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第383巻
「当機はまもなく動きます。座席にお座りいただき、シートベルトをお締め下さい」
一応の不時着時の行動の仕方のビデオや実技を見てから、一斉に放送が聞こえる。
それに合わせるようにして、誰もがシートベルトをつける。
「沖縄、楽しかったね」
幌の横に座っている桜がぽつりと、寂しそうにつぶやく。
「楽しかったな」
幌が桜に答える。
機体は徐々に動いていき、滑走路へと動いていった。
「大人になったら、こういう観光してみたいね」
「いつもの面子で、いつものように。な」
それが幌が答えた言葉だった。
機体は急激に速度を上げ、背中に体が抑えつけられる。
そして、滑走路の3分の2ほどを動いた時、ふわっと、なにか浮かぶ気持ちがした。
それからは頭を抑えられるような感覚が常時襲う。
窓から外を眺めてみると、陸はどんどん離れていき、小さくなる。
――さよなら、沖縄。また会う日まで。
誰にも聞こえない声で、桜は沖縄に別れを告げ、家へと戻るための帰路へと飛び立った。