第110巻
第114章 新入部員勧誘[1]
天文部では、相変わらず先輩たちがいないために、3人で頑張っている。
「ちょっと私のデータ、どこに飛んだの!」
パソコンの中に入っていたはずの桜が撮った天文写真のデータが、なくなっていた。
「データはバックアップ取ってただろ。それを使えばいいんじゃないか?」
「あ、それもそうね」
島永宗谷に言われて、桜はバックアップのハードディスクからデータを抜き取った。
「天体観察はたぶん無理だから、こうやって写真を見せるしかないわね」
コピーをした写真を見ながら、桜はすぐ横で天体望遠鏡のメンテナンスをしている澤井陽菜に言った。
「そうそう、でも、何が一番かっていうと、やっぱり望遠鏡を使わせることなんだけどねー」
「こんな日中に何を見せるっつーんだよ」
メンテナンス道具が入った段ボール箱を澤井のそばまで持ってきた島永が、桜の写真を覗き込みながら言った。
「…黒点?」
「太陽直接見させるつもりか、相手失明するぞ」
澤井の言葉に突っ込む。
「そんなことよりも、建物の一番上にあるんだから、誰も来ないかもよ。そしたらどうしよ」
澤井が思い出したかのように言った。
「ああ、放送部と情報部に話を通して、お昼休み中に宣伝をしてもらうようにしてもらってあるから。その点は大丈夫」
島永が澤井に話す。
「手回しいいね。いつの間に話したの」
「お前たちがそうやってパソコンに向かっている時にさ。張り紙の許可も取っておいたから、適当にはってきてくれ」
「えー、それは島永がやってよ」
「何を言ってるんだ、ずっとそうやってパソコンと向き合ってたら、頭ぼんやりしてくるだろう。ときには外に出ることも必要だからな」
そう言って、手に持っていた5枚のポスターを、澤井と桜に押し付けて、本人は部屋から出た。
「まったく、外に出るんだったら、自分ではりに行けばいいのに。ねえ…」
澤井は、島永が出て行ったあとの扉をぼんやりと見ていた。
桜はそれを、何も言わずに見ていた。