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第263巻
「よーい…」
パンとピストルの音がグラウンドに鳴り響く。
一斉に走り出す8人のうち、一人が幌だ。
バックではミュージックが流れているが、幌にはきっと聞こえていないだろう。
全力で、すぐ目の前にいる1位走者に食らいつこうとしている。
そのスピードは、徐々に速くなり、そして、ピタリと一致する瞬間が来た。
遠くから、誰かが叫ぶ声が聞こえたような気がすると、幌は心のどこかで感じていた。
ゴールテープまであとわずか。
その刹那、幌は全力を出した。
すぐ横には誰かがいる。
息が喘ぐ。
呼吸もままならない。
目の前がかすむ。
ただ、もう一歩。横よりももう一歩前へ。
幌は、それだけを願った。