第29巻
第36章 夏休み 〜最終日編 文版家/氷ノ山家/星井出家+宮司〜
「ふぁ〜〜〜〜」
大あくびをしているのは、寮に戻ってきた文版だった。
「どうしたの?」
「あまり昨日寝てなくて…」
相部屋の氷ノ山が、文版に聞く。
「昨日まで、実家に帰ってて、全部親がやってくれてたから…」
机と平行におかれている2段ベッドの上から、顔を覗かしていた。
枕を、ぎゅっと抱きしめていた。
「あー、そういうことね。まあ、大体分かるけど…」
その時、部屋の戸が開いた。
「つまりは、体重でも増えたっていうこ…」
入ってきた宮司の顔面には、枕がめり込んでいた。
「まったく」
氷ノ山は、冷静に受け止めていた。
文版は、ベッドの上から睨みつけていた。
「だーれーがー、太ったですってー?」
宮司は、枕をとりながら答えた。
「別にそんなこと言ってないだ…」
次は、本人が飛んできた。
あちこちにバンソウコを張りまくった宮司ができたのは、10分ほどしてからだった。
「なんで、俺まで…」
一緒に来ていた星井出も、一緒に殴られていたらしい。
2人とも、満身創痍で部屋へとはいってきた。
「同罪!」
文版は、かなり怒っているようだった。
「ところで、なんで二人来たの?」
氷ノ山が、聞いた。
2人は、同時に答えた。
「暇だったから」
「ソウデスカ…」
氷ノ山は、とりあえず、口に出した。
そして、男子は2段ベッドの上へ、女子は椅子に座った。
「でも、さっきのは宮司が悪いよ。女の子に体重の話をするのは、デリカシーがない人だと思われて、嫌われる原因になるんだよ」
氷ノ山が、二人に言った。
「今後は注意します…」
2人とも、そのことは痛いほど分かっていた。
2人は、それから部屋を見回した。
「寮の部屋って、男子も女子も同じなんだね」
宮司が、言った。
「そうなんだー。じゃあ、今度男子寮に遊びに行っても大丈夫?」
「…規則に反しない限りな」
文版が言った言葉に、すこし考えてから答えた。
「結構きれいなんだな、俺たちの部屋と違って」
「…計画変更。ゴミ袋持って遊びに行くわ」
氷ノ山が言った。
「ついでに、部屋の掃除も頼むよ」
星井出がそう伝えると、女子2人は、顔を見合せて再び言った。
「…やっぱり、やめとこうか」
「そうね。片づけるのって、結構面倒だし」
男は、聞いて話し合った。
「少しぐらいは、片づけておいた方がいいみたいだな」
「だな。帰ったら、大まかに片づけておこう。いつでも来れるように」
「だな」
2人は、そう結論付けた。
それから、1時間弱。
4人は、適当に話し合っていた。
いろいろなこと。
ただ、暇だったからという理由以外にも、何かありそうだった。
ふと、星井出が腕時計を見た。
「あっと、もうこんな時間だね」
「じゃあ、もうそろそろ…」
星井出と宮司は、2段ベッドから降りて、扉を開けた。
「じゃ、また」
「うん」
文版と氷ノ山は、手を振って、見送った。
扉が閉まってから、部屋に残された2人はため息をついた。
「…やっぱり、だめなのかな……」
「あまり気にしていないような、そんな感じだったよね」
氷ノ山は、机に教科書などを広げていた。
そのすぐ横では、頭を抱えた文版がいた。
「やっぱり、四六時中気になるって言うのは、相手のことが好きだって言うことだと思うんだけど、相手が、好きだって言うことを確認することができないから…」
「じゃあ、聞けばいいじゃん。ストレート、直球勝負」
氷ノ山が文版に言った。
「私のことが、好きですかって?そんな急に聞かれても答えられないと思うな…」
「じゃあ、その逆は?」
「逆?」
文版は、氷ノ山にすぐに問い返した。
「そ、私はあなたが好きですって。そう言えばいいんじゃない?」
文版は、指をもじもじさせて考えている。
「でも…」
「恋は、突撃よ。戦争よ」
そう言いながらも、氷ノ山は続けた。
「でもね、心の準備がないと、どうしようもないわね。だから、突撃をかけながらも、外堀を少しずつ埋めていくことが大事よ」
文版は、すっかり考えていた。
一方、女子寮から出て、すぐ横にある男子寮に帰っている二人も、同じような状態だった。
「…つまりは、お前は氷ノ山に恋してるって言うことか?」
星井出がうなづいた。
「ったく。じゃあ、男は度胸だ。突撃をかけてみるか?」
「それで玉砕したらどうするんだよ。立ち直れなくなるかもしれないし…」
宮司は、考えた。
「じゃあ、ちょっと誰かに聞いておこうか。明日は始業式だから、幌にでも聞けばいいだろうよ」
「そっか…」
星井出は、ただ、空を見上げていた。