第21巻
第28章 夏休み 〜部活動編 放送部(2)〜
翌日、学校にて。
放送部の夏休み最後の予定の集会を開いていた。
この日には、とりあえずの録音をすることになっていて、それを受けて効果音を決めるということにしていた。
「あーー……」
一番早く来ていた宮司が、ロングトーンをしていた。
ロングトーンとは、同じ高さの音でできるだけ長く息を出し続けるという練習方法である。
「……っふ。23秒か…」
その時、誰かが入ってきた。
「宮司君、早いね。まだ、15分前だよ」
豆実だった。
「先に発声練習だけでもしておこうかと思ってさ」
「えらいね、私なんて今来たところだよ」
「そりゃそうだろうな。そうじゃなきゃ、今頃おれと一緒にいるだろうよ」
「たしかにね」
豆実は、荷物を部屋の端っこにおいて、発声練習をし始めた。
「アメンボ赤いなアイウエオ。浮き藻に小エビも泳いでる……」
[注、↑のは『北原白秋』の『あいうえおの歌』というそうです。全文知りたかったら、『Google』で調べてみましょう]
一通り終わるころに、やっと文版が到着した。
「ごめーん。ちょっといろいろやってたら遅れちゃった」
「…もういいよ、別に」
宮司は窓の外を見ていた。
豆実は文版の近くに来て言った。
「遅れちゃだめじゃない」
「だって…なんていえばいいかわからないし……」
小声になって話し始めた。
「それは、自分で決めないと。私は何にも言えないよ」
そして、豆実は宮司に伝えた。
「さっさと録音しよ」
「そうだな」
宮司は、機器のテストを始めた。
「あーあー、マイクテストー」
「何か言い続けといてよ」
豆実が音量調節を始めた。
「何かって…じゃあ、寿限無、寿限無、5劫のすりきれ……」
[↑は、マイクテストで話すネタに困った時に言うセリフです。落語『寿限無』に出てくる名前です。詳しくは、Googleで]
「…はい、OKだよ。マイク確認は終了。じゃあ、さっさとMD取って、本録行くよ」
豆実の横に座った文版が言った。
それぞれの人の分を先にとって、後で合わせるという方法をとるらしい。
6時間後、無事に全員分の録音が終わった。
「じゃ、先に帰るな」
宮司がかばんを持って、そのまま帰ろうとした。
「後のことは任せたからな」
それだけ言うと、宮司は放送室から出た。
「まっ……待って…」
文版は、遠ざかる宮司の背中に何か言おうとしたが、結局何も言えなかった。
豆実が、文版の肩を叩いた。
「大丈夫、また今度があるからね」
「うん…」
文版は、階段を下りて見えなくなった宮司の背中を、目で追っていた。
「言わなかった…じゃない、言えなかった…」
豆実と途中まで帰り途が同じだった文版が、突然言った。
「宮司君に対して?」
「…うん」
豆実は、文版の肩を叩いて言った。
「そんなこともあるって、元気出して。ほら」
「そうよね…大丈夫、だよね…」
文版は、豆実の手の上に自分の手を置いて言った。
「ありがと、元気出た」
そして、二人は、長い影を従えて、それぞれの家へと帰った。