第25部
第32章 夏休み 〜部活動編 通路大掃除〜
1年生団の引率担当は、高月槻だった。
「つーことやから、ま、ほどほどに」
それだけ言うと、高槻自身も掃除を始めた。
明らかに金を狙っていた。
「せんせー、何か出てきてもみんなで山分けですよ?」
氷ノ山が横にいた高月に言った。
「大丈夫、ちゃんとポケットなしの服だから」
「そんなことじゃないんですけど…」
氷ノ山は、少しどもった。
そこから少し離れたところで、壁が崩れてきた。
「きゃぁ!」
すぐに、近くにいた幌が駆けつけてきた。
「大丈夫!?」
下半身が土で埋まっている琴子を、すぐに掘り出した。
ちょっとしてから、高月や、他の人たちが駆けつけた。
琴子の下半身についた泥を手で払っている幌より、半べそかいている琴子より、全員が見たのは金色に光り輝く塊だった。
懐中電灯を当てると、かなり大きそうだった。
「これって…」
氷ノ山が言った。
すぐ横にいた星井出が見た。
「き…金塊?」
「いや、断言はできないぞ。だれかこれがわかる奴はおらんのか」
高月がきくと、すぐ横から星井出が出てきて、一つかみ取ろうとした。
しかし、手の平よりも大きい塊が、ごそっと抜け、尻もちをついた。
「いったー」
「だいじょうぶ?」
あまり心配していないかのように、氷ノ山が言った。
「大丈夫、とにかく…」
星井出は、来ていた服の裾で泥を落とし、すぐに舐めた。
初めて見た高月は、びっくりしていた。
「な…大丈夫なのか?」
「別に平気です…ちょっと待ってくださいね…」
星井出は、それから何回か舐めていた。
高月はその間に、すぐ横にいた氷ノ山に聞いた。
「なあ、星井出は何をしているんだ?」
「そっか、先生は知らないんですね。星井出には、なめただけでその物質の組成が分かるという能力があるんですよ」
「それは…すごいな…」
「ん!わかった!」
その時、星井出が宣言した。
「これは、18Kだよ。金と銀と亜鉛が混じってるね」
「じゃあ、純金ではないんだな」
高月は少しがっかりしているようだった。
だが、他の人たちは、初めて見る金の色に目を輝かせていた。
懐中電灯の光と、通路にある電灯の光で、とりあえずどれぐらいあるかは分かるのだった。
「…と、とにかく、他の人たちも呼ぼう。なんだか大発見の予感がしてきた…」
高月は、その懐中電灯にあててみた光景に、驚きながらもトランシーバーによって、他学年に連絡をした。
5分もしないうちに、掃除部隊は全員集合した。
「これは、なんなんだ…」
東丸が、つぶやいた。
一部分しか見れなかったが、壁をはがすとその一面に金塊が埋められていた。
「ちょっと、考古学者の知り合いっていない?」
「わたくしの叔父が、何某大学で、考古学者をしていますが?」
鈴が、東丸に言った。
「すぐにでも呼んできてくれ。これは、山分けはお流れな感じがしてきた…」
しかし、その前に各々の持ってきたかばんの中に1本ずつ入れていた。
鈴がその場にいないとき、代わりに永嶋が2本持った。
30分ほどすると、叔父を連れて鈴が帰ってきた。
その時には、だいたいの壁をはがし終え、土留めを終わらしていた。
「みなさま、紹介します。わたくしの叔父で、考古学者でもある山口弘之亮です」
鈴より少し大きいぐらいの40代前半ぽい男性は、一礼してから言った。
「山口弘之亮です。以後、お見知り置きを。そんなことより、その金塊はどこにあるのですか?」
弘之亮がきくと、土留めしたベニヤ板の一部をはがした。
そこには、膨大な量の金塊が出てきた。
「これが、後数メートルにわたって、土の中に埋まっています」
東丸が通路の端に山積みされた金塊を指さしながらいった。
「なるほど。これはすごい発見だな。しかし、このあたりに隠すような理由はないはずだ。何せここは金山。今でも小さな金が見つかっているという場所だ」
「木を隠すには森の中。金を隠すには金山の中ということですか?」
高月が聞いた。
「まあ、そんなところです。昔の人が形成したのはいいがどうしようもなくてここに置いた…ま、そんなところでしょう。ところで…」
弘之亮は、高月たちに聞いた。
「この金塊ですべてですか?」
「え、ええ…まあ……」
高月は少し後ろめたいことがある顔をしたが、弘之亮は何も聞かなかった。
「そうですか。では、この金塊の山を少し持って帰らせていただきますよ。それに、この通路の工事の延期も申請します」
それだけ伝えると、弘之亮はひとりで持てる分の金塊をもって、通路を出て行った。
「…ばれなかったわね…」
後姿を見ながら屋久が言った。
「いいじゃないか。一人1本。所有者不明のものは、その土地の所有者と発見者が折半することになっているわけだし」
「…チャンと届け出を出してから半年以内にその者の所有者が現れない場合は、ね」
東丸が言ったセリフに、屋久が突っ込んだ。
「そうだけどさ。一応説明だけはしておきたいし…」
「ネット検索すれば、一発で見つかるのにねぇ」
「そ、それは言わないお約束では…」
東丸が少し焦っている中で、桃井がその場にいる全員に通達した。
「と、いうことで、ここにいる全員は、今回のことを一切誰にも話さないこと。この秘密は、墓場まで持っていくか、公開されてから話すこと。はい、それでは解散!」
それだけ言うと、いち早く出て行った。
ほかの生徒や担任の人たちも、それについて、それぞれの家に帰った。
扉は、固く閉ざされ、校長のみが両側のカギを持つことになり、それ以外のすべてのカギは、教職員一同が見ている目の前で溶かされた。