第144巻
第146章 帰国[5]
1時間は、あっという間に過ぎていき、放送がかかってきた。
「全日空の成田国際空港経由エジンバラ行きの便の搭乗開始のアナウンスをさせていただきます」
その声を聞いた時、アクサンがぽつりと言った。
「いよいよだね」
ちょっと落ち込み気味のアクサンに、店からでようとしていた琴子がアクサンの元へ戻ってきた。
「なに落ち込んどんのや」
「だって、やっとここまで仲良くなれたのに、別れるって…」
そう言って泣きそうになっているアクサンを店の外側へ連れ出して、肩を組みながら琴子が言った。
「なあ、世界は広いんや。何があっても不思議やない。そんな不思議なものの一つに、わてらの出会いっていうのもあったんや。不思議なことが一度あったら、二度も三度もあって不思議やないやろ。せやから大丈夫や、落ち込まんでもな。わてらは何度も会える」
「…琴子がそんなこと言うなんて想像もしてなかった」
桜と鈴が、二人の後ろのほうで小声で話していた。
「そうだね。こんな風にもいうことができたんだ…」
「あんさんら、あとで覚えときや」
頭だけを二人の方へ向けて、ニヤッと笑っていった。
出国のために、ゲートの近くにまでやってきたところで、幌が言った。
「なあ、これ、作ったんだ。飛行機の中ででも食べといてくれ」
幌が渡したのは、直径が1cmぐらいの小さなクッキーの袋だった。
「ありがと、ちゃんと食べるね」
アクサンは笑って言った。
それから、桜が手のひらに入るぐらいの大きさの袋に入ったものを渡した。
「これって…」
「おまじない。見つけるの大変だったんだからね」
桜は笑いながらアクサンに言った。
「昭和55年の5円玉。5枚連ねてチェーンを通したの。また会えるようにっていうおまじない」
それから、桜はあわてて続けた。
「あ、空港の金属探知機に引っ掛かると思うから、着けるのは向こうに着いてからのほうがいいと思うよ」
「ありがとうね。大事にするから。また会おうね」
「うん、また会おうね」
桜と強く抱き合うと、鈴と琴子もその二人に抱きつく。
さすがに、原洲と幌は彼女たちの輪に入ることはなく、アクサンが離れてから握手をするだけにとどめた。
「じゃあね!」
片手を振りながら、キャスター付きの荷物を引きずりながら、アクサンは荷物検査のゲートをくぐっていった。