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女子高と男子校  作者: 尚文産商堂
体育大会 当日編
45/688

第45巻

第55章 体育大会 〜本番編 午後の部〜


「よーい……」

パーンという銃の音が聞こえてきて、選手は一斉に走り出す。

午後の部は、生徒会種目から始まる。

「今、選手一斉にスタートしました」

実況は、生徒会と情報部の人たちが手伝うことになっている。


その横で、保健係はのんびりとしていた。

「そうくるなら、こっちはこうするよ」

携帯電話で、1年生と2年生が戦っていた。

それを暇そうに見ている先生がいる。

「こうやって時間って過ぎていくのよねー…」

先生は運動場で団子状態になっている選手を見ていた。

「あの中の何人かがけがをしているはずなのに、そのままほっておくんだろうね…」

「でも、自己免疫機能が高いって言うことで、どうにかなるんじゃないですか」

川上が将棋の駒を動かしながら先生に言う。

目の前では、坂上が考え込んでいる。

「……1週間の間、ネットでずっとやり続けていた大局将棋も大詰めでしょ。たまには運動場を見て、みんなの張り切りぶりをみるというのもいいんじゃない?」

先生はそう言いながら、水筒に入れたお茶をすすった。

「大局将棋って、ものすごく大変なんですよ。知ってますか?」

坂上が聞いた。

「そんなの、私が知るわけがないじゃない」

はっきりと言い返された。

「それよりも、どうしましょうか。ここまで来たからには、今日中に終わらせたいですが」

川上が坂上に聞く。

「そうよねー。さすがに、1週間もかかったら、やばいものね」

それだけ言うと、再び時間がゆっくりと流れた。

この保健係のところだけは、別の時間が流れていた。

「あーあ。ひまだなー」

ごろんと横になると、坂上はテントの屋根を見ていた。

「どうしたんですか」

「ん?いや、ほんとに何も起こらないなって」

「いいじゃないですか。暇な時こそ貴重な時間ですよ。そもそも、保健係は暇こそいいことだと思わないと…」

先生はそれを聞いて答える。

「そうよ。保健係というものは、誰かがけがをしたりするときに一番動かないといけない係よ。それがないということは、誰もけがをしていないということと同じことなんだから」

大会はそう言いながらも、進んでいる。


放送部の実況がゆっくりと聞こえてくる。

「あれ……」

「あ、起きましたね」

坂上が寝ている仮設ベッドの上に、少しだけ腰掛ける形で川上が座っていた。

「心配したんですよ、急にバタッて倒れるから、今先生が氷嚢持ってきますから、寝ててください」

「わたし…熱中症か何かで倒れたの?」

坂上が半身を起こそうとするのを、ゆっくりとおろす。

運動場では、2人3脚を行っていた。

実況の人たちが、なかなかいい声になりつつある。

「大丈夫ですか」

「うん、ありがと。心配してくれて」

坂上が、意図的に笑顔を見せる。

何か考えていることがあるのだろうが、川上にそれがわかるかどうかは別問題。

「べ…べつに。ただ、保健係として当然のことをしたまででして……」

川上も顔を真っ赤にしながら答えた。

「そんなことじゃないよ。分からないのかなー」

川上の耳のすぐそばで、坂上は静かに言った。

「だから、こう言っているんだよ。ずっと私のそばにいてくれて、ありがとうって」

何かの感情が、一気に高まってきている。

「うぉーい、だいじょーぶか?」

先生が、そんなときに氷嚢をぶら下げて帰ってきた。

「あ、大丈夫です。結構元気になりましたよ」

そう言ったが、急に半身を起こしたために、川上と頭がぶつかって再びベッドに沈み込んだ。


次目を覚ました時は、保健室のベッドで寝かされていた。

「かわ…かみ君?」

「起きましたか」

川上はベッドのすぐ横に置いてある椅子の上に座っていた。

額に付けたばんそうこうには、小さなシミができている。

「大丈夫?」

坂上は川上のばんそうこうを軽く触れた。

ビクッと、軽く震える。

「えっと…?」

「だいじょうぶ…先生は?」

「ちょうど運動場にいますよ。いま、スウェーデンリレーしてるところです」

窓を軽く揺さぶる程度の声が響いている。

「じゃあ、当分帰ってこないね」

坂上はそれだけ言うと、川上に一気に顔を近づけた。


「ふぇ……?」

一瞬、何が起きたか理解できずに、妙な声が漏れる。

「私たちって、いい組み合わせだと思うんだー」

坂上は朗らかに言う。

「熱中症っぽい症状を起こしたのは単なる偶然だけど、結果的にはよかったのかもね」

それだけ言うと、ベッドから降りて川上を呼んだ。

「ほら、下へ降りるよ。これが終わったら、閉会式なんだから」

「あ、はいっ!」

保健室は、再び静けさを取り戻した。

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