第2巻
第3章
入学式の翌日、お父さんとお母さんは、すぐに再び海外へ向かった。それを見る事なく、幌と桜は、起きた。ふと机の上を見ると、「これからも仲良くね」と言う置手紙が置いてあった。
(やれやれ、忙しいのはわかるけど、もっと息子と娘をいたわって欲しいね)
幌は、そう考えていたが、時間を見て、学校がある事を思い出した。
「もう、8時か」
「幌、ご飯は?」
机を見ると、桜が、お箸を持って待っていた。
「はいはい、作ればいいんでしょ」
「お、良く分かったね」
桜がニコニコしている一方で、幌はこんな姉を持った事に後悔していた。
「ったく、ちゃんと作れないと、彼氏の一人もできないと思うよ」
「別に構わないもんね〜だ。私、いつまでも独身でも〜。だってさ、その方が何するにしても楽だもん」
「そりゃそうだけどさ…」
そう言いながら、ぱっぱと料理をしていた。
「はい、これ今日の朝御飯」
「ありがとね」
そして、御飯を食べ終わるころには、8時10分になっていた。
「8時半までに学校につけばいいから、楽でいいわね〜」
「学校目の前だし、姉は彼氏の一人もできなさそうだし…」
幌のその言葉に、桜は振り向いて言った。
「ん?なんか言った?」
制服に着替えている最中だった。
「何にもない!」
そして、二人とも制服に着替え終わると、家から出た。
(午前8時25分。ちょうど着く事ができる時間)
実際に彼らが教室に到着したのは、8時29分だった。
「はい、では、これからの説明をします。明日、午前6時30分に校庭に集合して、勉強合宿の結団式と出発式をします。期間は、何もなければ、3泊4日です。ちょうど、横にある女子高と合同になるけど、決して、女子高側と接触しない事。いいね」
幌の担任は、既に結婚している男性教諭だった。そもそも、この高校には、女性が一人もいなかった。その一方で、女子高には、男性が誰もいなかった。
「さて、明日は、午前9時30分に校庭集合で、勉強合宿をします。3泊4日だから、何かある場合は、多少の荷物の持参を許可します。でも、横にある男子高と合同になるけど、絶対に、男子高側と接触しないこと。いいわね」
桜の担任も、例に漏れず、女性教諭だった。この両校は、合併が決まっていたが、女子高には女子トイレのみ、男子高には、男子トイレしかなかったので、名義上だけ合併する事になりそうだった。
二人は、午前中で帰ってきた。
「あ」
「おかえり」
同時に家に着いたので、同時に家に入ることにした。
私服に着替えて、机に座ってから桜が聞いた。
「で、どう?学校は」
「まあまあ、明日は、そっちと一緒に勉強合宿だって」
「うん、そうらしいわね。私も、今日初めて聞いた」
「姉ちゃん、大丈夫?低血圧気味だがら、朝に弱いんじゃないの?」
「その点はだいじょーぶ!私どころか、みんな弱いから、男と一緒に机を並べてするわけではないのだ!」
「じゃあ、向こうに何しに行くんだよ」
桜は、少し考えてから言った。
「…寝に?」
「そりゃだめだろ。まあ、本人が幸せならいいと思うけど…」
「そっちは、どうなの?合宿の時間割って」
「へ、俺んとこ?そうだなー…朝の6時半起床、7時から30分間の朝食時間で、それから12時半まで勉強。そして、1時まで昼食時間、さらに、6時半まで勉強。途中に30分間の休憩が入るだけだね。それで、7時まで夕食時間、最後に8時半まで勉強してからお風呂入って自由時間があってから、10時に消灯。これが中2日で、初日は、午前とお昼の休憩までがなし、最終日は、その逆」
「私と全然違う。私の場合は、朝の8時に起床、8時半から9時までが朝食、9時から12時までが勉強、12時から12時半が昼食時間、12時半から3時までが勉強、3時から4時までが休憩時間、4次から6時までが勉強、6時から6時半までが夕食時間、6時半から8時までがお風呂の時間帯で、そのあと8時から9時までが勉強、最後に9時から10時までが自由時間で、10時以降消灯、でも、起きるのは8時までだったらいつでもいいって」
「これは、男女差別だ!」
「どうしたの?突然」
「だってさ、俺のところは、6時半起きなのに、そっちは、8時だ。さらに、いつでもおきていいときてる!」
「それは、学校側に言うべきだね。多分、学校側に行った所で、役に立たないと思うよ。だって、それを承知ではいったと言うのが、向こう側の感覚だからね」
「……それも、そうだけど」
「それに、そんな事を先生に言ったら、だったらやめろって言われるのがオチだよ。だから、ね」
桜は、こちらを見上げていた。
「…分かった。とりあえず、がんばってみるよ」
「それでよし。さて、今日の夕御飯は、何のつもり?」
「…まだ3時にもなってないよ」
「だってさ〜、気になるじゃない?」
「今日の晩飯は、まだ決めてない」
「じゃあ、ハンバーグにしよう!」
「はぁ?昨日もそう言って、それにしたぞ」
「いいじゃない。あの、芳醇な肉汁、口の中に入れると、瞬時に広がるあの香り…それに、幌の腕があれば大丈夫!」
桜は、幌に親指を上にあげて、拳を突き出すグットサインを出した。
「分かったよ。ハンバーグだな。付け合わせは、ブロッコリーか?」
「何でもいいよ。でも、いつもブロッコリーだったら飽きるよね」
「はいはい、じゃあ、野菜室は…」
冷蔵庫のすぐ下にある野菜室を幌は開けてみた。
「見事に何もない。あるのは、芽が出たジャガイモだな」
「じゃあ、それでいいじゃない」
「だめだめ。芽が出たジャガイモは、猛毒なんだ」
「そうなの?」
本当に何もしらない声を出した。
「お前、本当に中学の時全国模試8位だったのか?」
「そうだよ、でも、それとこれとは関係ないでしょ?」
「…もういい。とりあえずは、どこかにプランターあったよな」
「うん、庭にあったけど」
「じゃあ、それもってきて。これ、埋めるから」
「分かった」
桜は、すぐに庭に行き、土が入れられているプランターを持ってきた。
「よっこいしょ」
それを、机の上に置き、ジャガイモを、その中にうずめた。
「あとは、ちゃんと育ってくれるのを待つだけ…で、今日の御飯は、ハンバーグでいいね」
「とっても良いよ!」
(やれやれ、なんで、俺は、こんな姉を持ってしまったんだろう)
何か考えながらも、結局、晩御飯を作り、そして、それを食べ、明日の準備をして、眠った。明日も、また、いい朝を迎えられるように願いながら…