第14巻
第21章 夏休み 〜直前〜
テストも返され終わり、残り1週間で夏休みというころから、ぽつりぽつりと夏休みの宿題の話がそれぞれの授業で出始めた。
それと同時に、7月に入ったころから続いていた合服期間が終わり、完全に夏服のみとなった。
桜たちの方が、幌たちのよりも宿題が少なかったが、その分問題が難しくなっていた。
「こんな問題解けないって…」
家に帰っていた桜が先に帰っていた幌に愚痴った。
「大丈夫。姉ちゃんの頭があれば、1日でできる量だろ?」
「…無理だから。マンガ1冊分ぐらいあるよ、このプリントの厚さ」
桜が幌に各教科の宿題のプリントを見せた。
「こっちは、その2倍強はあるね」
幌が桜にプリントの束を見せる。
「そっちも大変そうだね」
「難度では、姉ちゃんのほうが上だよ。でも、量ではこっちのほうが上」
「かかる時間は同じぐらいと、そういう作戦だね……」
二人は、そんな相談ばかりしていた。
翌日、学校に出ると全員が夏服を着ていた。
ただ、なんだかしっくりしていないようだった。
幌のクラスでも、すっかり夏だったが、それでも、宿題のことを思うと、うつになるのだった。
「なんだかなー…」
「どうしたのさ」
幌が、つぶやくと長嶋が反応を見せた。
「夏服ってなんだかしっくりしなくてさ。それに、1週間後のことを考えると…」
「幌ならすぐできるさ。問題は、もう片方のことだろ?」
「たしかにな…山口の別荘って、どんなところにあるんだろうな」
「普通なら、軽井沢とかだよな」
「姉ちゃんは、山口に普段いけないところに連れていくって言われたそうだから、そんな定番な場所ではないだろうよ」
「じゃあ、どこだろうな」
「さあ…」
長嶋と幌は、未だ見たことがない山口の別荘に思いをはせていた。
桜の教室でも、似たような状況だった。
「う〜ん…」
「どうしたんや?」
「いや、なんだか夏服がしっくりこなくて…」
桜は、琴子と話をしていた。
「そのうち慣れるやろ。それよりもな、夏休みの宿題やねんけど…」
「今からその話をする?あんなもの、さっさと終わらせるに限るわよ」
「せやな、それが一番やな。そういえば、山口からなんか、別荘に行くっちゅう話を聞いたんやけど、その話はどうなっているんや?」
「夏休みに入ってから1週間後の月曜日に、私の家の前に集合っていうことになっているよ」
「そっかー…ところで、その本人は今どこにいるんや?」
「今日は休みだって。風邪でも引いたんじゃないかな」
「大変やなー」
琴子はそういった。
1週間後、終業式が来た。
終業式は、男女一つの体育館で行われることになっていた。
校長がいろいろと話している間、放送室では夏休みに関して話し合われていた。
「この夏休み、どうするかだよね〜」
文版が切り出した。
「どこかの大会に、ラジオドラマ作品を出すつもりなんだろ?台本とかはできているんかよ」
宮司が返した。
「大丈夫だよミヤミヤ。もう台本は出来上がっていて、だれがどの役をするかだけだから」
「どんな内容なんだよ」
「基本的には、昔を振り返るっていうこと。題名は『思い出』で、とある喫茶店で出会った同級生が織りなす思い出話っていう感じを目指そうと考えているんだ」
「なるほどね。でも、それって高校生的な視点っていうことになるのかな?」
「充分だと思うよ。とりあえず、台本を夏休み中に配りたいから、いつの日にか集まってもらえるかな?」
「構わないけど、いつかっていうことを言ってもらわないと予定の立てようがないからね」
豆見が答えた。
「じゃあ、8月の1週目の火曜日…3日になるのかな?その日で大丈夫?」
「大丈夫だ」
「こっちも同様」
「じゃあその日に、放送室で集合っていうことで。時間は午前10時からお昼までね」
「へいへい」
こうして、時は過ぎて行った。
終業式が終わり、それぞれのクラスに戻った。
桜の担任が、夏休みの注意を伝えていた。
「…学校は、夏休み中は、お盆休みを除いていつでも誰かいるようになっています。事故や病気などで入院するようなことは起きてほしくないけど、もしも起きた時は、すぐに学校に連絡を入れるように。それじゃあ、夏休み前の一番最後の配布物を配るよ」
それは、通知表だった。
だれももらって嬉しくないこの制度を作った先人たちを、生徒は恨んでいた。
それは、幌のクラスも同じだった。
「それじゃあ、通知表を返すが、ちゃんと親に見せるんだぞ。ハンコだけもらってそれで終わりっていうことにならないようにな」
それだけ言うと、出席番号順に通知表を渡していった。
幌のところには、お互いが気になる人たちが集まっていた。
「なあ、幌の結果どうだった?」
「オール3!」
雅が幌に聞いた。
「なるほどなー」
「雅はどうだったんだ?」
「体育以外はすべて5だった。やっぱり、体育が足を引っ張るな……」
通知表を見ながら言った。
「それよりも、明日から山口の別荘に行くだろ?なんか準備してる?」
「べつに〜。なんか、山口のほうで勝手にしてそうだから、別にする必要がないね」
「確かにそうだな。俺らが出来ることと言えば、着替えとか持っていくぐらいか…」
幌たちは、そんな話をしていた。
学校が終わり、生徒たちは夏休みが始まったという感覚に浸っていた。
幌と桜は、南アフリカに発掘調査に行っている両親に電話をかけていた。
「父さん?」
「幌か。どうしたんだ?」
「7月中、友達の家に二人で泊まりに行くことを伝えようと思って」
「そうか、ところで、今日学校は終業式だったんだろ?成績はどうだったんだ?」
「まあまあだったよ」
「それはよかった。じゃあ、桜と仲良くするんだぞ」
「わかってるって」
そして、電話を切った。
トルコにいたときよりも、南アフリカのほうが電話代が高いのだった。
ちょっとしてから、桜が自分の部屋から出てきた。
「ふぁ〜〜……眠いねー」
「眠いって、ついさっき学校から帰ってきたばかりだよ。それに、明日からは山口の家に行くんだろ」
「そうだけど…今日はもう寝るね……」
再び帰ろうとする桜を、幌はひっつかんだ。
「こらっ!まだお昼も食べてないだろ?それに、寝るには早すぎる時間だよ」
「じゃあ、幌と一緒にいる〜」
「どうせそれが目的なんだろ?ま、たいがいにしてほしいけどね」
そういうと、幌はご飯の準備をし始めた。
桜はすでにテーブルに座ってご飯を食べる準備をしていた。
「ねぇ、ご飯まだぁ?」
「もうちょっと」
幌は言った。
桜はむくれたが、それでも楽しんで待っているようだった。
「ほら、お待たせ…」
幌が作り終わって皿をもってきたときには、桜は寝息を立てていた。
「やれやれ…」
幌は、皿を安全な場所において、そのまま桜を部屋のベッドまで連れて行った。
夕方。桜はゆっくりと起きてきた。
「ふぁ〜、よくねた……」
「そりゃ、昼から夕方まで寝ていたらそうなるよ」
幌はあきれて言った。
すでに、夕食の準備はできており、幌はそれを目の前にして宿題をしていた。
「もう宿題しているの?えらいねー」
「えらいねー。じゃなくね、当然でしょ。もらった当日からしているよ」
「どれくらい終わったの〜」
「だいたい、3分の1ぐらいだね。このペースだと、予定通り終わるはず…」
「そんなつまらないものよりもさ、ご飯食べようよ〜」
「わかった、じゃあ、準備をしよう」
その後、お風呂に入って別々の部屋へと入り眠りについた。
ただ、幌も桜も12時を過ぎても起きていて、寝たのは1時や2時ぐらいだった。