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女子高と男子校  作者: 尚文産商堂
夏休み 部活動編
26/688

第26巻

第33章 夏休み 〜部活動編 料理部〜


8月の中頃。

幌と琴子は、部活で高校にいた。

「なんでこんなに暑いのに、こんなところにいなきゃならへんの」

琴子がすぐ横でフライパンを振っている幌に愚痴った。

「じゃあ、帰ればいいじゃん。絶対来いっていうことではないし」

「やや。幌のご飯が食べれるっつーのに、なんでこーへんの」

琴子は、すでにお箸を用意していた。

「…食う気満々」

幌は、フライパンをあおりながら続けた。

「それよりも、俺の分も残しておけよ。この前の時なんか、フライパンにこびりついたお焦げまで食べたじゃないか」

「だってー、おいしーんだもん」

よだれが垂れるのを我慢しているのが、ありありとわかった。

幌はため息をつきながら周りを見た。

気づくと、他の先輩たちも幌の方をじっと見ている。

「…先輩たちも、俺のが食べたいんですか?」

一斉にうなづく。

幌はため息をついた。

「わかりました。少し待っていてくださいね」

それだけ言うと、幌は複数のフライパンを用意した。

すでに9割9分出来ていたオムライスを、まず琴子の目の前に出した。

「先に食べときな。少し忙しくなりそうだから」

「うん!」

琴子は、すぐに食べ始めた。

金色に輝く衣装を外すと、中からケチャップによって赤く色づいたお米や具材たちが出てきた。

「う〜ん!この卵と御飯のコンビネーションが、さいこー!」

「喜んでもらって何よりで」

琴子が、フライパンで料理をしている幌のすぐ横で一気に食べていた。


ものの5分ほどで、皿にのったオムライスはすべて食べられた。

その間にも、3人分のオムライスを作った。

「ちょっと待ってくださいね。もうちょっとで全員の分ができますから」

幌は、一気に作り始めた。


作り終わると、幌は自分の分を食べ始めた。

「ねえ、どうなん?」

「なにが」

幌は食べながら聞いた。

「味よ、味。自分で作ったもんやから、どんなもんかってわからへんやろ?」

「うん…まあまあかな…」

「まあまあって…まあ、ええか。でも…」

琴子は、少し考えてから幌に言った。

「こんなご飯やったら、毎日でも食べたいな…」

急に標準語に戻った琴子の火照る顔を、幌は見逃さなかった。

しかし、何も言わなかった。

言ったら、失礼かと思ったからだ。


こうして、夏休み唯一の料理部の部活動が終わった。

「やれやれ、おわったー!」

幌は、大きく伸びすると、背骨が激しく鳴った。

「あててー。よしっ!帰るか」

幌は、鞄を持って帰ろうとした。

その時、後ろから声をかけられた。

「ちょっと待って」

琴子だった。

「ん?」

「あの…家まで来てくれない?」

下目づかいで言われた。

幌は少し考えてから、琴子の目を見て言った。

「まあ、構わないかな」

その時、ふと気付いた。

「そういえば、琴子の家ってどこなんだ」

「ここからバスと電車で片道1時間弱ぐらい」

「じゃあ、行けるな…」

幌は財布の中を見ながらいった。

「あ、お金がないんやったら、わてが立て替えるで」

「いや、大丈夫だ」

そう言って、二人は並んで歩き始めた。


近くのバス停からバスに乗り込んだ。

夏休みの昼過ぎということもあり、あまり人がいなかった。

というよりも、幌と琴子だけだった。

「二人だけか…」

「あと、運転手はんもわすれたらあかんで」

「ハハハ…」


そんなどうでも話をしている間に、バスは進んで行った。

赤信号で、急停車したとき、琴子がつんのめった。

「あぶなっ!」

幌は、とっさに腕を出した。

ぼふんと、やわらかなものが当たった。

気まずい沈黙。

幌はすぐに腕を放した。

「…ごめん」

その後、バスを降りるまで、二人が目を合わすことはなかった。


電車には、まばらにしか人がいなかった。

その人も、幌たちとすれ違いになるように下りてしまい、一つの車両に二人だけしかいない状況だった。

「そういえば…」

幌は、琴子に聞いた。

「なんで俺なんだ。それに、どうして突然一緒に帰ってって言ったんだ」

琴子は、幌を見て言った。

その眼は何かを語ろうとしていた。

「このあたりにはな、昔から痴漢が出るらしいんや。3日ぐらい前にも、小学生がやられたっていう話やったから、怖くなってな」

「で、同じ部活だったから、俺に頼んだと」

「そういうことやな」

「なるほど…」

幌はため息交じりに返した。


電車の単調な音が、心地よく、おれたちは互いの肩に頭をもたげて眠ってしまった。

気づけば、降りるはずだった駅を過ぎていた。

「あー、すぎちゃったー」

少し寝ぼけているような声で、琴子が言った。

「過ぎちゃったって、さっきの駅か!」

幌は驚いたように起きた。

だが、すでに電車は動き始めていた。

「時々やっちゃうんやわー。いやー、失敗失敗」

「失敗って…次の駅で降りて、逆向きへ乗り換えないと…」

「そうやねー」

幌と琴子は、のんきな声で会話した。


電車を乗り換え、駅に戻った二人は、いろいろ言いあいながら、琴子の家に歩いた。

「ここが、わての家や」

結構大きな家があった。

「…琴子の家って、金持なのか?」

「いや、そうやあらへんで。カネモやったら、こんなへんぴなとこ住んどらへんで、もっとえーとこにおるわ」

琴子は、けらけらと笑いながらいった。

「ほな、あんがと」

琴子は、見送る幌のほほにキスをしてから、家に入った。

「え?」

幌は、ただ混乱していた。


再び、1時間近くかけて幌は、家に帰った。

「ただいまー…」

「お帰り。遅かったわね」

家には、桜がいた。

「ちょっとあってね」

「ふーん」

桜は、珍しく何も言わなかった。

「御飯の時間まで、ちょっと部屋にいるから」

「わかったー」

桜は、マンガを読みながら答えた。


バタンと、扉を閉める幌。

「あれって、なんだったんだろう…」

いまだに柔らかい感触が残るほほに、そっと指を当てる。

幌の心の中には、今までなかった感情が芽生えていた。

その当人らが、そのことを認識するのは、もう少し後のこと…

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