第30巻
第37章 1年生2学期始業式
9月1日。
幌は家で起きていた。
ベッドから転げ落ちており、ベッドの上には雅が寝ていた。
時計を確認する。
7時になったばかり。
「そっか…準備しないと…」
幌は立ち上がり、ゆっくりと部屋を出た。
30分ほどすると、桜と琴子が起きてきた。
「なんやー?えー匂いがするな〜」
「おはよう。今、朝ご飯作ってるとこ。もうちょっと待って」
そう言いながら、フライパンを細かくゆすっていた。
「何作ってるの?」
桜が、眠たそうに聞いた。
「スクランブルエッグとハムだね。ちょっと軽めだけど、大丈夫?」
「全然平気」
琴子は、すぐにテーブルに座った。
15分ほどすると、雅も起きてきた。
「おはようー…」
「おはよう。そこの空いた席に座って」
幌は、菜箸でテーブルのすぐそばに置いてある椅子を指した。
雅はそのままその椅子を持ってきて、座った。
5分ほどしてから、フライパンを持ってきて、それぞれの前に置いてあるさらに、等分して盛り付けた。
「いただきまーす!」
それから、黙々と食べ続けた。
8時になる少し前に全員食べ終わり、制服に着替え始めた。
「これ着るのも、久し振りだね」
「ネクタイの締め方って、どうやったっけ?」
男は幌の部屋、女は桜の部屋でそれぞれ着替えていた。
10分後、再びリビングに集まり、それから学校へ向けて出発した。
女子高では、まだ早い時間にもかかわらず、大体教室にそろっていた。
「おはよー」
「おはようございます」
教室に入ってきた桜たちに、いつもの通り挨拶をする、いつもの人たち。
「どうでした?」
「ようやく、間に合ったんやけど…」
琴子は、少し考えてから言った。
「宿題、忘れとったんや」
「あらら、そりゃ駄目だね」
氷ノ山がそれを聞いて言った。
「でもな、それは今日のやなかったんや。せやから、まあ、よかったんやけどな」
琴子が、腕組みをしながら答えた。
「みんな、ちゃんと宿題ってしてきたの?」
桜が、そこにいた人たちに聞いた。
「当然でしょ」
「……」
周りが、普通に言っている間に、氷ノ山が黙っている。
「どうしたの?」
「…今日提出の、寮に忘れてた……」
「いいじゃん、寮だから近いでしょ」
文版が言った。
「そうそう、家が遠い人が忘れたら、それこそ悲劇だもんね」
桜が、続けて言った。
「そう言えば、山口はどうなの?」
鈴は、きょとんとした顔をして桜を見ている。
「どうなの、とおっしゃられると?宿題はちゃんと持ってきました」
「ああー、違うって。永嶋との関係だよ。ちゃんと、成り立ってるの?」
桜が、興味津々な顔で聞いた。
「ええ、ちゃんと成立していますよ。本日も、永嶋さんのお宅より通学をさせていただきました」
「そうか、そうか。じゃあ、大丈夫だね」
氷ノ山が、ほっとした表情で言った。
「心配は、無用です。わたくしは、ちゃんとやっていく自信がありますので」
鈴は、自信満々に言い切った。
男子校では、男子同士が集まり、こちらもいろいろと話していた。
「夏休み中、何やってた?」
幌が、その場にいる仲間たちに聞いた。
「宿題。『即戦ゼミ3 大学入試英語頻出問題総演習|(即ゼミ)』をしてた」
雅が言った。
「花火見てたな。父さんの実家が、『宝塚市』にあるんだけど、そこを流れている『武庫川観光ダム』で『宝塚観光花火大会』を見に行ってた」
「山口のところで見た花火と比べて、どうだった?」
山門が聞いた。
「どうだろ。若干、こっちのほうが豪華だったかな?」
「と言うよりか、比べる対象を間違えてるような気が…」
すぐ横で話を聞いていた星井出が、ぼやいた。
しかし、その発言は完全に流された。
「花火大会といえば、関西地域じゃ『教祖祭PL花火芸術』、『なにわ淀川花火大会』とか、たくさんあるな。夏と言えば、花火!日本人として常識だろ?」
雅が言った。
「まあ、ここ最近は花火を見ない人もいるし、テレビで見る人もいるから、一概にそうとは断言できないんじゃないかな…」
幌が、雅に言った。
「でもさ、夏祭りとかもあるだろ?神社や町内会主催の」
雅のすぐ横に立っていた山門が言った。
「そうだな…だけど、このあたりって、神社とかあまり無いからな…」
幌が少し考えながらいった。
「両親は、今年もほとんど海外に行っていたし、じっちゃんとばっちゃんが住んでいる周りには、『伊勢神宮|(豊受大神宮)』があるけど…」
「お祭りは無かったんだ」
雅が聞いた。
「そうなんだよ。でも、『式年遷宮』の準備光景を見ることならできたけどな」
いっせいに聞いた。
「式年遷宮って?」
幌が説明をした。
「昔からずっと続いているお伊勢さんの行事の一つ。20年に一度、そっくりそのまま新築しなおす行事のこと。今回で62回目なんだって」
宮司が、すぐさま計算をする。
「と言うことは、62かける20だから、最低でも1240年前からあるって言うことか」
「式年遷宮自体はね。でも、お伊勢さんができたのは、約2000年前。内宮さんができてからっていうこと」
「かなり長いね…2000年前って、何時代?」
雅が聞いた。
「弥生時代になるね。だから、式年遷宮のほうを元に計算したほうがいいと思うよ」
そのとき、チャイムが鳴り、校内放送があった。
「えー、この9月1日と言うのは、2学期と言う、新たな始まりの日であり、生徒の諸君は、まだ夏休み気分が抜けないと思うが……」
2学期の始業式。
延々と聞きたくも無いと思う、つまらない校長の話を聞かされ、校歌を歌い、再び教室へと戻った。
宿題を提出し、明日からの日程を聞かされた。
「明日は、実力テストがあるからな。英語、国語、数学。それ以降は通常授業の準備をしてくること。それから、あさってには体育大会の選手決めもあるからな」
幌のクラス担任の高啓先生が、クラスのブーイングを盛大に受けながら言った。
「わかった、分かった。そんなに嬉しいのか」
誰かが言った。
「別に嬉しくなんてないっすよ」
「まあ、冗談はさておき」
先生は、軽く流した。
「体育大会の選手について、詳しいのは、あさってのLHRのときに言うからな。自分が、どれがあってるかをよく考えることだ。じゃ、解散」
先生は、それだけ言うと、真っ先に帰った。
幌は、家に帰ってソファーに寝転がった。
「自分に合った種目って、どんなんだろう…」
そのとき、桜が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
すぐに、幌が寝転がっているソファーに向かい、覗き込んだ。
「どうしたの?」
「体育大会の選手決めがあさってで、本番は月末。どれに出ようかって思ってね」
幌は、すぐに答えた。
「なーんだ。じゃあ、生徒会種目にでたら?一番楽らしいし」
「今年の種目って何か分かってるのか?」
幌は起き上がってたずねた。
「クラスに、2年先輩に姉がいる人がいてね、その人に聞いたんだ。ほとんど種目は変わらないらしいんだけど、内容が変わるらしいの」
幌は聞いてみた。
「じゃあ、去年の生徒会種目って?」
「男女2人一組になってするらしいの。200mトラックを4つに分割して、スタートから1つ目が、25mのところにある麻袋の中に両足を入れて、こけないようにしながら次の走者のところまで飛び続けるの。2つ目には、25m地点に小麦粉が入った箱が置いてあって、その中に手を使わずに中に入っているあめを食べて、次の走者にリレーするの。3つ目は、小さくちぎられたマシュマロがスタート地点にあって、それを、女子側が投げて、男子側が口で受け止められたら手をつないで、受け取れなかったら、男子が女子を背負って走るって言うこと。4つ目にあるのが、スタート地点に封筒があって、その中に書かれた格好をすることって言うこと。それを2週、男女計8人が出ることになるらしいの」
「4つ目の格好って、例えば?」
幌は、桜に聞いた。
「いろいろあるらしいよ。例えば、男子が女子の制服を着たり、逆にメイド姿になったりとか。封筒の中に、男女どちらが何を着るかって言うところまで書いているらしいから、それに従ってくれって言うことらしいの」
「なんだか大変だな…ゆっくり考えるとするよ」
そういって、立ち上がろうとした。
そのとき、桜が言った。
「…ねえ」
「ん?」
幌は、立ち上がって振り向いた。
「男の人ってさ、やっぱり、女の子から贈り物とかされると、嬉しいの?」
幌は、突然のことで面食らった。
「え…?」
「………」
気まずい沈黙。
そして、先に口を開いたのは、桜だった。
「なんでもないっ!」
そのまま、部屋に戻ってしまった。
幌は、呆然とそこに立ち尽くすしかなかった。