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女子高と男子校  作者: 尚文産商堂
夏休み 最終日編
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第28巻

第35章 夏休み 〜最終日編 永嶋/山口家〜


鈴は、この日、永嶋の家に遊びに来ていた。

最終日ぐらい、好きな人と一緒にいさせてほしいという願いからだった。

「こんな家なんだね…」

彼女の家から見るとかなり見劣りするようだが、そのことを一切出さず、とりあえず、家の玄関から一通り見て回った。

「ま、ゆっくりしてってよ。今日は帰らない予定なんだろ?」

「とりあえずは、ね。荷物も持ってきたし、今日は永嶋くんちに泊まる予定だもんね。ところで、おうちの人は?」

永嶋は、返した。

「今は買い物に行ってるよ。まだ、お昼を少し過ぎただけだしね」

そう言いながらも、永嶋は鈴の荷物を持った。

「あ、ありがとう…」

「いいさ。鈴の部屋はこっちだよ」

永嶋は、鈴の左手を引いて2階へと案内した。


2階には、3つほど部屋があり、その中でも一番広い部屋、大体14畳ぐらいの部屋に、連れて行った。

「普通なら、客間を使ってもらうんだけど、ちょっといろいろ散らかっちゃっていて、代わりにこの部屋を使ってほしいんだ。いいかな?」

「わたしはいいわよ」

「そう。それを聞いて安心した。自分は、すぐ隣の部屋にいるから。あ、それと、この部屋を好きなように使っていいからね」

それだけ言うと、いったん二人は別れた。


夕方になるにつれて、親が帰ってきた。

「ただいまー。あれ?」

「おかえり」

山門が家族を出迎えると、妹も一緒だった。

「おにーちゃん、帰ってたんだ」

「そうさ。悪いか?」

「べーつーにー」

山門の妹である、華音(かのん)が、とりあえずな口調で言った。

「で、おにーちゃんの彼女っていう人を連れてきたの?」

上の方で、重いものを取り落とす音がした。

続いて、とたとたという少し小走りに走る音。

「上で歩いている人が…」

「そ。俺の彼女の、山口鈴だ」

2階を見ている華音に、山門が言った。

数秒後に、玄関から見える位置にある2階の手すりから、鈴が顔を出した。

「高いところから失礼します。山口鈴です。よろしくお願いします」

「あ、こちらこそ、お願いします」

反射的に、山門の両親が返事をした。

「あー、鈴さんは部屋に戻っていもいいですよ。ちょっと、山門と話があるんで」

「はぁ…」

それだけ言うと、鈴は部屋へ戻った。

山門は、1階のリビングに、他の3人とともに連れて行かれた。


机を囲むように置かれた椅子に座った山門を除く3人は、開口一番、こう聞いた。

「あの子とは、本当に彼女なのか?」

山門は、すこし驚きながらも言った。

「そうだけど…」

山門がそう答えると、華音が、何度かうなづいて答えた。

「そうかー。おにーちゃんにも、ようやく彼女ができたんだ」

「なんだよその発言」

山門が、華音にそう突っ込むと同時に、両親が話した。

「…もしかして、山口というのは、あの…?」

「そうだよ。ちょっと前に、組織ごと変更した「山口コーポレーション」令嬢、山口鈴だよ」

両親は、顔を見合わせた。

「ということは…」

「私たち、そんな庶民とはかけ離れた人たちと相手をしなきゃならないっていうことよね…」

「いーんじゃない?楽しそうだし。それに、おにーちゃんと意気投合できるって、それはそれで珍しいと思うよ」

妹が、そっけなく言い切る。

山門は、とりあえず言った。

「そこまで構えなくても…鈴は、普通の女の子だから、普通にしていれば問題ないよ。ところで、今日のご飯は?」

山門が、少し緊張気味の両親に言った。

「あ、そうそう。今日は、大和が好きな子を連れてくるって言うから、ちょっと奮発して『神戸牛』180gステーキよ」

「また、高級なものを…」

山門が呆れていると、華音が言った。

「じゃあ、私山盛りでー」

すると、山門が突っ込んだ。

「おまえ、そのままいったら太るぞ」

「太らないもん!ちゃんと、このスレンダーな体型を維持するもん!」

膨れて言った。

「はいはい」

山門は、そう流してから立ち上がった。

「じゃあ、俺は戻ってるよ。何かあったら、また呼んで」

「わかったー」

山門は、リビングに残ったままの3人を残して、そのまま上に登った。


2階に上がると、鈴が部屋にあった椅子に座って何か聞いていた。

「何聞いてんだ?」

山門が聞くと、ビックリしたらしく、椅子から数センチほど体が浮かんだ。

そして、イヤホンを外した。

「ああ、なんだ山門か」

鈴は、ほっとしたように『iPod』を止めた。

「何聞いていたんだ?」

「『初音ミク』よ。なかなか面白いの」

「へー」

鈴は、イヤホンを山門に差し出した。

「聞いてみる?」

「いいのか?」

そう言いながらも、イヤホンの片方を受け取り、耳に入れた。

『螺旋迷宮〜Spiral labyrinth〜』だった。

「なかなかいい曲だね」

「でしょー」

2人は、ひっつきながら、曲を聴き続けた。


ミクの曲ばかりだった。

だが、二人にはそんなことは関係ない。

一緒にいるだけで幸せなのだから。


そして、ご飯を食べる時間になり、2人は下に降りた。

「いだたきます」

テーブルに並んだご飯の前で、椅子にすわり手を合わせた。

ご飯を食べ、一口、ステーキを食べた。

「どう?」

心配そうに、母がのぞきこむ。

「とても美味しいです。ありがとうございます」

深々と頭を下げたのを見て、母があわてて返事をする。

「あ、いえ。こちらこそ。お口にあって何よりです」

そして、二人とも、突然笑い出した。

あとの3人は、そのことが理解できなかった。


「ごちそうさまでした」

鈴が、手を合わせて席を立った。

「お粗末さまでした」

一足先に食べ終わっていた母が、すでに食器を洗い始めていた。

そこへ、鈴が皿をもってきた。

「あら、そのままでもよかったのに」

「いいえ、何かお手伝いさせてください。ただ、あまり慣れていませんが」

そう言いながら、母と鈴は仲を深めているようだった。

そのすぐ横で、山門と父と華音が、それぞれ話していた。

「どうすれば、あんな子と付き合えるようになるの?」

華音が、山門に聞いた。

「偶然の産物さ。趣味が同じような人たちが、同じ高校に通うようになって、ふとしたきっかけで付き合うようになる。よくある話さ」

山門は、さらっと言って、お茶を啜った。

残った二人は、口をそろえて言った。

「いや、そうそうある話じゃないし」


その日の夜、鈴は山門と一緒にいた。

「ねえ、何を読んでるの?」

山門は、パソコンの画面をずっと見ていた。

「ああ、企画小説だよ」

「企画小説?」

「そう」

山門は、鈴にその画面を見せた。

「これは、『春・花小説企画』って言う企画。で、こっちは『桜咲く木の下で』っていう企画だよ。どっちも、尚文産商堂が執筆者として入ってるんだ」

「その人知らないけど、小説は好きよ」

鈴が山門にそういったが、それでも、小説を見ようとしていた。

「ねえ、まだ投稿されてないみたいだけど…」

「そりゃそうだよ。なにせ、2009年4月1日〜15日までに投稿されるからね。それ以前に読もうと思っても、投稿されてないよ」

「なーんだ。で、他にはどんな人が出てくるの?」

「『春・花小説企画』には、『文樹妃』さんが主催で、『愛田美月』さん、『藤夜要』さん、『松果』さん、『青柳朔』さん、『光太朗』さん、『黒い夢』さん、『鋼玉』さん、『梶原ちな』さん、『上宮穂高』さん、『金本ちはや』さん、『くずりんご』さん、『早村友裕』さんが出る予定だね。もう一方の『桜咲く木の下で』の方は、『聖なる写真』さんが主催で、『卯月夜』さん、『桂まゆ』さん、『黒い夢』さんだね」

[各参加者は2008年3月14日現在です]

鈴は、楽しそうに言った。

「どんなの書くんだろうね」

「さあ。でも、作者はとても楽しんでるみたいだよ」

そのとき、楽しげな音が聞こえてきた。

「何の音?」

鈴が山門に聞いた。

「時計の音だよ。12時になったって言うことを教えてるんだ」

そして、山門はパソコンを切って、鈴に向かって言った。

「もうそろそろ、自分たちも寝ようか」

「そうね」

鈴と山門は、布団をひいた。


「やっぱり、私たちってあってるのかな」

鈴が、布団に入ってくる山門に聞いた。

「そりゃ、合ってないとこんな風に付き合っていられないだろうな」

「そうだけど…」

「あ、そうだ。忘れるとこだったよ」

山門は、布団から出ると、袋を取り出した。

鈴は不思議そうな顔をしていた。

「これ、鈴に渡してって言われていたんだ」

取り出したのは、金塊だった。

「いいの?こんなはした金」

「はした金って…そっか、忘れていたよ。鈴の家は超がつくぐらいの大金持ちだったな」

「そうよ。でも、ありがとう。受け取っておくね」

鈴はそう言うと、クスッと笑って、持ってきていたかばんの中の一番底に入れた。

そして、山門に伝えた。

「じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ」

そのまま、二人は眠りについた。

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