表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子高と男子校  作者: 尚文産商堂
夏休み 別荘編
18/688

第18巻

第25章 夏休み 〜別荘編 首相訪問〜


その日の午後、日も落ちつつあるころに首相は来た。

車で玄関まで乗り付けると、鈴の父親である山口之貴が出迎えた。

「ようこそおいでになられました」

「そんな硬くならなくてもかまわんだろ。どうせ、いとこ同士だしな」

「そうですが…さすがに、一国の首相であるあなたとなれなれしくするのは、この場では相応しくないと思うので…」

「それもそうだな」

首相はそれだけ呟くと、さっさと別荘の中に入った。


首相が入る瞬間は、幌たちは一番上から見届けた。

玄関は吹き抜けになっているため、最上階から下が見ることができるのだった。

「すごいね。中川さんが来た時と同じかそれ以上の待遇」

「同じぐらいだと思うよ。とりあえず、全員が出迎えるっていうのは、賓客ぐらいしかやらないからね」

千夏が驚いている桜に説明した。

そのころ、幌は下を見ずに宿題のプリントの一枚を見ていた。

「…だめだー。やっぱりわからん」

「どうしたのよ」

文版が聞いた。

「学校の宿題なんだけど、最後の2つになってわからないんだ」

「どんなの?」

文版と幌は、首相来訪そっちのけでその問題を見た。

文版が読み上げた。

「1578924577=0、11=1、91=9とする。この場合、98764321はどのような数に収束、または発散するか。答よ」

周りの人たちは、その問題を聞いて考え始めた。

「そもそも、どのようなことかを考えないといけないね。1578924577がどうしたら0になるか、11と1、91と9の間も同じようにね」

氷ノ山が言った。

「せやったら、ヒントとかないんかい」

琴子が聞いた。

「なんか、文章が並んでるけど、これがヒントらしいんだ。だけど、よくわからないヒントで…」

「どれ、みせてみ」

琴子に幌はプリントを渡した。

琴子はそれを一通り読んで一気に言った。

「わかったわ。この問題はな…を……して………とくんや。せやから答えは0や」

「よくわかったわね〜。私さっぱりだった〜」

桜が言った。

「でも、このヒントの文章。なんだか読んだことがある小説の登場人物っぽいんだけど…」

「気のせいじゃない?既視感って言って、なんだか見たような感じがするっていうこと、よくあることだから」

桜が首をかしげたのを見て、雅が言った。

「そっかな〜…ま、いいか」

桜はそれだけ言うと、再び下の光景を見た。

首相はその場にはいなかったが、後のあわただしさだけは残っていた。


荷物が次々と上に運ばれている間、首相と鈴のお父さんは広間で少し早目の夕食を食べていた。

「ところで、政治のことはどうなっているんだ?」

「円高による輸出減衰、世界各地での景気減速。それらをまとめあげてないって言って、なかなか難しい局面だよ」

首相は熱燗をお猪口で飲みながら言った。

目の前には、日本食が並んでいた。

「国民目線から言わせてもらえば、しっかりと景気対策をしてほしいっていうことだな。バラマキ行政って、あちこちで聞く言葉になってるぞ」

「それはこまった。どうするべきなんだろうな」

そして、首相は快活に笑い飛ばした。

「だが、どうとでもなろうよ!これまでも、日本はそうやって過ごしてきたんだ。石油危機の時、世界中があたふたしている間にも日本は技術革新を進めて、世界を席巻した。その技術力をもとにすれば、再び世界に飛躍することも不可能じゃないと思うんだ」

首相は、タイの焼いたものを箸でつまみながら答えた。

「とにかく、世界に対して日本ができることを、一つずつ考えていくべきではないかな。そう考えているよ」

そう言って、二人は談笑し続けながらご飯を食べた。


子どもたちは、幌の部屋に集まって、勉強会をしていた。

ただ、だんだん別の方向に進み始めているようだった。

「ねえ、思ったんだけど…」

桜が、ぽつりと言った。

「この中から誰が一番最初に結婚すると思う?」

だれかが噴き出した声が聞こえた。

「何を言い始めたんだよ」

雅が答えた。

「だってさ、なんだか気になるじゃない。私も誰かの結婚式に出たいし〜」

「いずれ出られるだろうよ。人生長いんだからな」

雅は、桜にそう答えた。

「そうよね〜」

そう言って、再び桜は女子同士の話の中に紛れた。


幌は、ずっと考え事をしていた。

星井出がそんな幌を覗き込んだ。

「どうした?」

「あ、いや。宿題最後なんだが、なかなか解けなくてな…わかるか?」

「どれどれ…何これ。国語の問題?」

「そうらしい」

二人は、その問題を見ていた。

そこに、琴子が現れた。

「どないしたん?二人して、しかめっ面で」

「この問題なんだが、わからないんだ」

「えっと…なるほどな。とりあえず、読み上げてみよか」

そして、琴子は、その問題を全員の前で読み上げた。

「以下の文章を標準語に訳しなさい。なお、問題の都合上、句点を一部抜いてある。

A『あれちゃうちゃうちゃうか?』

B『いやちゃうちゃうちゃうんちゃう?』

C『ちゃうちゃうちゃうやろ』

A『ちゃうちゃうちゃうんか』

B・C『ちゃうちゃう』」

みんなは、頭の上に?マークが浮かんでいるようだった。

その中で、琴子がすらすらと標準語に戻した。

みんなは、まじめにすごいと思った。

「なんでわかるんだ?」

「わてな、小さいころ大阪におったんや。せやから、中途半端な方便がまじっとるやろ?」

「…そういうことか」

幌は琴子の説明にうなづいた。

そのとき、だれかが扉を開けた。

「鈴お嬢様。千夏お嬢様。お客様の方々。ご夕食の準備が整いました。どうぞ、広間のほうへおいでください」

燕尾服をびしっと着こなした、初老の男性が言った。

「わかりました」

鈴はそう返事をして、その人を先に下に戻した。

永嶋は、鈴に聞いた。

「あのさ、さっきの人は?」

「あの人は、この別荘の管理人をしてくれている、執事の多井祥汰さん。けっこう有能なの」

「へえー、さすが大金持ち。執事とか居るんだ」

鈴は返事をせずにそのまま部屋を出た。

日暮れが迫っていた。


下に降りると、首相がちょうど上へあがるところだった。

「おや、君たちもいたのか」

「之貴さん、こんばんは」

「こんばんは」

鈴が代表したような形になり、あいさつを交わした。

「そうだ、君たちにも聞きたいことがあるんだ」

「なんでしょうか」

鈴が聞いた。

「君たち、今の政治をどう思っているかね?」

「そう唐突に聞かれましても…考えるに、政治自体が興味、関心を失っているのと思います」

「それは、どういうことかな?」

首相は、その話に食いついてきた。

「今の政治は、若者やいわゆる弱者といわれる人々は、政府に無視されていると感じています。妊婦が病院をたらいまわしにされたり、格差社会が固定化しつつあったりしています。そのような状況で、政府に対して関心を失いつつあるのは、仕方がないことだと思います」

「だとすると、鈴はどうすればこの状況を改善できると思っているんだ?」

「まず、富める者から税を取り、貧しき者に対して振り分けます。道路特定財源やその他さまざまな無駄を削除し続け、国債の償還を進めます。さらに、中小企業に対して財源を給付したり、技術者の育成に力を育てていく必要もあります。それによって、日本経済は一時的な停滞期に入るでしょうが、中長期的な視点から見れば、必ずや日本経済を力強く育てていくことになるでしょう」

鈴は、ほとんど一息に言った。

首相は、黙って聞いていたが、ふと口を開いた。

「わかった。すべてできるわけじゃないが、9月に入ってからの臨時国会の時に審議をしてみよう」

それだけ言うと、礼を言ってから首相は上へと消えていった。

「何をしたかったんだ?」

幌がつぶやいた。

「若者の意見を聞きたかったんだろうよ」

すぐ横にいた雅が答えた。

そして、広間に入った。


夕ご飯を食べ終わると、幌たちは再びそれぞれの部屋に戻った。

そして、これからのことを思い浮かべながら、それぞれ友人たちと話をして、眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ