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女子高と男子校  作者: 尚文産商堂
夏休み 別荘編
16/688

第16巻

第23章 夏休み 〜別荘編 肝試し〜


その日の夜、晩御飯を食べ終わると、みんなは外へ呼び出された。

「何が起きるの?」

桜は眠そうだった。

「幌たちが何かを計画しているそうです。何をするかは、わたくしも存じません」

鈴はそう言った。


玄関のすぐ外に出ると、幌と星井出が懐中電灯を持って待っていた。

「みなさん、そろったね。では、これから、肝試しを行いたいと思います!」

幌は唐突に言った。

星井出がすぐに続けた。

「ルールは簡単。ここに地図と懐中電灯があります。それを頼りに、この建物の裏山の中腹にお堂があります。そこの中にお札を置いておきました。それをとってきてください。1チーム二人とします。ここにクジがあるので、みんな引いてください」

そう言われて、とりあえず一人一人くじを引いた。


「では、1チーム目。出発してください」

幌が言った。

すでに、日も落ちつつある状態で、星井出と氷ノ山のチームが出発した。

「それでは〜」

氷ノ山が手を振った。


裏山はうっすらと暗く、二人は近寄りながらも遠くなりながら歩き続けた。

「暗いね」

氷ノ山は少し離れて言った。

星井出は懐中電灯を構えていた。

暗い森の中、二人っきりで歩いていた。

「そうだな」

星井出が答えた。


お堂までの一本道を歩き、たどり着いた。

「あった。これがお札だ」

お堂の床に、箱におさまったお札を見つけた。

「これを持っていけばいいのね。簡単だったわね」

「でも、帰り道に何か起きたりすることがあるから、注意しておかないとな」

氷ノ山の快活な声に、星井出の落ち着いた声が重なる。


結局、そのまま帰ってきた。

何も起こらなかった。

「お帰りー。どうだった?」

桜が氷ノ山に聞いた。

「普通だったよ。というより、二人のほうが怖くなくていいね」

氷ノ山は、星井出を見つめているように見えた。


そんな調子で、夜も更けて、ついに最後の人たちになった。

「では、最終チーム、出発してください」

幌に言われて、鈴と永嶋が出発した。


鈴は自分の裏山なのに、少し怖がっているようだった。

「大丈夫?」

永嶋は、そんな震えている鈴を見て聞いた。

「だいじょうぶ…と思う……」

「そうか、だったらいいんだけど…」

鈴は呟き返した。


少し狭い道に出た。

二人は、ぴったりとひっついて行動していた。

「落ちないようにな」

永嶋が鈴に伝えた。

「う、うん…」

鈴は永嶋の背中をつかんでゆっくりと歩いていた。

そのとき、鈴は足を滑らせた。

すぐ横の崖へと落ちて行きそうになる。

「危ない!」

永嶋はすぐに腕をつかもうとしたが、永嶋もバランスを崩して崖の下へと落ちて行った。


幌たちは、1時間しても帰ってこない二人を案じ始めた。

「あの二人、帰ってくるの遅くない?」

幌が星井出に言った。

「あの10分しても帰ってこなかったら探しに行くべきだろうな」

星井出は、裏山を見ながら言った。


永嶋は、鈴を腹の上に抱えて崖下に落ちていた。

運よく腐葉土があり、クッション代わりに二人の命を助けた。

「いてて…」

永嶋は少し痛がっていた。

「大丈夫?」

鈴が永嶋を心配そうにのぞきこんでいた。

近くには、小川が流れている音がした。

「大丈夫だけど…ここ、どこだろう」

「崖から滑り落ちたみたいね。ねえ、本当に大丈夫?」

「大丈夫だって、心配するなって」

永嶋は、とりあえず座った。

すぐ横には、鈴が座っていた。

永嶋は鈴の頭をなでた。

鈴は、顔を赤くしていた。


幌は15分たったため、捜索隊を組織して探すことに決めた。

「ということだから、とりあえず、俺と雅と文版で行くことにしよう」

そのとき、だれかが幌に言った。

「私も、連れて行ってくれますか?」

「えっと…」

「千夏です。あなたたちの同級生の鈴の妹です」

「ああ、姉が心配なのはわかるけど…」

千夏は、幌をじっと見つめていた。

幌はため息をしてから一言言った。

「…はぐれないように」

「はい!」

千夏は、元気に返事をした。

幌は、4人を集めて伝えた。

「必要と思うものを持ってこの場所に、今から5分後に集合。通信係は千夏がしてくれ」

そして、いったん散り散りになった。


鈴と永嶋は、崖をよじ登れないかと画策していた。

「どこかに足をかける場所があればいいんだけど…」

「どこにもないわね」

永嶋と鈴は上をじっと見つめていた。

「とにかく、体力を温存させることにしよう。いずれ幌たちが助けに来ると思うから」

「そうよね」

二人とも、ひっついて崖にもたれて座った。


「そういえば、携帯電話は?」

鈴が永嶋に言った。

「落ちた衝撃で壊れた。動かないよ」

永嶋は、壊れた携帯を鈴に見せながら言った。

「どうしよう…わたしは、今持ってないし…それに、なんだか嫌な予感がするんだ…」

「嫌な予感って?」

「この辺りって、自然のままに放置していたから、時々野生動物が出てくるんだよ」

「野生動物って、例えば?」

「クマとか、イノシシとか」

そのとき、近くの草むらがガサガサし始めた。

「もしかして……」

鈴が言った瞬間に、クマが現れた。

永嶋は、鈴を抱きかかえて瞬時に逃げ出した。

「ふぇ…!」

鈴が何か言う前に、すでに永嶋は走り出していた。

クマは、ただこちらを見ているだけだった。


幌たちは、お堂へと続く道を探していた。

「やまぐちー!ながしまー!」

「だめだ…全然見つからない……」

「どこかに落ちたのかもな…」

幌たちは、それぞれ持ち場を決めて探していたが、それでも見つからなかった。

そんな時、千夏が何かを見つけた。

「ちょっと、これって…」

それは、緑色をした石が入ったブローチだった。

「これって…ヤーリンが持っていたものだよね」

文版がブローチを見て言った。

「ヤーリンって…」

幌が苦笑した。

「山口鈴だからヤーリン。それよりも、これが見つかったということは、ここから落ちたっていうこと?」

文版は崖の下を見た。

誰もいなかった。


「ハァハァ…ここって…どこ?」

永嶋は、相当な速さで駆け出して、ようやく止まった時は、右も左もわからない状態になっていた。

鈴をゆっくりと立たせて、それから周りを見渡した。

「ここは、わたしの家の私有地のはずなんだけど…」

「どんだけでかい土地なんだよ…とにかく、歩こう。くだって行けばどこかにつくはずだろうから」

「そうね」

永嶋は、鈴の手を引いて歩き始めた。


しばらくして、森を抜けた。

単なる空地のような感じだった。

「ここは?」

「わたしも、全部は把握してないのよ。でも、ここはもともと鉱山だったっていう話もあるから、そのうちのひとつかもしれないね」

鈴が見まわしながら言った。

「そう言われたら…なんとなくそんな感じにも見えてきたけど…」

しかし、二人は止まらずにただ横目でその場を過ぎただけだった。


幌たちは、崖下の捜索を始めた。

「いたか?」

幌は、雅に聞いた。

「いや、こっちにはいなかった。もしかしたら、動いてどこかに行ったのかもしれない」

「…山狩りでもするべきか…でも、そうなれば大変な事態を招く…」

幌は、一人悩んでいた。

そのとき、千夏が何かを見つけた。

「ちょっと、これって足跡じゃない?」

「ほんとうか!」

みんなは、千夏のもとへ急いだ。

「ほら、これ」

千夏が指さしたものは、確かに、人の靴跡らしいものだった。

「この辺りにはだれも来ないから、あの二人のうちどちらかだと思うよ」

「だったら、何で一人分なんだ?」

「片方をおぶっていたら、一人だけになるんじゃない?」

文版が言った。

「確かに、その通りだな。じゃあ、これをたどっていこう」

幌たちは、慎重にその靴跡をたどり始めた。


永嶋と鈴は、再び森の中に入っていた。

なだらかな斜面をゆっくりと歩いていた。

「どこまで行ったら、みんなと会えるんだろう…」

永嶋が鈴の片手をつかみながら聞いた。

「わからないけど、もうちょっとあると思う」

鈴が言った。

「そっか…」

永嶋は呟いた。

そのとき、地面が平らになったのを感じた。

それと同時に、視界が開けた。

「ここは…」

永嶋はその光景を目にして呟いた。

「山の裾野の端っこね。でも、こんな場所見たことがない…」

そこは、突然すり鉢状の巨大な穴が開いていた。

「この穴の部分も、山口家別荘の私有地なのかい?」

「そんなことはないけど…でも、隣の家が全部消え失せてる…」

「何が起きたんだ…?」

そのとき、後ろから物音が聞こえた。


「やれやれ、やっと追い付いた…」

幌たちが、そこには立っていた。

「幌、雅、文版それと…えっと…」

「千夏、何でこんなところに?」

鈴と永嶋がそれぞれ反応を示した。

「お姉ちゃんが心配で、ついてきたんだよ。それよりも、この穴は?」

千夏たちが、不審そうにすり鉢状の巨大な穴の中を見た。

「わからないの。隣の中川さんの敷地丸ごと削り取られているような感じで…」

しかし、不審に思ったが、とりあえず別荘に戻ることにした。


玄関前に戻った時、みんな泣いて喜んだ。

「よかった…ほんとによかった…」

真っ先に鈴のところに走りこんできたのは、桜だった。

それから、次々と同級生がその場に走りこんできた。

「とりあえず、中に入りましょう。なんだか疲れてしまいましたから…」

鈴は、それだけ言うと、自分の部屋にさっさと戻ってしまった。

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