第310巻
高校からほど近い公園。
「…桜か」
3月31日。
今年の年度末、彼はそこにいた。
「あれ?」
声をかけてくるのは、さわやかな春の装いをしている二人の男性だった。
彼を見つけると、歩を速めて近寄る。
「原洲か、どうした」
原洲甲中が振りかえると、そこには、荒田卿弥と海田大洋がいた。
「おう、二人こそどうしたんだ」
原洲の手にはスコップが握られていて、桜の根元には小さな箱が鍵をかけられて置かれていた。
「今日が高校生最後だから、どこぞへ遊びに行こうかと思ってな。何してるんだ」
「タイムカプセル。鉄の箱にさ、10年後の俺にあてた手紙を書いて埋めてみたんだ」
原洲が箱を指さしながら言う。
「面白そうだな」
「メモ帳、あるか」
荒田と海田は、互いに言い合いながらさらに原洲による。
「ペンならここにあるぞ」
笑いながら原洲が二人に黒ボールペンを渡す。
メモ帳は荒田がもっていた物を渡すことになった。
「よっしゃ、これでいいだろ」
二人はほとんど同じ時に声を挙げた。
「んじゃ、これに入れてくれ」
箱はすでに鍵が開けられていて、中にはA5サイズの紙と流行りのネックレスが入れられている。
「封筒がいるか……」
そう言ったが、それはもっていない。
「そのまま入れろよ。筆跡で分かるだろ」
原洲が言うが、念のために手紙の裏面に名前を入れておくことにした。
「じゃあ入れてくれ」
二人で一緒に箱の中に入れ、原洲が鍵をかけた。
「これでしっかりと閉まったな」
しっかりと閉まったことを確認させる。
そして、ガムテープでさらに隙間を埋める。
「よし」
確認してから箱を、桜の木の根元の穴に入れて、上から土をかぶせた。
「10年後、どうなっているかは分からない。でも、3人のうち1人は生きているだろうから。できれば3人とも、10年後の3月31日、ここに集まってこのタイムカプセルを開ける」
「おう、開けよう」
3人はそれからしっかりとタイムカプセルの箱を土に埋めて、まとまって高校生最後の日を満喫するため、遊びに出た。