第313巻/外伝9話目
山口鈴はその日、晩御飯を両親や妹の千夏と一緒に食べていた。
「それで、鈴は高校をどこに行くかを決めたのか?」
鈴の父親が唐突に聞く。
「ええ、お父さん。近くにある、手野町市立高等学校へ」
「公立に行くのか」
父親は、少し驚いているようだ。
「ええ。そこに行こうと考えています」
「しかし、どうして。私立でも十分いける成績も、財力もあるのだぞ」
「だからこそです。必要なのは、誰もが何を欲しているのかを知ること、ですね」
その言葉は、山口財閥の創設者である山口功が創設した時に語ったという言葉だ。
今では、家訓のように扱われている。
なお、山口功は、鈴から見て、高祖父にあたる。
簡単に言えば、ひいひいおじいさんだ。
「……なるほど、その中に身を置いてこそ、何か新しいものも見えてくるということか」
「ええ、お父さん」
鈴が答えると、父親は近くにあったコップを手に取り、ワインを4分の1ほど入れ、それを飲み干した。
「わかった。好きにしたらいい」
母親が何かを言おうとしたが、父親は止めた。
「鈴がしたいようにすればいい。だが、人倫に反することは、決してするな」
「分かっております、お父さん」
こうして、鈴が手野高校に通うことが決まった。




