第12巻
第17章 再開
次の日、学校には久しぶりの笑顔があふれていた。
「やっと再開か〜」
幌は、教室のいつもの席でだれていた。
「体育館は使用禁止だって。当分の間っていう話だけど、いつまでかは分からないね」
星井出が答えた。
幌の周りには、いつものメンバーが集まっていた。
「そっか、体育の時間が困るぐらいで、ほかは別にかまわないな…」
「放送部は困るよ〜。点検ができなくなるし、わざわざ女子高側の設備を使わないといけなくなるし…」
宮司がぼやいた。
「そうだな。体育の時以外にも、全校朝礼とかは体育館でするからな。その時が困るのか…」
「別にかまわないだろ、幌さ、心配しすぎだと思うぞ」
そう言って、幌に雅がつっこんだ。
「そうかな…」
そんなとき、チャイムが鳴った。
「ほらほら、みんな座れよー」
担任が言った。
「とにかく、みんなが無事に学校に来れた事は、先生としてとてもうれしく思う。だが、あの事件があったからと言って、期末テストの時期は遅らさないからな。残り1か月。みんな頑張れ」
それから先生は、諸連絡をしてから、教室を去った。
再び、幌の周りにはいつもの面々がそろった。
「やばいよ、テスト1か月前とか忘れてたよ」
永嶋が言った。
「幌はすでに勉強しているんだろ?」
「そうだな、もうし始めてるよ。それよりも、ちゃんと日頃勉学にいそしんでいたら、テスト直前になって焦るようなこともないと思うんだけど?」
「う…確かにそうなんだけどさ…」
永嶋がつぶやいた。
「先生の声を聞いていると、催眠術にかかったかのような感じになって…」
「それも分かるけどさ、結果的には、本人の問題だろ」
「それじゃあ、雅は眠くならないのか?」
「当然。眠くはならないね。いつも規則正しい時間に寝起きしていたら、そんな眠気なんて感じないさ」
「眠くなるときは眠くなるっていうことなんだけどね。それよりも、どうやって勉強しよ…」
永嶋がうつむいた。
幌がいった。
「もうちょっとしてから、みんなで勉強会するか…」
「それいいね!」
永嶋は、明るくなった。
第18章 1学期期末考査直前
それから半月後。情報部に申請していた過去問がようやく届き、勉強会をすることになった。
場所は、幌の家だった。
「…ということで、この問題の答えは、X=4、Y=1になるんだ。わかった?」
一応先生役をしていたのは雅だった。
「やばい、全然わからない…」
永嶋が言った。
「これぐらいの2次関数はできておかないと。後々相当使うんだから」
「よくそんなの覚えられるな」
「永嶋こそ、よくそんなに覚えられないな」
「自分は、人生に不必要なことは覚えない主義なんでね」
その時、幌の部屋の扉が開かれて、桜が入ってきた。
「ねえ、入ってもいい?」
「…もう入ってるけどさ。何の用?」
幌が、桜の発言に対して答えた。
「実はさ、私たちも混ぜてほしいなと思って…」
「私たち?」
「女子は女子で集まって、私の部屋で勉強会を開いたんだけど、3人集まっても文殊にはならなくてね」
「ハァー、わかったよ」
幌は、ため息をついてから、居間に移動した。
テスト1週間前。公安部と情報部、及び放送部以外の部活動が停止された。
桜の教室でも、テストの話をしていた。
「テスト一週間前になると、部活動も停止されるからね」
「これまで実感無かったけど、ようやくテストが始まるっていう感じだね」
桜は、すぐ前の席にいる氷ノ山と話していた。
そこに、山口が来た。
「桜さん。少しお時間よろしいでしょうか」
「ああ、かまわないわ。どうしたの?」
「少しばかりお力をお借りしたいと思いまして…」
「山口が解けないような問題って、私にも解けないと思うけど…」
とりあえず、その問題を桜は見た。
「えっと……」
少し考えてから、問題集を山口に返した。
「うん、これは先生に聞くべきだと思う。私なんかよりそのほうがよっぽど優しく教えてくれると思うよ」
桜は、そう返した。
「そうですか、わかりました。では、放課後に聞きに行ってみます」
「そうそう、それがいいよ」
放課後になった。
テスト1週間前になり、勉強に力を入れないといけない時期にもかかわらず、なかなかできないのが実情だった。
「なんで、こんな時に限って他のことばかり考えちゃうんだろう」
桜がつぶやいた。
「よくあることだと思うよ。ボクだって、いつも集中できないけどね」
文版がいった。
「でも、文版は勉強もそこそこできるでしょ。だったら、まだましでしょ」
「そうかな〜。さくちゃんよりはできてないからね…」
「さくちゃんって、どこぞのアニメキャラにそんな人がいたわね…って、そんな事より、勉強はどうなの」
「さっきも言ったでしょ。勉強はそこそこしかできてないって」
「…1週間前になってそこそこって…」
「だったら、さくちゃんに教えてもらおうかな〜」
「別にかまわないけど、それだったらいっそのこと、ほかの人たちにも召集かけてみようか」
「そうね、それが一番ね」
そして、桜と文版は、ほかの友人に連絡を取ってみた。
桜の家では、幌の部屋の中で、すでに男たちが集まって勉強会を開いていた。
「あ、姉ちゃんおかえり」
偶然部屋の外に出ていた幌が、桜が帰ってきているのを見つけて声をかけた。
「ただいま。幌も勉強会?」
「そう。姉ちゃんも?」
「そうよ、後1週間で、駆け込みで覚えようとしているようなんだけど…無事に行けるかしら」
「…ノーコメントということで。じゃあ、俺、部屋にいるから」
「分かった。じゃあ、後で」
幌と桜は、そのまま別れた。
日は過ぎて、テスト前日。
勉強会と言っては集まっていたが、なかなか進歩しているように思えなかった。
それどころか、別の話で盛り上がっている最終日だった。
幌の部屋にて。
「そう言えばさ、あの事件の時、宝物がどうとかいってたよね」
幌が、急に切り出した。
雅がいった。
「ああ、そうだったな。それがどうしたんだ?」
「あの宝物っていう噂が気になって、少し調べてみたんだ」
「で、どうだったの」
幌の話に、みんなが注目した。
「今高校があるところは、昔、金の鉱脈があったっていう場所なんだ。その産出量は、現在の価値に換算して、1年間で約40億円。それを目当てに山賊や盗賊も出たんだけど、彼らは生きて帰ってこれなかったて言う話。それと、その鉱脈は今でも未発掘の部分が多くて、この高校のどこかに扉があって、そこから金を取ることができるっていう話があったんだ」
「じゃあ、あの人たちもそれを目当てに…」
「たぶんね」
「そんなことよりも、さっさと勉強するよ」
星井出が言った。
「はいはい」
そう言って、幌はノートと教科書を開いて問題を解き始めた。