第15巻
第22章 夏休み 〜別荘編 出発直後〜
翌日、幌と桜は準備万全で家の前にいた。
ほかの人たちも、続々と現れた。
「ここで間違いなかったな」
「そうよ」
一番最初にいた幌と桜がお互いに確認した。
それから数分の間に、残り全員が現れた。
そして、8時30分ちょうどに、山口を乗せた小型バスが安全運転で走ってきた。
幌たちの待っている場所の前でとまると、山口が窓を開けて言った。
「お待たせしました。どうぞ乗ってください」
それを聞いて、みんなとりあえず必要と思う荷物を持ってバスに乗り込んだ。
中は、とても快適だった。
「リクライニングソファーって初めて〜」
桜が早速それに座った。
一人一づつ割り当てられていた。
さっそく、背もたれを動かして遊んでいるようだった。
「これから別荘があるところまでは、3時間ほどかかります。途中で休憩をはさむ予定ではいますが、トイレに行きたくなったら言ってくださいね」
山口が最後のほうは微笑みながら言った。
そして、バスは発車した。
近くの高速道路に入り、少しした時、山口は動いた。
今まで座っていた席から永嶋のすぐ横に座った。
「えっと?」
永嶋が戸惑った。
周りはそれを穏やかに見ていた。
何が起こるか予想はついていたからだ。
「あの、今日はどうですか?」
「今日?まだ始まったばかりだからな。少しわからないな」
「もしよろしければ、ほんとうによろしければ、後で、少し私の部屋に来ていただけませんか?」
「それまで覚えていたらな」
そう言って、顔を伏せてしまった。
山口は、どうしようか悩んでいるようだった。
途中で渋滞に巻き込まれた影響で、数時間遅れで到着した。
「やっと到着した〜。疲れたー」
桜が言った。
「もう少しです。とりあえず、荷物は後で部屋にお届けいたしますので、どうか、そのままにしておいてください」
山口がそう伝えた。
そして、バスが完全に止まると、みんなを外へ出した。
「ようこそ!山口家の別荘へ!」
山口が言った。
やたらでかい宮殿風の建物だった。
「でっけー」
星井出が驚いて言った。
「とりあえず、中に入ろうよ」
氷ノ山が言った。
そのとき、山口によく似た少女が建物の中から現れた。
「お姉さん、ようやく来たんですか?」
「千夏、先に来ていたんだね」
「山口の妹?」
幌がきいた。
「そうです。わたくしの妹で、山口千夏といいます」
「千夏です。よろしくお願いします」
ペコリと礼をした。
「こちらこそ」
とりあえず、全員が答礼をした。
「さて、立ち話も何なので、とりあえず中に入りましょう」
鈴がみんなに言った。
そして、別荘の玄関に入った。
「すご…」
雅がつぶやいた。
たしかに、外見とたがわぬほどの豪華絢爛さだった。
「あのシャンデリアってどれくらいしたの?」
「あれは少し安かったはずですね。確か、250万ほどでしたはずですよ」
鈴が言った。
「250万って…私たちの1年5カ月の生活費になるよ…」
桜が言った。
「大変ですね。とりあえず、それぞれのお部屋をご用意させていただきましたので、そちらのほうへご案内します」
鈴が伝えた。
そして、千夏のほうに向くと、言った。
「千夏は先に自室へ戻ってなさい」
「わかった」
つまんなさそうに言った。
しかし、とりあえず千夏だけ別行動をとった。
一行が案内されたのは、女子の部屋と男子の部屋だった。
「別々にさせていただきますね。それでよろしいと思いましたが?」
鈴は、その場にいる全員に伝えた。
それでも、部屋は隣同士だった。
「じゃあ、入らせてもらうね〜」
桜が、朗らかに言った。
入った途端に目にしたのは、ダブルサイズのベッドだった。
二つのベッドが隣り合わせになっておかれていた。
「全員がベッドで寝れるようにと、そう思ったのですが…」
鈴が一歩離れた所から心配そうに言った。
桜は、鈴に向かって言った。
「とってもいいよ!楽しくなりそうな予感がする」
「それは良かったです」
桜の言ったことで、ようやく鈴は安堵したらしい。
「男の部屋も同じなの?」
「はい、その設計になっています。ただ、ベッドは多くなっています」
「そうじゃないと、全員がベッドで寝られないからな」
幌が、そう返した。
「じゃあ、荷物をまとめたら、玄関に集合っていうことで」
そのまま、幌がみんなに提案した。
そして、それぞれの部屋に入った。
「とりゃー!」
桜が、ベッドにヘッドスライディングをかました。
「何してんのや」
琴子があきれ顔で言った。
「こんな豪華なベッドって初めてだからさ、一度してみたかったのよ〜」
「…さよか。ま、好きにしたらええわ。それよりも、山口の姿が見えへんけど…」
「山口だったら、別荘の自分の部屋で寝るって。それに、あの事があるからね」
「確かにな。やったらしゃーないか」
「うんうん」
琴子と桜は勝手に納得していた。
幌のほうも、同じような作りになっていた。
「あ〜あ」
雅が、ベッドに腰かけていた。
「どうした?」
幌が、近くにあった机に向かって勉強をしていた。
「別荘って初めて来るからさ、結構ドキドキなんだよ」
「それは、俺も同じだって。別荘なんて、金持ちしか持ってない印象があるからな」
「確かにそれはあるな」
雅は、妙に納得した。
「そういえば、永嶋はどこ行ったんだ?」
「あいつなら、今頃山口のところだろうよ」
星井出が、幌たちを見ながら言った。
「ああ、なるほどね…」
幌と雅は見合わせて苦笑いした。
「無事にいくかな……」
「さあ、ね」
永嶋と鈴は、二人だけで、広い部屋の中にいた。
窓の外は、未だ明るく、ローテンポの曲が少しだけかかっていた。
「で、何の用なんだ?」
永嶋は、努めて明るく聞いた。
「…わたくし、ううん、わたしね。同じ趣味を持つ人を見たことがなかったんだ」
鈴は、少し離れたところで話し始めた。
「でも、高校に入って、わたしと同じ趣味を持つ人を見つけた」
「それが、自分か」
「そう。わたし、それがきっかけで、これまでいろいろと言われ続けてきたの。でも、私と同じ趣味を持つ人が、すぐ身近にいた…」
鈴は、永嶋の目を見て言った。
「わたしと、ずっと一緒にいてほしいって、そう思えるようになったの…」
永嶋は、山口に向かって歩き始めた。
「だから…ずっと一緒にいてくれる?」
「…そんな急に言われても…」
永嶋は、頭半分ぐらい小さな鈴に言った。
「最終日まで、この返事を待ってくれないか?そのときにまでには自分も気持ちの整理をつけておきたいから」
「わかった」
鈴は、それだけ言った。
「じゃあ、自分は戻ってるから」
永嶋はそう言って部屋から出た。
部屋には、鈴だけが残された。
永嶋が、男の部屋に戻った時、真っ先に雅がきいた。
「どうだった?」
「どうだったって、どういうことだよ」
「告白されたんだろ?」
永嶋は、開いていたベッドに腰かけた。
「まあな」
男たちは、永嶋の近くに座った。
「どんなふうにだ」
星井出が聞いた。
「一生一緒にいてほしいってさ。それだけだよ」
「へぇ〜」
幌たちがそれを聞いて、いろいろと夢想しているようだった。
「さて、そんな場合ではなかった。あの準備をしておかなければ…」
幌と星井出が立ち上がり、部屋の外へと出て行った。
「あの準備って?」
「さあ」
残された人は、何のことかわからず、ただ、首をかしげるだけだった。