第127巻
第129章 週末旅行[1]
週明けの朝、月曜日というちょっと憂鬱になる日だったが、桜は雰囲気からして変わっていた。
「…ということで、買い物をしてたら当たっちゃったんだけど…」
教室の一角で、封筒に入った旅行チケットを見せながら、桜が友人に話していた。
「どこにいけるんや」
琴子がすぐに聞いてくる。
「『有馬温泉』だって」
「近いなー。ここ大阪の近所やで。梅田からそこまで1時間ぐらいで行けるやろ。もうちょっと別のところがよかったわー」
「有馬温泉って何ですか?」
アクサンが、琴子の横に来て聞いた。
「日本三古湯の一つで、古くは日本書紀に当時の天皇である舒明天皇が湯治に来られたっていう記録が残ってるよ。大体631年の話だね」
年代を聞いた途端に、アクサンの目がキラッと光った。
「631年というと、何時代になるのですか?」
アクサンが桜に聞いた。
「飛鳥時代かな。ああ、そうそう。舒明天皇は、第34代天皇で、ほぼ確実に実在しているだろうといわれている人だからね」
桜たちは皇室について調べているから、こういう風なこともさらっと出てきた。
「そのころイギリス王室はなかったね」
「正確にいえば、その前身になる王朝があったわ」
みんなからちょっと遅れて教室に入ってきた鈴が、すぐに会話に入り込む。
「そんな話しよりも、スーパーで買い物してたらガラポンに当たってね。有馬温泉なんだけど、行く?」
「何人いけるの?」
「4人。私、琴子は行くとして…あれ?」
指折り数えていた桜が、ぴたりと動作をやめる。
「氷ノ山、桜、琴子、文版で4人になりますね」
鈴が、そのことを指摘すると、封筒を机の上においてどうしようか桜は悩んでいた。
「2人分ぐらいなら、わたくしの財布から出せれますね」
鈴はほとんど即答した。
「え、いいの?」
「それで6人まとまっていけるのであれば。ところで、有効期限は?」
「今月いっぱい」
桜がチケットの表面に書かれている日付を見た。
「だったら、今週末にでも行きませんか」
「アクサンがいいんだったら」
アクサンが言った言葉に、鈴が答えた。
「せやったら、今週末いけるやろうか」
「それ、さっき言った…」
「ええやないか、細かいことは」
「さんせー」
いつの間にいたのか、氷ノ山が手を挙げて喜んでいるようだった。
「じゃあ、今週の土曜日に、どこで待ち合わせる?」
結局、いつものように、桜の家の前で待ち合わせることになった。




