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女子高と男子校  作者: 尚文産商堂
誕生日会編
32/688

第32巻

第39章 誕生日会 前編


9月7日になると、突然、電話がかかってきた。

「はい、伊野岳です」

「あ、俺なんだけど…」

幌はその相手に言った。

「俺だけじゃわからないんで、名前を言ってください」

「雅です、陽遇雅」

「あ、雅か。どうした?」

雅は、軽く間をあけてから言った。

「言ってなかったか。明日、俺の誕生日なんだ」

「そうか、初耳だが、おめでとう」

「ありがとう。それでな、明日、誕生日会を開くんだが、来れるか?」

幌はカレンダーを見ながら言った。

「明日は空いてるな。どこなんだ?」

「近くに、公民館があるだろ?そこの2階にあるホールだ。簡単なものだから、ラフな服装できてもらってかまわない。行けるか?」

「大丈夫だ。俺と姉の二人で行くよ」

「ありがと。じゃあ、また明日」

そして、電話は切れた。


幌は受話器を置くと、桜の部屋へ入った。

「姉ちゃん、おきてる?」

「グー………」

寝ていた。

幌は、そっと桜が寝ているベッドに近づいて、耳元でささやいた。

「太古より戴く悪の化身。その者が言った。「そなたは何処より来た」。彼の者は答えず、ただ一言。「我が魂の内側より」。悪はそのものに近づき、一撃を加える。剥がれ落ちる皮膚。徐々に光沢を失いし其の者の眼より、悪に問いた。「そなたは、なぜ居る」。剥がれ落ち行く魂より、悪に問う。悪は、一言。「我の存在は、人がいる限り続くもの」。彼の者は、何処へと向かい、また、去り行く者。深々と刺さるは、悪の刃。鮮血が迸り、あたりを血で染め抜く……」

延々と続くそのような話に、桜は徐々に顔を青ざめた。


数分後、ゆっくりと眼を覚ました。

「おはよう」

「悪夢を見てた……」

みると、冷や汗が、ほほを伝っていた。

「大丈夫さ。それよりも電話。雅が明日誕生日会を開くから、一緒に来てくれって」

「わかった…」

いまだに、呆然としている桜をほっといて、幌はそのまま部屋を出た。


そして、昼食を食べ終わると、早速町へ出かけた。


家の近くにある電車に乗り、行くこと数十分。

繁華街へ到着した。

「ここだったら、誕生日向けのプレゼントも買えるでしょう」

復活した桜をつれて、幌たちは『阪急うめだ本店』にいた。

「かなり高そうだけど…やっぱり『阪神百貨店 梅田本店』のほうが庶民向けじゃないか?」

「『大丸梅田店』もあるけど、ちょっと高級感を演出したかったから、ここを選んだのよ」

桜は、さらっと言った。

「それに、プレゼントは、お金をかけたいし……」

ただ、それ以外の思惑がありそうだったが、幌はあえて聞かなかった。

「じゃあ、何買う?」

幌は、桜に聞いた。

「言っておくけど、二人で1万円までだからな」

「わかってるって」

そういうと、二人は建物の中に入った。


「雅のほうからプレゼントを買いたい」

桜はそういうと、幌を引っ張っていった。

「やっぱり、こんなのかな…」

その眼は、真剣そのものだった。

「何でもいいけど、二人で1万円だって言うことは忘れないように」

「わかってるって」

そういいながらも、見ているのは、1万円を超えている商品ばかりだった。


十数分かけて、結果的に決めたのは、『コンフォートQ』に置いてある『[Rorstrand]Teacup & Saucer』だった。

お値段は、税込み5250円。

「残り4750円か…」

幌は、財布の中に残ったお金を見ながらつぶやいた。

「いいじゃん。要は気持ちなんだよ」

すぐ横で、プレゼント包装をしてもらった箱を持った桜がいた。

「とにかく、女の子がもらって喜びそうなものを探さないと…」

幌は、座っていたベンチから立ち上がり、颯爽と歩き出した。


向かったのは、『RMK』だった。

化粧品を主として取り扱っている店で、幌は、ここだったら、琴子が気に入りそうなものがあると思ったからだ。

「えっと…これがいいかな?」

手に取り、じっくりと見る。

すぐ横では、琴子の友人である桜が意見を言っていた。

「どうだろう…それよりかは、こっちのほうがいいかな?」

そんなこんなで、30分以上をかけて、幌が買ったのは『ハーブミスト N』の『リフレッシングイタリアンレモン』だった。


「これで、喜んでくれるかな…」

帰りの電車の中で、プレゼント包装をしてもらった箱を抱え込みながら、幌が考えていた。

「いいんじゃない?」

桜が言った。

「女の子って言うのは、好きな人からもらったものなら、とても強く印象に残るものなんだからね」

「それって…」

幌は桜のほうを見たが、桜は寝ていた。

幌は、首をかしげながら、前をぼんやりと見ていた。

すぐ横で、桜が細めで見ているのにも気づかずに。

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