第4巻
第6章 勉強合宿開始
桜達が荷解きをしている間に、幌達はご飯を食べ終わり、勉強するための部屋に向かった。
「やれやれだよな〜、1年になったばかりで、こんなところに来させられるなんてさ」
幌が、同室になった、永嶋に愚痴った。
「仕方ないだろ?ここに入学したって言うkとは、そんな事も分かっての事なんだろうから」
「そうだけどさ…」
勉強の部屋は、あちこちにあって、上手に先生達の策略によって、女子高の生徒と男子校の生徒が一回も会わないようにする事に成功していた。
「………と言う事で、ここの答えはこうなるんや。分かったか?」
数学の先生であり、幌のクラスの担任でもある、高啓槻先生が、ホワイトボードにマジックででかでかと答えを書きだした。生徒達は、初めて受ける高校の授業に半ば頭が痛くなりながらも、授業を受けていた。時々、結構向こうの方からにぎやかな声が聞こえてくるのは、女子高の人々なのだろう。男達は、ため息をつきながら、恨めしい気持ちでその声を聞いていた。
授業が終わったのは、晩御飯の時だった。
「やれやれ、やっと終わったか…」
教室の前の方にいた幌と永嶋は、星井出と一緒に、晩御飯の部屋に向かっていた。所々で、うつらうつらと眠そうにしている人たちが授業中にも見受けられていたが、終わった途端に、元気を取り戻したようだった。
「やっと、晩飯なんだな〜」
幌と一緒に行動していた、永嶋が言った。
「そうそう、こんな合宿なんて、ずっと勉強漬けにして、洗脳するのが目的なんだろうからさ。大丈夫だって」
星井出が言った言葉に、すぐに幌が反論する。
「いやいや、洗脳するのが目的って、それはさすがにやばいだろう…」
「とりあえず、行こう。早くしないと、晩飯を逃すことになりかねん」
「それだけは避けたいんだな」
「当たり前だろ?人間、飯を食わなきゃ生きてられないんだからな」
「………」
永嶋の当然と言う顔をしながら話すことに、ただただ、二人は苦笑いするしかなかった。
「とりあえず」
幌は、食堂に向かった。
桜の方は、荷物を置いて、その30分後から、ご飯を食べていた。同じ部屋の人たちがかたまって、テーブルに座って、昼食を食べると言う事になっていた。
「はあ、これから、3日間も、こんなところで閉じ込められるんやね…」
「どうしたの?」
桜は、同じ部屋になっていた、陽遇琴子が愚痴っているのを聞いた。
「だってさ、こんななんもあらへん所で、今日も入れたら4日間。やってられへんわ」
「でもさ、ここに入学しなくても、大体の所は、やっているんじゃないかな?」
「そうは限らんで。なにせな、科とかな、そんなもんが違うと、結構変わるもんやで」
「そうなのかな…私、他校に行った友達から連絡とか無いから、よく分からないよ」
「そんなもんでええんやで。昔の友達は、教科書とともに中学校に置いてきたわ」
「いやいや、持って帰ろうよ、なんで持って帰らないの?」
「そんなん、当たり前やんか。重いに決まっとるやろ」
桜は、深いため息をついた。そして、すがるような目で、横でご飯を食べている山口を見た。
「どうしましたか?井野嶽さん」
「…さっきの話を聞いてた?」
「申し訳ありませんが、聞いていませんでしたね」
桜は、ため息をもう一度ついてから、ご飯を食べ始めた。
いったん勉強が入り、気付いた時には、夕ご飯の時間になっていた。一行は、再び、朝と同じ席に座り、ご飯を食べ始めた。ご飯、さんまの塩焼き、菜っ葉とゴマの和え物、アサリの味噌汁が、オレンジ色の盆の上に乗っていた。
「やれやれだ〜…」
遠くから、男子の声が響いてきていた。
「やっぱり同じ建物の中にいるから、男子の声も聞こえるんだね」
桜が言った。
「そりゃそうでしょう」
桜と同室で、バスの中でずっと眠っていた、氷ノ山亜紀留が言った。身長、体重、その他もろもろ全て平均的と言う評価を受けていた彼女は、成績もちょうど平均値だった。
「ここは、響きやすい構造になっとるみたいやね」
陽遇が言った。ご飯をかっ込んでいる彼女は、マシンガントークを繰り出して、周りから異質な存在と見られていたが、桜達は、それをやすやすと受け入れた。
「せめてご飯の時ぐらいは静かにしようよ」
「井野嶽は何言うてるんや。ご飯の時やからこそ、しゃべらなあかんねん。分かるか?」
「いや、まったく分からないんだけど…」
氷ノ山が、絶妙なタイミングで陽遇につっこんだ。
「あかんな〜、大阪の気持ちを分かってないで」
「わかる必要性も感じないんだけど…」
桜が、すがるような声で言った。しかし、陽遇は、まったく聞いていなかった。
「ええか?大阪の人達っちゅーのは、基本的におしゃべりなんや。やからこそ、あんなふうに、しゃべらへんちゅうのは、窮屈でしゃーないねん。な?そやから、こんな隙間隙間で、しゃべる必要性があるんや。それで分かったやろ?」
「…………」
みんな、黙って黙々とご飯を食べていた。
第7章 最終日の真夜中
日は、どうにか過ぎていって、3日目の消灯時間となった。この日のために、男子一団はとある作戦をあたためていた。
「実行は、今日の12時。各部屋、班長を中心とし、計画を実行する」
晩御飯の時に、委員長が各人に、伝言を伝えて言った。すでに、計画の概要は出来上がり、全ての男子と一部の女子が知っていた。さらに、一部の女子は、その他の女子達に知らせる事によって、向こう側とこちら側の連携が確立されていた。
「先生達は、11時半に寝る事になっている。だからこそ、12時にする意味があるのだ。そして、我らは、女子の部屋に行き、親睦を深める事を今回の計画の目的とする。それを忘れぬように、高校生としての分別を持っているものと、強く信じている」
「それは大丈夫だよ」
委員長の伝言に、静かに言った幌は、すでに、桜が知っていると考えていた。
10時に消灯、11時に定時の見回りがあり、それから、1時間。幌達は待った。幌が持っている、時計が12時を告げると同時に、メールが回ってきた。
「満月が昇った。狼男は今宵が勝負だ」
それは、計画を実行するための暗号だった。幌達は、行動を開始した。
まず、ドアを静かに開け、左右を確認する。暗いところに目を慣れさせるために、部屋の中は、ずっと暗くしていた。
「左右良し、行動可能。行くぞ」
室長が、確認した後に、指示をとても小声で出した。そして、速やかに行動を開始した。
目標の部屋は、先に割り振りをしておいた。コンピューターによる三桁の番号によって振り分けられており、男子の1〜2部屋の人たちが、女子の1つの部屋に行くような数に調整してあった。女子の方は、誰が来るかわかっているが、男子の方は分からない仕組みになっていた。
「では、目標の部屋である、401号室へ向かおう」
401号室組みは、もう一班、合さっての構成になっていた。
「合計8人。向こう側の人数は?」
「一応、8人になっているはずだ」
「さて、どうだろうね」
忍び足で、廊下を歩く人たちが、あちこちで軽くぶつかったりしていた。しかし、耳に聞こえてくるのは、外の風の音ぐらいだった。
「満月が昇った。狼男は今宵が勝負だ」
そのメールは、女子側にも届けられていた。
「やってくるわよ。401号室に来るのは、桜の弟もいるんだよね?」
氷ノ山が、この部屋の室長をしていて、すでに、誰がここに来るかを把握していた。
「うん…でも、幌は知っているわけ無いから、きっと驚くと思う」
「そやかと言ってもな。姉がおったぐらいでびびらんと思うで。まあ、さすがにな、わての弟が、おるっちゅーのは、驚いたけどな」
「ちょっと待って、それって初耳なんだけど」
同室の、文版栄美が言った。
「確かに、名前の中には、陽遇って言うのはあるけど、もしかして、弟?」
「そーやで。気付かへんかったか?」
「名前が同じなのは、良くあることですよ。気付かなくたって、構わないと思いますよ」
「山口はさりげに、きつい事言うね」
「そうでしょうか?」
にこやかに言っていた。そんな時、戸を叩く音が聞こえてきた。
「おっと、お客さんがいたようだね」
氷ノ山がドアを開けた。
「401号室ですね?やって来ましたよ。男子8名です」
「お待ちしていました。どうぞ中へ」
そして、一行は、部屋の中に入った。
幌は、その部屋の中に桜を見つけた時、同時に「姉ちゃん!」と叫ぶ声を聞いた。
「ちょっと待て。なんで、ここに?」
「偶然よ。ぐうぜん。だって、コンピューターによるランダムな部屋割りでしょ?だから、こっちが選ぶ事は出来ないの」
幌の横にいた、陽遇は、同時に、姉の姿を認めて驚いていた。
「やれやれ、なんで、姉さんがここにいるんだよ」
「ええやないか。神さんが決めた事やからな、あきらめて覚悟しいや」
「ちょっと琴子、人変わってるって…」
氷ノ山が、恐々言った。
「まあ、これからもよろしく」
一行は、部屋の中に入って、ドアを閉めた。他の部屋の事は、時々横から聞こえてくる、騒がしい笑い声によって分かった。
「とりあえずは、どうしようもないから、まあ遊ぼうか」
永嶋が言った。いつの間にか持ってきていたトランプを、手に持っていた。
「お、それを手裏剣にでもして、誰かに向けて投げるんやな?」
「違うって。穏便に7並べでもしようと思ったんだけどね……」
「じゃあ、これはどう?」
氷ノ山が持ち出したのは、携帯カラオケセットだった。
「どうやってそんなもの持ち込んだのよ」
桜が聞いた。
「だって、携帯カラオケセットを持ってきちゃ駄目って言われてないでしょ?」
こうして、夜中のカラオケ大会が開かれた。
なかなか楽しんだうちに、朝がやってきたので、それぞれがそれぞれの部屋に戻って行った。
第8章 帰り道
帰る直前、大体の人たちは、眠そうだった。
「シャキッとしろよー」
高啓先生がみんなに笑いながら言った。生徒達の間では、先生は既に気付いていると言う噂が流れるほどだった。
バスに乗り、動き出したと思った途端に、1/3の生徒が眠りに落ちた。
目が覚めたのは、高校に到着した時だった。
「みんなー、おきろー!」
高啓先生が、寝ている人一人一人をたたいて起こした。
「高校だぞー!おきないとそのままバスの車庫の中に入るぞー!」
やっと全員を起こし、バスからおろさせた。各高校の運動場で整列させて、そのまま解散させた。
「やれやれ、やっと終わったよ」
幌は、友人と話していた。
「でも、結構楽しかったね。特に最終日の………」
「わっ、しゃべっちゃ駄目だろ!」
陽遇が思わず話しそうになったのを、幌が慌てて止めた。
「おっと、そうだった」
高啓先生が、こちら側を笑いながら見ていた。
「先生、絶対知っているって」
「かもな」
幌はそのまま、家に直行した。その他の人たちは寮に戻ったり家に帰ったりした。
家に帰ると、すでに桜が着替えているところだった。
「ただいま」
「おかえり〜。どうだった?」
「ん〜、まあまあかな?」
「何よそれ。まあ、いいけど」
こうして、勉強合宿は終わった。
次の月曜日からは、本格的に学校の授業が始まる。