第36巻
第46章 体育大会前にも授業
体育大会が目の前に迫っているといって、手を抜くような高校ではなかった。
しっかりと、それぞれの授業がみっちりと組まれているのだった。
その中でも、情報の授業中に、事件があった。
「今日は、インターネットについての勉強だ」
情報教師、国山嵐が、授業の冒頭に言った。
「持ってる人のほうが多いと思うが、携帯電話からインターネットにアクセスすることが出来る。そのとき、どのようなことが短時間に行われているかを、これから説明する」
一同は、コンピューター室に集められて、集団で授業を受ける。
だが、時にいたずら好きな人もいて、そんな人がいる授業は、ごくたまにとんでもないことになる。
先生は、ホワイトボードに、簡単な図を描いた。
「いいか。まず、本人がいる。そこから発射される電波は、あちこちにあるサーバーと言われる機械を通って、目的のところに到達する。そこに到達すると、ちゃんとあると言うことを伝える電波が再びあちこちのサーバーを通って、きみたちのところへかえってくる」
そして、図をまとめた。
「じゃあ、試しにやってみよう。すでにパソコンは付いていると思うから、学内ネットワークと書かれているアイコンをダブルクリックだ」
そのとたんに、ネット回線が落ちた。
数分後、授業は口頭や体を使ったものになっていた。
「ネットかなぜ飛んだのか、俺は知らん。だが、その原因だろうと思うことをしたやつは、後で前に来い」
幌たちは、グループを作り、インターネットの実習をしていた。
先生が出した指示は、インターネットを模式的にあらわすことだった。
「そんなややこしい指示をわざわざ出さなくても…」
「でも、これも授業の一環だと思ってやらないと…」
ぶつくさ文句を言っている宮司をなだめていたのは、星井出だった。
「で、どうやって模式的にあらわせって?」
幌が聞いた。
「それは、各班に任せるみたいだよ。自分達は、どうにかして先生に認めてもらうことを目標にしないと…」
最終判断は、常に先生が行っていて、先生が認めてくれないと、欠点になる可能性があった。
さらに、欠点になったときの追認考査のテストはかなり難しく、大学3年で習うようなレベルの問題が普通に出てくるらしい。
「…うわさなんだけどな、追認考査の問題には、習ってないものが出てくるらしいんだよ。それを含めて、60点以上じゃないと認めてくれないんだと」
雅が班の全員に伝えた。
「とまあ、そういうことなんで、がんばらないといけない…めんどー」
その後、15分でインターネットの概念をどうにか理解し、それをレポート用紙に急いでまとめた。
授業が終わる10分前、代表して幌と雅がそのレポート用紙を提出した。
「先生、出来ました」
「1号だな」
それだけ言うと、先生は半ば奪い取るようにして、レポートを見た。
それからギロリとこちらをにらみつけた。
「これを書いた人の名簿は?」
「一番後ろになります」
幌はビビリながら言った。
それから数秒間、本当に時間が止まったかのように長い数秒間があった。
おもむろに机の上において、先生は二人のほうに向かって言った。
「合格だ。チャイムが鳴ったら帰ってもかまわない」
「ありがとうございます」
雅はほっとした表情を浮かべていった。
チャイムが鳴るまでには、どうにか全員がそれぞれの班で作ったものを先生に提出していた。
コンピュータールームから出て、幌は歩きながら伸びをした。
「やれやれ…やっと終わった」
「この時間が一番いやなんだけど、それでもパソコンが好きなんだよね」
幌のすぐ横を歩いている永嶋が言った。
「お前の場合は、部活が好きじゃなくて、一緒に部活しているやつが好きなんだろうが」
永嶋は宮司の言葉に少しばかり反論した。
「そんなんじゃないよ。たしかに山口は好きだし、現在進行形で付き合ってるけど、それは部活で知り合えたからであって…」
「はいはい、そこまでね」
幌がやめさせた。
それから教室に戻って、いつものように授業を受けて、それからそれぞれの家に帰った。
帰り道、少し曇ってきた空を見上げながら歩いていると、幌に呼びかける声があった。
「あ、あのさ…」
幌がその声の主を確認しようと思って振り返ると、琴子がいた。
「どうしたんだ」
幌は琴子に近づいた。
「あの…言いにくいんだけど…一緒に帰ってくれない?」
いつもは大阪弁みたいな口調なのに、急に標準語風のイントネーションになっていた。
「別にかまわないけど…」
それから、幌と琴子は並んで帰った。
バスを降り、電車に乗り込んで数分すると、突然何も無いところで止まった。
車両の中には幌と琴子だけ。
「停止信号です。しばらくお待ちください」
車内アナウンスが、静かに流れる。
「しかたないね」
そういって、1分か2分ぐらい待った。
電車がゆっくりと動き出す。
「動いた」
琴子は、電車に合わせて話し出す。
「…なあ、体育大会の後って、空いてるんか?」
「俺か?一応今のところ、予定は無いはずだけど…」
幌が続いて何か言おうとしたのをさえぎって、琴子が続けた。
「ここだけの話やねんけど、すこし打ち上げをしようと思うんや。来てくれへんか?」
「前にも聞かれた記憶が…」
琴子は幌に迫った。
「かまわへんよな」
幌はうなづいた。
琴子は元の位置に戻って、再び話し始めた。
「体育大会まで、あと5日しかないんやで。何かトレーニングみたいなんしてるんか?」
幌は考えてから言った。
「トレーニングって言うほどでもないけど、家の周りを時々走ってるよ」
幌はさらっと言った。
それから電車を降り、琴子の家の前までくると、琴子が家に入った。
それを見届けてから、幌は家に帰った。