第23巻
第30章 夏休み 〜部活動編 アニメ研究部〜
8月。コミケの季節。
しかし、その前には、学校の宿題というものが待ち構えていた。
「今年の『夏のコミックマーケット』は、今月15日〜18日の間にある。その間に、とりあえず、何を買いたいかを各自調べてほしい」
部長が、そういった。
「へいへい」
2年生の部員が言った。
「今日はそれだけですか?」
雅が、部長に聞いた。
「そうだな、後はいつもどおり、アニメを見るぐらいだな」
部長が、鞄からDVDを取り出して、机の上に置いた。
「今日は、『さよなら絶望先生』の特装版だ」
部長が大事そうに再び持ち上げた。
「絶望先生って、このあたりだと『サンテレビ』でしていましたよね」
「そうだ」
部長は、DVDをパソコンにセットした。
その間に、雅は少し部屋を出た。
向かった先は、天文部のプラネタリウムだった。
鍵があいていたので中に入ると、桜が弁当を食べていた。
「…あによ」
おにぎりをほおばりながら、こちらを見ていた。
「別に」
それから、おにぎりを飲み込んでから、ぼやいた。
「あ〜あ、なんで私こんなところにいるんだろ…」
「そりゃ、天文部っていう部活に入ったからでしょ」
雅はとりあえず言った。
「というか、なんで雅がこんなところにいるの」
「ちょうど、アニメ研究部もやっていてね、暇になったからここに来たんだ」
「だったら、黙っといてね。私は今忙しいんだから」
そう言いながらも、椅子二つを使い、片方に座り、もう片方には足を乗せて弁当を食べていた。
「…その格好で弁当を食べることがか?」
「ほうはよ(そうだよ)」
おにぎりをほおばりながら、あっさりと言い切った。
「やれやれ…それよりも、なんで他の人たちがいないんだ」
雅は、周りを見回しながら聞いた。
コンピューターの乾いた音だけがしていた。
「当然じゃん。今日は私だけしかいないんだよ」
「へ?なんで」
雅は桜を見た。
「だって、今日は暇になったから、遊びに来ているようなものだもん。それに、天文観察ができるのは、基本的に夜になってから。こんな真昼間にするわけないじゃん」
桜はおにぎりを飲み込んでいった。
「はあ、そうですか…」
雅は、弱々しげに言い、周りを見回した。
「さすがに、よくわからない機械ばかりだな」
そして、雅はそのうちの一つを触ろうとした。
そのとたん、桜は言った。
「それ、触ってもいいけど、そのあとのことは私は知らないよ」
その瞬間、雅の手は引っ込んだ。
「じゃあ聞くけど、この機械ってなんなの?」
「天文写真の保管データ。それを保存しているハードディスクだよ。その中には、これまでとってきた様々な写真データが保存されてるの」
「へー」
雅は、素直に驚いて、言った。
「じゃあ、桜が撮った写真も、この中にあるの?」
桜は、少し恥ずかしそうに言った。
「えっと…あることにはあるけど…」
突然、下を向いて、弁当を食べる手を休めた。
「どうしたの?」
「う〜ん…あんまり見せるようなものじゃないし…」
「でも、俺は見てみたいんだよ」
雅は、なぜか桜に強く言った。
桜は雅の真意を測りかねていた。
「ま、いい…よね」
桜は、立ち上がってその機械を操作した。
次々と、星が現れた。
「すごいね」
雅は、ゆっくりと言った。
「うん…」
桜は雅に対して適当に返した。
ほどほど経ったとき、雅は言った。
「ありがとな。なんだかすっきりした」
それだけ言うと、雅は自分の部室へ戻った。
部室に戻ると、『ニコニコ動画』を見ていた。
「…何見てるんですか」
「お、雅か。実はな、MADを見ていたんだ」
「MADってなんですか?」
雅が質問すると、部長は頭をかいて言った。
「MADっていうのは、今あるいろいろな曲とか動画などを編集した動画などのことだ」
「そんなのがあるんですね」
「…知らなかったのか」
「はい」
部長の質問に、堂々と答えた。
「やれやれだ。とにかく、見たいのなら、ここに座れ」
部長は椅子を雅にすすめ、雅はその椅子に座った。
その日の夜、雅は考えていた。
「…やっぱり、なんだか気になっているのか…」
雅は、自分の部屋の天井を見ながらいった。
「だめだ、結論が出ない…なんか相談できないかな……」
しかし、そんな相手はすぐには思いつかなかった。
1週間、ずっと考えて結局結論は出た。
その時、誰かからメールが届いた。
幌だった。
「なんだろ…」
雅がメールを見ると、そこには、好きな人がいますかという内容のアンケートがのってあった。
「…桜に頼まれたか…とりあえず、返事出しておくか」
それだけつぶやくと、雅は返事をした。
「好きな人なら確かにいます。同級生の桜って子なんですが、その子に気があるかどうかわかりません。調べてくださるならば、とてもありがたいです」
そして、そのまま送信した。
「…時には特攻するのも必要かな。でも、おれにはその自信がない…」
雅は、結局次の部活の日まで悶々と考えていた。