440/688
第440巻
「なぁ」
弁当の最後の一口を食べて、宮司が文版に言う。
「ん?」
文版はすでに弁当を片付け終わっていて、いつでも教室に戻れるような格好をしている。
ただ、本当に教室へ帰るのはもうしばらく先になるだろう。
宮司を待っているからだ。
何か言おうとして、何も言い出せない。
そんな微妙な空気が、雰囲気があたりを包み込む。
風も、何かを察したのか、その動きを止め、次の一言を待っていた。
「……好きだよ」
「私もだよ」
待っていたかのように、雲が動き出す。
二人は、屋上というステージの上で、スポットライトにあたっていた。
だれも二人のことを見ていない、でも、二人は互いのことを見ていた。
「きっと、今年の体育大会は優勝できるよね」
「きっとな」
弁当を片付け終わった宮司に、文版が言った。