第35巻
第42章 体育大会 〜準備編 放送部〜
体育大会で忙しくなるのは、体育の授業だけではなかった。
部活動対抗と言う裏競技があるのだった。
実際に開催されるのは、体育大会の午後の競技の一番目。
運動部同士が戦う競技だった。
運動部以外で忙しくなる文化部は、放送部などの限られた部活だった。
「と言うことで、10数年のブランクを経て作られたこの部活だけど、資料は情報部と公安部から借りてきました。と言うよりかはコピーしてもらいました」
文版は、放課後の部活のとき、他の二人にそのコピーした紙をみせた。
「ついでに、先生から今年の競技内容ももらってきました。これさえあれば、どうにかなると思うよ」
「うわ…こんなにあるのかよ」
文版の説明を半分聞きながらも、コピーした紙も見ていた。
「ミヤミヤ、ちゃんと聞いてよ」
「はいはい、ちゃんと聞いてるって」
しかし、聞いているようには見えなかった。
「とりあえずさ、パソコンを入れておこうよ。古くてもいいからさ」
とつぜん、宮司が提案した。
「この手書きの文章のすべてを、そっちに落としておけば、どうにかなるんじゃないか?いろいろ便利にもなるだろうし」
「それだっ!」
文版が、指パッチンして宮司の方を見た。
「コンピューター部から古いパソコンを借りればいいんだ。で、部費がついたら新しいのを買って借りたのを返せば、完璧だ…よね?」
二人に確認するような目で、文版は見た。
「私は別にそれでかまわないよ」
「俺もだ」
豆見と宮司は答えた。
「じゃ、今から交渉してくる。二人はそのプリントに目を通しておいて」
文版は、勢いよく部室を出た。
コンピューター室に入ると、山門と鈴が、パソコンを分解しているところだった。
「あ、どうしたの?」
「ノートパソコンか古いパソコンで、『メモ帳』をかけるものはない?」
山門は腕組みをして、考えた。
「ここにおいてあるパソコンだったら、大体使えるよ」
「そっか。そりゃどうも。一つ借りて行ってもいい?」
文版は、キューブ型のパソコンを一台持った。
「いいけど、モニタとかは?」
「それも借りないといけないな…ちょっと手伝ってくれるか?」
山門は、ため息をついて、作業している手を止めた。
「分かった。鈴、そういうことだからちょっと抜けるね」
「分かった」
鈴はそれだけ言うと、再びドライバーを片手に作業を続けた。
文版と一緒に、山門は放送室へ入った。
「どうもどうも。コンピューター部でございます。パソコンの中古を一台お届けにあがりました」
山門は茶化して言った。
「タハハ…」
宮司が、苦笑いをしていた。
そのすぐ横で、豆見がプリントを真剣に見ていた。
「ああ、そのあたり置いておいて」
文版は、山門にそういった。
「コードとかのつなぎ方って分かる?」
文版は、普通に首を横に振った。
「わかんないけど、どうにかなるでしょ」
山門はため息をついた。
「それじゃだめだって。パソコンも生き物なんだから。ちゃんとつないでやらないと」
「じゃあ、この長机を使って。その上にセットしておいてくれる?」
「分かった」
文版にいわれて、山門はパソコンのセットを始めた。
文版は、二人のところへ戻って聞いた。
「で、どう」
宮司が言った。
「どうもこうも、こんなにあったんだって、驚いているところ」
「それよりも、どうにかならないかな。時々読めない字があるんだけど」
豆見からの抗議に、文版は答えた。
「そこは想像力で補わないと。他のところでも読めないのがあったら、前後の文脈から読み取るとかな」
二人が同時に言った。
「そんなことできたら、もうとっくにやってます」
そして、そのまま笑い出した。
文版はやれやれとした顔を見せて、再び山門のところへ戻った。
「どう」
「とりあえず、つくようにはしておいた。キーボードも使えるし、マウスも動かせれるよ」
そういって、文版にパソコンの前に座らした。
「つけ方とかは習ったとおりだから」
「へいへい、ありがとね」
山門は、ちゃんとパソコンがつけられたのを確認して、コンピューター部へ戻った。
こうして、放送部には強靭な助っ人が登場したが、文版と豆見はキーボードのタイピング速度が遅く、しかたがなく宮司がパソコン打ちをしていた。
それだけで、2日間かかった。
「さて、これで舞台は整ったわけなんだけど…」
腕がパンパンにはれている一人の少年をほったらかしにして、文版は冷静に話を進めた。
「誰がどこを読むかって言うことなんだけど、3人しかいないから人数が足りない。そこで、昨日、公安部と情報部に聞いて、当日に手伝ってもらえるかを聞いたところ…」
文版が証拠の品となる念書を2人に見せながら言った。
「無事に許可をもらいました。あ、ちなみに、人数はそれぞれ3人だからね」
文版が人数を指折り数えていた。
豆見が言った。
「じゃあ、合計9人でローテーションを組めばいいのね」
「そういうことね。どうにかなるでしょう」
文版がろくに考えもせずに答えた。
それを聞いて、宮司が答えた。
「どうにかならんだろ。それよりも、その人たちがどの種目に出るかを聞いたか?」
「うん、とりあえずは聞いてきたから大丈夫」
文版がブイサインを出しながら言った。
宮司はそれを見て頭を抱えた。
「それを出したとき、いつも何かしらの失敗があるんだよな…」
外は、徐々に風が強くなっていっていた。