第307巻
3学期の後半、卒業式が行われた。
料理部には、なぜかいろんな部活が入り混じっていた。
幌の噂を聞きつけて、打ち上げのご飯を作ってもらっていたのだ。
「去年よりも多いねぇ」
のんびりとした口調なのは、卒業した原洲だ。
「部長はゆっくりとしといてくださいね、今日は部長が主賓なんですから」
幌がフライパンをあおりつつ、調味料を的確に目分量で入れていた。
「しかし、卒業って感じがしないなぁ」
原洲がぼんやりと言った。
「確かに、いなくなるって感じがしませんね。なにかにつけて遊びに来そうですし」
「そりゃ、幌の飯が食えるのなら、火の中水の中」
「そんなところでご飯は作りません」
幌ははっきりと言った。
それから30分、チャーハンや唐揚げやてんぷらやお茶まで揃えたら、その場にいた全員にいきわたるようにした。
なにせ、噂を聞きつけたアニメ研究部と運動部以外の部活がそろったのだ。
そのせいか、お皿が足りなくなっていたが、紙のお皿を買ってきてなんとかしていた。
在学生を代表して、公安部の部長になった氷ノ山が卒業生たちに話した。
「卒業、おめでとうございます。公安部次期部長の氷ノ山亜紀留です。卒業をしていく先輩方がいなくなるのは、寂しさ限りないですが、いつでも遊びに来て下さい。では、乾杯!」
乾杯と言っても、幌が入れたお茶だ。
「かんぱーい」
声が飽和して、部屋中に響き渡る。
それが鎮まるよりも速く、誰もが幌のご飯を食べ始めた。
それから1時間、すっかり寂しくなった料理部の部室では、原洲も手伝って後片付けをしていた。
「…卒業ですか」
「そうだね」
幌が静かに原洲に話しかける。
「…いつでも来てもいいですからね」
「分かってるさ」
「とはいっても、余りこられ過ぎても困りますけどね」
笑いながら、幌は原洲に言った。
「そうだな」
原洲も笑いながら答えた。