第119巻
第121章 家出[2]
鈴が山門に話したところによれば、どうやら、冷蔵庫に入れていたプリンを食べられたらしい。
「えっと、それだけ…」
「それだけって何よ、特別なもので、1日限定10個しか無いプリンだったのよ。わざわざ朝から並んで買ってきたっていうのに、それをお父さん、ペロッと食べちゃったのよ!」
「まあまあ、その店って、近く?」
「ここからだと30分ぐらいかかるかも…」
鈴がちょっと考えて言った。
それから、山門も何か考えて鈴に聞いた。
「明日って、その店開いてるのか?」
「え…開いてたはずだけど」
「それじゃあさ、明日までゆっくりしていきなよ。明日さ、俺と一緒に買いに行こう」
そう言って、山門は鈴の首筋に腕を回し、そこから彼の体へ近づけて抱き締めた。
急なことだったから、鈴も何もする暇がなかった。
数秒、そんな状況が続くと、顔を真っ赤にした鈴があわてて山門から離れた。
「きゅ、急に…」
鈴は、山門から人一人が入れるようなスペースを空けて座りなおした。
「いいじゃないか。誰も見てないし」
山門が言ったその時、バタバタと廊下を走って逃げ去る音が派手に聞こえてきた。
「…多分」
山門は、あわてて付け足した。