第16巻
第23章 夏休み 〜別荘編 肝試し〜
その日の夜、晩御飯を食べ終わると、みんなは外へ呼び出された。
「何が起きるの?」
桜は眠そうだった。
「幌たちが何かを計画しているそうです。何をするかは、わたくしも存じません」
鈴はそう言った。
玄関のすぐ外に出ると、幌と星井出が懐中電灯を持って待っていた。
「みなさん、そろったね。では、これから、肝試しを行いたいと思います!」
幌は唐突に言った。
星井出がすぐに続けた。
「ルールは簡単。ここに地図と懐中電灯があります。それを頼りに、この建物の裏山の中腹にお堂があります。そこの中にお札を置いておきました。それをとってきてください。1チーム二人とします。ここにクジがあるので、みんな引いてください」
そう言われて、とりあえず一人一人くじを引いた。
「では、1チーム目。出発してください」
幌が言った。
すでに、日も落ちつつある状態で、星井出と氷ノ山のチームが出発した。
「それでは〜」
氷ノ山が手を振った。
裏山はうっすらと暗く、二人は近寄りながらも遠くなりながら歩き続けた。
「暗いね」
氷ノ山は少し離れて言った。
星井出は懐中電灯を構えていた。
暗い森の中、二人っきりで歩いていた。
「そうだな」
星井出が答えた。
お堂までの一本道を歩き、たどり着いた。
「あった。これがお札だ」
お堂の床に、箱におさまったお札を見つけた。
「これを持っていけばいいのね。簡単だったわね」
「でも、帰り道に何か起きたりすることがあるから、注意しておかないとな」
氷ノ山の快活な声に、星井出の落ち着いた声が重なる。
結局、そのまま帰ってきた。
何も起こらなかった。
「お帰りー。どうだった?」
桜が氷ノ山に聞いた。
「普通だったよ。というより、二人のほうが怖くなくていいね」
氷ノ山は、星井出を見つめているように見えた。
そんな調子で、夜も更けて、ついに最後の人たちになった。
「では、最終チーム、出発してください」
幌に言われて、鈴と永嶋が出発した。
鈴は自分の裏山なのに、少し怖がっているようだった。
「大丈夫?」
永嶋は、そんな震えている鈴を見て聞いた。
「だいじょうぶ…と思う……」
「そうか、だったらいいんだけど…」
鈴は呟き返した。
少し狭い道に出た。
二人は、ぴったりとひっついて行動していた。
「落ちないようにな」
永嶋が鈴に伝えた。
「う、うん…」
鈴は永嶋の背中をつかんでゆっくりと歩いていた。
そのとき、鈴は足を滑らせた。
すぐ横の崖へと落ちて行きそうになる。
「危ない!」
永嶋はすぐに腕をつかもうとしたが、永嶋もバランスを崩して崖の下へと落ちて行った。
幌たちは、1時間しても帰ってこない二人を案じ始めた。
「あの二人、帰ってくるの遅くない?」
幌が星井出に言った。
「あの10分しても帰ってこなかったら探しに行くべきだろうな」
星井出は、裏山を見ながら言った。
永嶋は、鈴を腹の上に抱えて崖下に落ちていた。
運よく腐葉土があり、クッション代わりに二人の命を助けた。
「いてて…」
永嶋は少し痛がっていた。
「大丈夫?」
鈴が永嶋を心配そうにのぞきこんでいた。
近くには、小川が流れている音がした。
「大丈夫だけど…ここ、どこだろう」
「崖から滑り落ちたみたいね。ねえ、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって、心配するなって」
永嶋は、とりあえず座った。
すぐ横には、鈴が座っていた。
永嶋は鈴の頭をなでた。
鈴は、顔を赤くしていた。
幌は15分たったため、捜索隊を組織して探すことに決めた。
「ということだから、とりあえず、俺と雅と文版で行くことにしよう」
そのとき、だれかが幌に言った。
「私も、連れて行ってくれますか?」
「えっと…」
「千夏です。あなたたちの同級生の鈴の妹です」
「ああ、姉が心配なのはわかるけど…」
千夏は、幌をじっと見つめていた。
幌はため息をしてから一言言った。
「…はぐれないように」
「はい!」
千夏は、元気に返事をした。
幌は、4人を集めて伝えた。
「必要と思うものを持ってこの場所に、今から5分後に集合。通信係は千夏がしてくれ」
そして、いったん散り散りになった。
鈴と永嶋は、崖をよじ登れないかと画策していた。
「どこかに足をかける場所があればいいんだけど…」
「どこにもないわね」
永嶋と鈴は上をじっと見つめていた。
「とにかく、体力を温存させることにしよう。いずれ幌たちが助けに来ると思うから」
「そうよね」
二人とも、ひっついて崖にもたれて座った。
「そういえば、携帯電話は?」
鈴が永嶋に言った。
「落ちた衝撃で壊れた。動かないよ」
永嶋は、壊れた携帯を鈴に見せながら言った。
「どうしよう…わたしは、今持ってないし…それに、なんだか嫌な予感がするんだ…」
「嫌な予感って?」
「この辺りって、自然のままに放置していたから、時々野生動物が出てくるんだよ」
「野生動物って、例えば?」
「クマとか、イノシシとか」
そのとき、近くの草むらがガサガサし始めた。
「もしかして……」
鈴が言った瞬間に、クマが現れた。
永嶋は、鈴を抱きかかえて瞬時に逃げ出した。
「ふぇ…!」
鈴が何か言う前に、すでに永嶋は走り出していた。
クマは、ただこちらを見ているだけだった。
幌たちは、お堂へと続く道を探していた。
「やまぐちー!ながしまー!」
「だめだ…全然見つからない……」
「どこかに落ちたのかもな…」
幌たちは、それぞれ持ち場を決めて探していたが、それでも見つからなかった。
そんな時、千夏が何かを見つけた。
「ちょっと、これって…」
それは、緑色をした石が入ったブローチだった。
「これって…ヤーリンが持っていたものだよね」
文版がブローチを見て言った。
「ヤーリンって…」
幌が苦笑した。
「山口鈴だからヤーリン。それよりも、これが見つかったということは、ここから落ちたっていうこと?」
文版は崖の下を見た。
誰もいなかった。
「ハァハァ…ここって…どこ?」
永嶋は、相当な速さで駆け出して、ようやく止まった時は、右も左もわからない状態になっていた。
鈴をゆっくりと立たせて、それから周りを見渡した。
「ここは、わたしの家の私有地のはずなんだけど…」
「どんだけでかい土地なんだよ…とにかく、歩こう。くだって行けばどこかにつくはずだろうから」
「そうね」
永嶋は、鈴の手を引いて歩き始めた。
しばらくして、森を抜けた。
単なる空地のような感じだった。
「ここは?」
「わたしも、全部は把握してないのよ。でも、ここはもともと鉱山だったっていう話もあるから、そのうちのひとつかもしれないね」
鈴が見まわしながら言った。
「そう言われたら…なんとなくそんな感じにも見えてきたけど…」
しかし、二人は止まらずにただ横目でその場を過ぎただけだった。
幌たちは、崖下の捜索を始めた。
「いたか?」
幌は、雅に聞いた。
「いや、こっちにはいなかった。もしかしたら、動いてどこかに行ったのかもしれない」
「…山狩りでもするべきか…でも、そうなれば大変な事態を招く…」
幌は、一人悩んでいた。
そのとき、千夏が何かを見つけた。
「ちょっと、これって足跡じゃない?」
「ほんとうか!」
みんなは、千夏のもとへ急いだ。
「ほら、これ」
千夏が指さしたものは、確かに、人の靴跡らしいものだった。
「この辺りにはだれも来ないから、あの二人のうちどちらかだと思うよ」
「だったら、何で一人分なんだ?」
「片方をおぶっていたら、一人だけになるんじゃない?」
文版が言った。
「確かに、その通りだな。じゃあ、これをたどっていこう」
幌たちは、慎重にその靴跡をたどり始めた。
永嶋と鈴は、再び森の中に入っていた。
なだらかな斜面をゆっくりと歩いていた。
「どこまで行ったら、みんなと会えるんだろう…」
永嶋が鈴の片手をつかみながら聞いた。
「わからないけど、もうちょっとあると思う」
鈴が言った。
「そっか…」
永嶋は呟いた。
そのとき、地面が平らになったのを感じた。
それと同時に、視界が開けた。
「ここは…」
永嶋はその光景を目にして呟いた。
「山の裾野の端っこね。でも、こんな場所見たことがない…」
そこは、突然すり鉢状の巨大な穴が開いていた。
「この穴の部分も、山口家別荘の私有地なのかい?」
「そんなことはないけど…でも、隣の家が全部消え失せてる…」
「何が起きたんだ…?」
そのとき、後ろから物音が聞こえた。
「やれやれ、やっと追い付いた…」
幌たちが、そこには立っていた。
「幌、雅、文版それと…えっと…」
「千夏、何でこんなところに?」
鈴と永嶋がそれぞれ反応を示した。
「お姉ちゃんが心配で、ついてきたんだよ。それよりも、この穴は?」
千夏たちが、不審そうにすり鉢状の巨大な穴の中を見た。
「わからないの。隣の中川さんの敷地丸ごと削り取られているような感じで…」
しかし、不審に思ったが、とりあえず別荘に戻ることにした。
玄関前に戻った時、みんな泣いて喜んだ。
「よかった…ほんとによかった…」
真っ先に鈴のところに走りこんできたのは、桜だった。
それから、次々と同級生がその場に走りこんできた。
「とりあえず、中に入りましょう。なんだか疲れてしまいましたから…」
鈴は、それだけ言うと、自分の部屋にさっさと戻ってしまった。