第31巻
第38章 体育大会選手決め。及び将来の行き先
翌々日、6時間目。
幌の教室では、体育大会の概要が説明されていた。
「えー、体育大会は、男女混合で行われます。種目によっては単独で行なう合いもあるが。種目と人数は、黒板に書いておくから、それを見て判断してくれ。期日は、今週の金曜日。つまりあさってだな」
そういうと、高啓先生は、黒板に猛然と書き出した。
・200m競争…4名
・200mリレー…8名
・2人3脚走…4名
・スウェーデンリレー[200m1名・300m・2名]…6名
・生徒会種目…8名
・棒引き…6名
・綱引き…15名
・大縄跳び…全員
書き終わると、先生は教室の隅のほうに、いすを引っ張ってきて、そこに座った。
生徒は、黒板に向かって、自分の名前を書き始めた。
10分後。
とりあえず、一人1種目は確定していた。
幌は、どうにか生徒会種目にもぐりこむことができた。
「残ったのは、綱引き3名と、スウェーデンリレー300m2名、棒引き6名、綱引き3名か…」
担任が、黒板の前に立って、見ながら言った。
「よっし!じゃあ、みんな立て」
高啓はそういうと、教室にいた生徒全員を立たせた。
「俺に負けたやつは立ち続けろ。勝ったら座っていい。最後まで立っていたやつが、残った競技に出場しろ。さーいしょは、グー。じゃんけんポン!」
唐突に始まったじゃんけんだったので、ほとんどの人は準備できずに負けた。
数回にわたるじゃんけんの後、幌たちはどうにか勝つことができた。
しかし、宮司は、棒引きと綱引きに出ることになった。
一方の桜側も、体育大会の相談をしていた。
「運動会は、男子校側のグラウンドを使って行います。競技内容も男子校側と同じ内容に設定されていますが、スウェーデンリレーのみ、女子は100m2名、200m1名となります」
同じように黒板に書かれていた。
そして、同じように、生徒が黒板にあふれた。
桜は、結果的に、綱引きと2人3脚に出ることになった。
そして、その日の放課後。
桜は鈴と一緒に図書室にいた。
鈴が来てほしいと言ったからだ。
「あった。これですよ」
鈴が桜に見せたのは、大学の本だった。
「『大学入試シリーズ』?」
「そうです。『図書出版 教学社』発行のいわゆる赤本です。前に言いましたよね、わたくしには、いきたい大学があると」
桜は、その大学名を読んで驚いた。
「それって…」
「そうです、『国立大学法人 大阪大学』です。そこの、法学部にいきたいのです」
「阪大の法学部って、かなり難しいって聞くけど…」
しかし、鈴は、決意をなみなみと湛えていた。
「しかし、わたくしは行きたいのです。どうしても、なんとしても」
「まあ、それだけ決意が固いのだったら、私も何も言わないけど…でも、ほかの大学はどうするの?」
鈴はあっけらかんと言った。
「考えていません」
あまりにもきっぱり言い切ったので、桜は、何もいえなかった。
「それでは、帰りましょうか。本日は、ご一緒に来てくださり、ありがとうございました。また、いずれこの恩を返すときがくるでしょう」
桜はそれを聴いてから、もう一度言った。
「本当に、その大学だけ受験するでいいの?」
「わたくしに、滑り止めは不要です。仮に受けてしまうと、心に隙が生じてしまい、結果的に両方とも落ちてしまうかもしれません。ですから、わたくしは、滑り止めは受けません」
凛とした態度で言い切った。
桜は、何も言わずにうなづいた。
そして、家に帰ると、幌が本を読んでいた。
「ただいまー……」
桜は、返事が無いのでどうしたのかと思うと、幌が本を読んでいたので、少しいたずら心が芽生えた。
こっそりと背後に忍び寄ると、一瞬で大声を耳元で出した。
「わっ!」
幌は、本当に飛び上がってびっくりした。
「あっはっは!」
桜は、笑った。
しかし、幌は心臓を押さえていた。
「し、死ぬかと…」
「それぐらいで死にはしないって」
桜は、幌のすぐ横に座った。
「そうだ、ひとつ聞きたいんだけど…」
「どうした?」
桜は、図書室でおきたことをそのまま話した。
「…確かに、大阪大学法学部に行きたいって、そういったんだな」
「そうよ」
幌は、少し考えてから言った。
「『国公立大学偏差値ランキング』っていうサイトがあるんだけど、そこによれば、大阪大学法学部は、国公立大学中3位の66と書かれているんだ。『一橋大学』と同じ偏差値って言うことになる」
桜は言った。
「66って…じゃあ、1位はどこ?」
「『東京大学』。偏差値は69。ついでに2位は『京都大学』の68って書いてあるね」
幌は、携帯で確認をしながら言った。
「やっぱり、国立大学は違うねー」
「そりゃ、そうだけど。でも、『GMARCH(Gマーチ)』とか『関関同立』とかはもう受けないって言うことだね」
幌が桜に聞いた。
しかし、桜は問い返した。
「何それ。私聞いたこと無い」
「関西圏に住んでいる限り、関関同立は聞いたことがあると思うけど…まあいいや。関西圏、関東圏の大学の頭文字を集めたスラングだよ。関関同立は、関西圏にある『関西大学』・『関西学院大学』・『同志社大学』・『立命館大学』の総称。他には『産近甲龍』と言われる『京都産業大学』・『近畿大学』・『甲南大学』・『龍谷大学』や、『摂神追桃』と言われる『摂南大学』・『神戸学院大学』・『追手門学院大学』・『桃山学院大学』があるんだ。一方のGMARCHは、『学習院大学』・『明治学園』・『青山学院大学』・『立教大学』・『中央大学』・『法政大学』の総称で、Gはここ最近入り始めたね。他には『早慶上智』と言われる『早稲田大学』・『慶応大学』・『上智大学』、『大東亜帝国』と言われる『大東文化大学』・『東海大学』・『亜細亜大学』・『帝京大学』・『国士舘大学』または『國學院大學』や『関東上流江戸桜』と言われる、『関東学園大学』・『上武大学』・『流通経済大学』・『江戸川大学』・『桜美林大学』があるんだけど、この場合には、『東京国際大学』や『東京経済大学』が入っていると言う説もあるんだね」
桜は、目を宙に泳がせながら答えた。
「長ったらしい説明、どうもありがとうございました…」
幌はさらに続けた。
「他にもあるよ。『東京六大学』と言えば、『早稲田大学』・『慶應義塾大学』・『明治大学』・『法政大学』・『立教大学』・『東京大学』のことだし、『関西六大学』と言えば、関関同立に京都大学・『神戸大学』を加えたものになるね。『日東駒専』と言えば、『日本大学』・『東洋大学』・『駒澤大学』・『専修大学』。『東京四大学』となると、『学習院大学』・『成蹊大学』・『成城大学』・『武蔵大学』となるね」
「うん、よくわかったから」
桜はさらに何かを言おうとしている幌をあわてて止めた。
「そう?」
「大丈夫、ね」
幌は、結局黙った。
「で、大阪大学って言ってたよね」
「そうよ、旧制帝大のひとつの、あの大阪大学よ」
幌は、言った。
「旧制帝大ってよく言われるけど、それってどの大学か、わかってる?」
「別にいいじゃないの。あれでしょ?第2次世界大戦が終わる前にできた大学じゃないの」
幌は指を左右に振った。
「違うよ。正確に言えば、第2次世界大戦が終わる前に、政府が帝国大学令に基づいて作った大学のこと。ちなみに、旧制大学って言うと、大学令に基づいて、政府が大学設置を認めた大学になるんだ。だから、旧制大学と旧制帝大は、まったく別物なんだ」
「そうなんだ〜」
桜は、驚いた。
「でもさ、何でそんなに知ってるの?」
「『旺文社』が出している『蛍雪時代』や、ネットのサイトを読んでるからさ。あちこち読んでおくとこんなときにどうすればいいかって、自ずから道が決まるんだよ」
「さすが幌!私の弟だよ」
そういって、頭をなでようとすると、軽くはたかれてそのまま幌は部屋へ戻っていった。
「あちゃー。また失敗かー…」
桜は、そういって、何か考えてから部屋へ戻った。