第204巻
11時半になり、青山さんが夫婦でやってきた。
「やあ、お疲れ様。これがお土産だよ」
「ありがとうございます」
青山さんの姿を見た瞬間、ソラが家の中から飛び出した。
「アッハッハァ。そうかそうか、寂しかったかぁ」
その顔は、とても輝いているように見えた。
ソラがいなくなった家の中は、物言えぬ寂しさが漂っていた。
「…いなくなっちゃったね」
「そうだな」
皿を洗っている幌の背中を見ながら、桜がつぶやいた。
「仕方ないさ、預かり犬だったんだからな。いつかは、本当の飼主に返さなくちゃいけない。それは分かってたことだろ」
桜は、皿を洗い続けている幌をじっと見ていた。
同じ皿を、何回も洗い続けていた。
「ま、考えてても仕方ないや」
桜は、何かを吹っ切れたようにして立ち上がった。
「それでぇ?テストの結果は帰ってきたのかなぁ?」
幌は桜にすぐに問い返す。
「大丈夫、帰ってきた分は、全部クリアしてるから」
「えー、つまんなーい」
「つまんないじゃない。ちゃんとクリアできたんだから、もうテストのことは考えなくてもいいのさ」
「じゃあさぁ?」
桜がようやく皿を洗い終わって、乾燥棚にしまっている幌の背中に、自然ともたれかかって見せる。
その体を、テシッと回りながら手で払いのけながら、自室へと戻った。
「…相変わらずだなぁ」
桜は、パタンと閉まるドアを見て、そう呟いた。