にいた。

「じゃあ、見学じゃなくて入部希望なんだね」

「そうです」

彼も、3年生に対して言っていた。

「じゃあ、早速で悪いんだけど、何か作ってくれないかな?」

「何を作りましょうか」

「じゃあ、オムレツでもつくってくれるか?」

「分かりました」

幌は、そう言うと、すぐに渡された材料でオムレツを作り上げた。


「できました」

「早いな」

先輩達はそう言って、皿を受け取った。黄色に輝くオムレツは、そのまま口の中にすくわれて運ばれた。

「…うまいな」

「ああ、どこかで修行とかした事があるのか?」

「いえ、そんなことはありませんが…」

「だったら、天性なんだな。よっしゃ、分かった。料理部に入りたかったんだな」

「はい、そうです」

「じゃあ、入部届けをもって来るから、ここで書いてくれ」

「分かりました」

こうして、幌は料理部に入る事が決まった。


家に帰り、幌がリビングで船を漕いでいると、背中から桜が乗りかかって来た。

「姉さん、重い…」

「幌が気持ちよさそうに寝ているから、ちょっと邪魔してみたくなってね」

「だったら、早くのいて。ご飯作ってあげないぞ」

「え〜、それはやだ〜」

そう言いながらも、のく気配はない桜だった。

「だー!」

一気にはじけ飛ぶような感じで、桜を飛ばした。

「あっはっは、さすが男の子は力が強いね〜」

「姉さんが、弱いだけだろ?まったく…」

そう言いながらも、とりあえず台所に向かってご飯を作りに行く幌。その後ろ姿を見ている桜。


ご飯の準備ができた頃、なぜか、永嶋と山口が遊びに来た。永嶋は、実家はここから遠すぎて通学出来ないために、寮生活を送っているのだった。女子の寮は1つだが、男子の寮は2つあり、それぞれ、女1号、男1号2号と言われていた。永嶋がいる寮は、男子2号のほうであり、1号と比べて数年だけ遅く作られていた。山口は、大豪邸のお嬢様と言う事もあり、リムジン通学をしていた。

「遊びに来てやったぞ」

「いらっしゃーい。ちょうどご飯を食べるところだったんだ。2人も食べる?」

幌がテーブルに料理を並べているところだった。

「じゃあ、もらおうかな?」

「失礼します」

2人は靴を玄関に残し、リビングの椅子に座った。


「いただきまーす」

こうして、4人で晩ご飯を食べた。


「ごちそーさまでしたー」

「お粗末さまでした」

幌は、食器を洗いながら言った。

「そう言えば、2人はどこの部活に入る事にしたの?」

「自分達はコンピューター部だ。ひたすらパソコンの画面とにらめっこしているけどな」

「それでも、わたくし達には、それが最もよくあっていると思われたので」

「二人で意気投合したって言う事ね…」

「いいんじゃないか?やりたいことをする事が一番なんだからさ。部活なんて、そんなものだろ?」

「でも、なんだか、あってるかもしれないね」

桜が、山口に聞いた。山口は、不思議そうな顔をしていた。

「どういう事でしょうか?」

冷静さをまったく失わずに、山口は聞いた。

「だって、眼鏡を持っていて、しかも、赤縁でしょ?」

「そうですが?」

「なんか、秘書がパソコン打ちしているように見えるのよね〜、でも、見た目は面白そうだね」

「他人で遊ばないでいただけるでしょうか?」

毅然とした態度で言い放った。

「アハハ、ごめんごめん。そっか〜、2人ともコンピューター部に進むことにしたんだね」

「じゃあ、他の人たちはどこに行くことにしたんだろう…」

幌が言った。みんな、分からなかった。


翌日、それぞれの学校にて、他の人達がどこに行くことにしたかを聞く事にした。幌は、教室に行くと、他の友達に聞いた。

「なあ、お前達は、どの部活に行くか決めたのか?」

「ああ、もちろんだ。俺はアニメ研究部に行くことにしたんだ。もともと、その方面に興味があったからな」

「星井出は?」

「情報部に入ろうかと考えているんだ。この学校の全ての情報を入手できて、さまざまな方法をもってして、それを公開する。校内新聞の発行元でもある情報部だから、きっと、何か役に立つ事があるだろうからな」

「そっか、まあ、がんばれよ」

「あいよ」

そう言って、彼らは笑いあった。


一方、桜の方も、友人達と一緒にいた。

「ねえ、みんなはどこの部活に行くか決めたの?」

「わては、料理部やな。まあ、作るよりかは食べる専門になるやろうけどな」

「ボクは、中学校の時もしていた放送部だね。結構楽しかったから、高校でもやってみようって思っていたの」

「へー、みんなそれぞれ、どこにいくか決めたんだね」

「そうよ。まあ、私は、公安部に行こうと思ってるけど」

その瞬間、周りでざわめきが起きた。

「氷ノ山さん、それって本気ですか?」

「え?そうだけど…どうしたの?」

「公安部と言うのは、この学校のすべての実権を握ってると言っても過言ではない、公認された巨大な組織だよ。他の部活に対して封鎖や解散を要求することもできるし、教師に対しても、さまざまな特権が認められている。その反面、公安部に入ると言うのは、周りから一目置かれる代わりに、それによって疎まれる部活でもある」

「でも、もう入部手続とかしちゃったし…」

「しっちゃったらしょうがないね」

「しょうがない、しょうがない」

そう言って、笑いあった。


それから、1週間もしないうちに、全ての生徒が部活に入った。

「全員が入部すると言う目標は、無事に達成した」

朝のホームルームで、先生が発表した。幌は、近くの友人と話した。

「いつのまに、そんな目標ができたんだ?」

「さあ?」

そう言って、彼らは話し合った。

「そんな影の目標が、相当多いって聞いたけど?」

「どれだけあるんだろうね」

「さあ、ね」

「こらー!そこ、何話してるんだ!」

そう言って、彼らは先生に怒られた。


桜の方は担任が出張で来なかった。女子達はそれぞれの仲良しグループを形成し、集まっていた。

「ねえ、みんな部活に入ったんだって」

「どうやったら、そんな事が可能なんだろうね」

「私達には分からないね。絶対に、誰かは入らないと思ったんだけどね」

「分からない事が、この世界だからね」

そんな時、1時間目の先生が入ってきた。

「よっしゃー、授業はじめるよー」


こうして、日は過ぎて行く。明日へと向かって…


第10章 中間テスト


桜達と幌達の所は、すでに教科書も授業進度も統一されていた。だから、テスト範囲もほとんど同じだった。


「これから、1週間後に、テストがあります。皆さん、ちゃんと勉強していますよね?勉強していない人たちも、これから発表されていくであろう、テスト範囲をしっかりと復習していってください」

桜達の所の担任が言った。だが桜は、基本的に勉強は必要なかった。それほどまでに、十分な知識だった。

「テストか…」

「なあ桜」

「どうしたの、陽遇」

「どうやったら、桜みたいに、頭よーなるのかいな」

「どうって言われても…陽遇も、勉強面は心配ないんでしょ?」

「そう言われてもな…心配になるやんか」

「わたくしも、桜さんに教えていただきたいと思います。あなたの頭脳明晰さは、中学の時からうかがっておりました。ですが、その実力を見させていただいた事は、高校に入って以来、わたくしの記憶上、一回もございません」

「山口まで…」

「そうだよ、教えてくれてもいいでしょ」

「氷ノ山も…」

「では、本日、桜さんのお宅にお邪魔させてもらって、勉強会を開くと言うのは、どうでしょうか」

「おっ。それって、ええな」

「私もサンセー」

「ちょっと、そんな勝手に決めないでよ。ねえ、文版…」

「いいじゃない。サクちゃんは大丈夫なんでしょ?」

「サクちゃんって…」

「で?どうなんや?」

「大丈夫なのでしょうか?」

「うーん…大丈夫ではあるけど…」

「よっしゃ!じゃあ、それで決定な」

「いつ、行けばいいの?」

「放課後すぐでよろしいのではないでしょうか?それならば、直接お宅にお伺いすることができますからね」

「ちょっと、私の家だよ…」

しかし、気付いた時には、既に決まっていた。


一方、幌の方も似たような状況になっていた。

「なあいっくん、お前の家で、今日勉強会ってできるか?」

「俺の家でか?まあ、不可能じゃないけど…姉ちゃんがどうするかなんだよなー」

「お前の姉さんがどう言おうと、もう決まった事なんだ。行くのは、自分とつーくんと雅くん」

「雅くんって言うのは、陽遇の事だな。じゃあ、つーくんていうのは?」

「星井出包矛だよ。勝手に名前付けたんだよ」

「そーかい」

幌は、外を眺めていた。話半分だった。


その日の放課後。幌と桜は同時に家に帰った。

「あ」

互いに指差しながら言った。

「連れてきたんだ…」

「そうだよ。姉ちゃんこそ、たくさん連れてきてさ」

「仕方ないじゃん、テストもうすぐなんだから、それに向けての勉強会だよ」

「こっちも同じようなものだな」

「ねえ、そんな事より、早く家の中に入れてよー」

「そうだ。早く入れろよ」

そう言われて、幌と桜は苦笑いしながら、家の中に入れた。


「さて、今日は何の勉強をするかな?」

「数学?地理?現社?」

「理科総合でもしておくか。一番嫌いだし」

「では、みんなでしましょうか?そのほうが、それぞれの利点が活かせると思いますが?」

「じゃあ、誰か理総の教科書持ってる?」

「男子達は、今日授業があったんじゃないの?」

「そうだったな」

幌達は、教科書を取り出した。

「今こっちが習っているのは、原子構造とかだね」

「あ、私達も同じ事習ってる」

そう言って、桜は自室へと、参考書を取りにいった。


取ってきたのは、数研出版が出している「視覚で理科総合A」だった。

「私達と幌達は、同じような事をしているはずだから、この参考書で事足りるはず…」

「なぜ、自信なさげ?」

「だって…本当に同じかどうか分からないもの。まあ、私の所は、これで十分だけどね」

「ふーん。とりあえず、原子構造って、どんなのだっけ?」

「氷ノ山忘れたの?授業でバッチシ出てきたところだから、憶えておかないと…」

「じゃあ、幌説明してよ」

「ええ?えっと…まず、原子の真ん中に中性子と陽子からできている、原子核って言うのがあって、その周りを、電子がビュンビュン飛んでいるようなイメージで、多分大丈夫。あとは、その陽子の数が原子番号と言われるものになっていて、陽子の数が、大体電子の数と同じだったり…」

「大体?」

「イオンとかになると、変わったりするのよ。それで、大体同じって言うこと」

「なるほどね…」

そうやって、あちこちの知識を補強しながら、1週間後の中間テストを目指して勉強会を連日おこなった。


それから1週間後。テストが始まった。


「これまでの勉強の成果をしっかりと出せるように、全力で取り組むように」

幌の担任が言った。

「分かってるよ、それぐらい」

「初日からの日程は理総、数Aだったな。2日目は古典、英?で、3日目は数?、OC1、最終日が現社と現文だったな」

「そんな日程だったな」

幌は、そううそぶいた。


こうして、テストは無事に終わった。携帯電話も鳴らなかったし、先生も注意をするような事は起こらなかった。


1年生中間テストは、こうして、何事もなく終わった。これから、季節は梅雨へと移り変わる…

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