第125巻
第127章 留学生[3]
その日の放課後、アクサンは料理部の部室にいた。
全体工事のため、料理部は部活動のときには女子高にある家庭科室を借りることになっていた。
「あの…」
「ああ、どうぞ。幌から話は聞いてるよ」
料理部の部長の原洲だけが、家庭科室の中にはいた。
「ごめんね、まだ引っ越し作業が終わってなくてね」
「いいえ、大丈夫です」
最初に出していたのは、どうやら電気ポットらしく、そこからお湯を出してお茶を入れた。
「どうぞ。幌たちもすぐに来ると思うからね」
「ありがとうございます」
その言葉通り、お茶をアクサンが飲んでいると、幌と琴子がやってきた。
「なんやアクサン、もう来とったんか」
「部長、これ、先生から渡してくれって」
幌は、原洲にファイルを渡した。
「ああ、ありがとう。先生はなんて?」
「しっかりやれとだけ」
アクサンはそれを見ていて、琴子に聞いた。
「あれって、なんですか?」
「ああ、部長は今年で大受やからな、受験用の資料や。なんか、私学目指しとるらしいし、まあ、頑張ってくれたらわてはええんやけどな」
「人事だなあ、来年は俺らも同じなんだぞ」
幌が琴子に言った。
「そんなことよりもな幌さ、なんかこさえてや」
「作ってくれって言われても、材料も道具も、まだ段ボール箱の中だから…」
「やったら話は早いやないの。部長も手伝ってくれはりますよね」
「もちろん」
琴子は原洲にもすぐに言った。
「あの、なんで幌に作ってほしいんですか?」
アクサンが聞いた。
「あんな、幌が作る飯はな、文字通り天下逸品なんや。せやから、みんなはな、幌がどこぞの店で料理長したらええんやないかって、いつも言うとるんや」
これで、幌の逃げ道は全部ふさがれた。




