第34巻
第41章 体育大会へ向けて
月曜日、3時限目にある体育の授業で、体育大会の説明があった。
「体育大会は、男女共同で行う。だから、この場には男女に集まってもらったわけなんだが…」
体育教師は、生徒を見回していった。
「自分が出る競技ぐらいは覚えているだろうから、右から順番に、200m競争、200mリレー、2人3脚走、スウェーデンリレー、生徒会種目、棒引き、綱引きだ」
そして、生徒はそれぞれの種目のところへと動いていった。
幌は、生徒会種目のところにいた。
「生徒会種目は、男女一組で行動することになる。それで、たすきの代わりに、黒色と赤色のランドセルを背負ってもらう。どっちがどっちを背負ってもらってもかまわない」
先生は、片手ずつにランドセルを持っていた。
「とりあえず、チーム分けだな。誰か好きなやつと組んでくれ。ただし、同性同士は無しな」
先生は、それだけ言うと、先生同士何か話し合っていた。
他の所も、似たような状況だった。
どこでだれが走るかなど、順番を探しているようだった。
「なあ」
突然、幌は声をかけられた。
琴子だった。
「どうした」
「わてもな、生徒会種目なんや。一緒に走ってくれへんか?」
幌は、頭をかきながら言った。
「まあ、いいけど…」
琴子は、安心したような顔になり、幌にいった。
「そっかー。それを聞いて安心したわ」
そして、琴子は続けた。
「なあ、体育大会の後って、何かするんか?」
「うーん…教室で、何かするかもしれないけど…どうしたの」
幌が、考えた末の結論を言ってから、琴子に聞いた。
「いや、何もない…」
しかし、明らかに何か隠しているようだった。
だが、幌は何も聞かず、黙っていた。
10分もすると、大体のチームに分けられた。
先生も再び戻ってきて、それぞれの説明を始めていた。
「じゃあ、チームに分かれて適当に並んでくれ」
そういわれたから、幌たちは一番後ろに座った。
「えっと…生徒会種目は…」
先生は、何枚もホッチキス止めされたプリントを見ていた。
「あった。生徒会種目は、男女合同2週で行われる。1つのチームで、4分の1週だな。今回は、最初が玉いれ、次にパン食い、3番目がぐるぐるバッド、最後がお姫様抱っこで8分の1週。1週が200mだから、まあ、どうにかなるだろう。ちなみに、そのアトラクションはすべて中間地点にあるから。最期だけはランドセルを受け取った地点からって言うことで、白線が引いてある」
先生は、最初から最後までプリントを見ていた。
「つまりは、みんなで好きに選べって言うことだな。まあ、適当に話し合ってくれ」
先生はそれだけ伝えると、プリントを見ていた。
幌たちは、男女一組になって、どうするかを話し合い、それから全体で集会を開いた。
「…どうする?」
幌が琴子に聞いた。
「せやなー…うち的にはお姫様抱っこが一番やねんけど…ぐるぐるバッドだけは勘弁やな」
「どうして?」
幌は自然に聞いた。
「やって、目が回ってしゃーないやんか。そんな状態で走れってか?アホかいな」
琴子は幌に言った。
「でもさ、それだったら、みんなそう思ってるのじゃないかな…」
「アカン。絶対アカン。ぐるぐるバッドははずしてもらい」
琴子は強く言った。
幌は伝えた。
「分かった。とりあえず、みんなに言っておくよ」
琴子は、ズイッと近づいていった。
「アカンで。ちゃんとそのことを言うって言わへん限り、あんさんは…」
幌は死を覚悟した。
話し合いが終わると、代表が集まって順番を決めることになっていた。
幌は、その話し合いに出かけた。
そういっても、ただ反対方向向くだけだった。
「で、どうなの?」
「えっと…」
男女比率が同率のこの話し合いは、平行線をたどった。
全員がぐるぐるバッドを避けていた。
玉入れか抱っこの二つだけが選ばれていた。
「…さて、これからどうするかだ…」
幌がつぶやいた。
そのとき、一人の女子が手を上げた。
「いいじゃん。じゃんけんしたら」
一同からクレームがついたが、一方的にはじめた。
「さーいしょーはグー。じゃけん、ポン!」
幌は、じゃんけんに勝った。
「やった!」
そう言って、琴子は幌の後ろから抱きついた。
「なっ!」
周りは、一気にざわめいた。
一瞬で冷静になった琴子は、顔を真っ赤にして、下を向いていた。
幌からは離れたが、それでも、まだ抱きつきたいようだった。
家に帰ると、桜が先に帰っていた。
「おかえり」
「ただいま」
靴を脱いで、かばんを部屋に置いて制服を着替えてから、幌はソファーに座った。
すぐ横で、桜がニヤニヤしている。
「…なに?」
幌はため息混じりに聞いた。
「今日の体育のときのこと。どんな関係なの?」
「どんな関係って…単なる友達さ」
「うっそだー!だってさ、体育の授業中に突然抱きつくなんて、そんなこと普通の友達がするとは思えないよ」
幌は、うつむき加減に答えた。
「…そうかもしれない」
桜は急に真剣な表情になって、琴子の事を伝えた。
「あの子、本当は幌のことが好きなんだよ」
さらっと言ったその言葉に、幌は耳を疑った。
「…本当に?」
「本当よ。姉ちゃんがうそついたことある?」
幌はぼそぼそ言った。
「…富士山よりも多いかと」
その言葉は華麗に流されて、そのまま続いた。
「琴子は、夏休みの最後に泊まりに来たでしょ。あの時、そう思っていたの。あの時ぐらいからかな?幌も琴子の事がすきなんじゃないかって、そう話すようになったの。あのときの幌は、不自然だったからね」
「…あのときの気持ちは、単なる善意以上のものって、知っていたの?」
幌は桜に言った。
「そう…でも、その気持ちは向こうも気づいている。問題はきっかけよ。体育大会の後なんて、絶好の機会よ」
桜は、いろいろな妄想…もとい想像が広がっているようだった。
しかし、当の本人たちは、その想像に気づかなかった。
「そういえば、姉ちゃんはどうなったの?」
「私?綱引きと2人3脚よ。2人3脚は、最後から2番目ね。内側が私だから」
「いいポジションをゲットできたって言うことか…」
幌は、どのような手を使ったか分からないが、想像することをやめた。
そして、立ち上がると桜に聞いた。
「今日のご飯、まだ決めてないんだ。何がいい?」
「ミートボール!」
幌は材料を確認に冷蔵庫へ向かった。