第38巻
第48章 体育大会 〜当日編 大会直前〜
幌は、いつもどおりの時間に目が覚めた。
「…そっか、今日は体育大会の日か…」
リビングに出て、窓から外を眺めると、雲ひとつ無い快晴。
「あ〜あ、これじゃあ、体育大会あるよねー…」
少々落ち込み気味に言ったのは、桜だった。
「姉ちゃん、どうしたの」
「んー…なんか、体がだるくってー。熱は無いみたいなんだけど…」
「休んだら…ってそんなことも言ってられないんだよね」
カレンダーを見る。
「今日は金曜日だから、これが終わったら家にすぐ帰ってゆっくり寝たら?それに、今日は父さんと母さんが帰ってくる日だし、それまでなら寝れるでしょ」
幌が、そう桜に言ったら、なんとなくうなづいていた。
朝ごはんをとにかく食べさせ、体操服に着替えてた上で、桜に弁当を忘れずに持って行かせるようにしてから二人は家を出た。
家から出ると、今日は二人とも男子校側に行った。
体育大会は男子校側のグラウンドで行われることになっている。
そちらのほうが、面積が大きいということが理由だった。
ただ、家を出た直後、誰かが近寄ってきた。
「すいません」
「はい、何でしょう」
しっかりと窓の確認を済ませた幌が、一足先に外に出ていた桜と合流したとき、弁当屋の服を着た人たちが近寄ってくる。
「このあたりで体育大会があるって聞いたんですが…」
「ああ、それならこの先まっすぐですよ。男子校で開かれることになっていますので、弁当の販売か何かですか?」
格好から判断した幌が聞く。
「ええ、近くで弁当屋をしているもので、ちょっと売り込みをしようかと…」
「学校側から許可を取ってますか?」
ドアを確実に施錠したことを確認してから、彼らの顔を見た。
「ちゃんととってますよ」
そういって、なにやら不審な点が複数見受けられる。
「本当ですか?」
ネチッこく聞いてみる。
彼らは一歩ずつ後ずさりを始めた。
その時、一台のリムジンが幌の家の前に止まった。
「ここでよろしいでしょうか」
「ええ、大丈夫です」
降りてきたのは、いつもは制服姿の清楚な感じのお嬢様…今日は打って変わって体操服姿の鈴だった。
鈴の後ろから降りてきたのは、同じく体操服姿の山門だった。
自動的にリムジンのドアは閉まり、ブゥーンと走り去った。
「…わざわざリムジンで乗りつけるようなことか?」
「いいんですよ。今日は山門も一緒でしたし…あら、お客様ですか?」
弁当屋と称する人たちは、正真正銘のお嬢様を見て固まっていた。
「学校の前で弁当を売りたいって言うんだが、学校側から許可をどうも取ってないようなんだ」
「あら、それはいけませんね。規則違反は、厳しく取り締まられるべきですわ」
鈴はそういうと、携帯を取り出そうといた。
瞬間的に、彼らはいなくなっていた。
「ったく、迷惑かけやがって」
「私たちも行こ。まだ時間はあるけど、早めのほうがいいからね」
鈴は山門の手を握り、山門は顔から火が出そうになっていた。
「山門ってば、顔真っ赤だよー」
桜が茶化すように言う。
さらに恥ずかしがって、耳まで真っ赤になっている。
幌はその時、さらに誰か来たことに気づいた。
「おはようございます」
『YAKULT』の服を着たお姉さんが、バイクを押しながらやってきていた。
「おはようございます。今回も来たんですね」
幌はヤクルトレディに近づいた。
「ええ、いつもの通りにです」
桜や鈴たちも来た。
「中身は何を持ってきたんです?」
「いつもの通りですよ。えっと…」
バイクの荷台においてあるバックを開けて、商品を紹介し始めた。
「今回も『ヤクルト400[70円]』、『ヤクルト400LT[70円]』、『タフマン[143円]』、『蕃爽麗茶[100ml・100円]』、『レモリア[250ml・100円]』を持ってきましたよ。あ、よかったら買いませんか?」
[作者注:容量を書いている商品もありますが、同じ名称で内容量が違うものが存在する場合のみ、容量は記載しています。値段に関しては、地域差がある場合があります]
「えっと、どうしよう…」
桜は悩んでいるようだった。
鈴は財布を取り出している。
どうやら、山門と一緒に選んでいるようだ。
幌は、フゥーとため息を一つついてから、桜に声をかけた。
「一つだけだぞ」
顔が輝くのが分かる。
結局、レモリアの紙パックをそれぞれが持って、体育大会へ向かうことになった。
校門のところで、ヤクルトの臨時販売所が出来上がるのは、その直後だった。