第11巻
第16章 結末
55分ががたった。
警察から連絡がったのは、そんな時だった。
「はい、放送部です」
「警察です。5分後に突入をするので、その打ち合わせです」
「分かりました。では、情報部にお繋ぎします」
そして、前と同じように、情報部と警察の電話を並べた。
「情報部です」
「警察です。では、お願いしますよ」
「分かりました。では、いまはどこにいますか?」
「女子高側の生徒昇降口です」
「そこから、すぐ右手に階段があります。そこを1階分あがってください。それから、再び生徒昇降口側の通路を通ると、いちばん端っこの校舎にたどりつきます。そこを左側に曲がると、体育館へ通じる通路があります」
「分かりました。では、この電話は通じたままにさせていただき、敵兵が現れ次第、お知らせください」
「了解しました」
それから、3分ほどすると、進撃してくる音声が受話器の奥のほうからゆっくりと聞こえてきた。
「現在、敵はすべて体育館内に人質とともにいます」
「わかった」
そのような単純な会話だけが続いていた。
数分もすると、体育館の周りは、特殊部隊で取り囲まれた。
放送部は、そのときの体育館の中をよく見ていた。
「まずい…外を囲まれた」
「そっか…だが、警察部隊も人質がいる以上中へは侵入してこないだろう。こちらの要求はすでに伝えてある。この高校の生徒であるならば、一応は聞いたことがあるはずのことだ」
「しかし、10年程前にはやったうわさなんでしょ。それが果たしてあるかどうかは別問題なのでは…」
「10年前からあるものが、ここで見つかったという話を聞いては無い。だから、今もここにあるはずだ」
そのとき、スモーク弾が打ち込まれた。
「警察だ!その場を動くな!」
レーザーポインタが犯人たちの体中に当てられた。
瞬時に体育館は制圧された。
「ふぁ〜、やっと終わったな」
情報部では、体育館の出来事の全てを見ていた。
「それよりも、今回の事件は学校史に残るものでしたよ。でも、犯人たちの目的である宝物って、何なんでしょうね」
「うわさだから、あまり気にしないほうがいいと思うよ、星井出君」
情報部の先輩がそういった。
「そうですね」
星井出が返事をした。
そんなところに、先生が入ってきた。
「先生!」
「おお、みんな元気だったか」
「ここにいる全員と、放送部のおかげで、危機を脱出できたんです」
「そーか、それはよかった」
情報部の顧問である、桃井春井先生と情報部部長が話していた。
その情報部には、さまざまな場所からの連絡が入っていた。
翌日、その情報を集計し、情報部顧問は警察との合同会見に臨んでいた。
「今回の立てこもり事件に関して、高校側からの報告です」
警察の人が司会をしていた。
「情報部顧問をしています、桃井春井です。今回の立てこもり事件につきまして、報告がまとまりましたので、この場を借りて発表させていただきます。
前日の立てこもり事件の発端は、10年以上昔に流行したうわさです。そのうわさによれば、この高校内に宝物があるというものです。そのようなうわさは事実無根であり、実際にはそのような宝物など無いと断言します。
犯行当日に、高校事務室へ入り、何食わぬ顔で手続きを校内へ入りました。その際には一人のみが手続きしています。その結果、内部へと堂々と侵入を果たしました。
彼は、この高校の卒業生でもありましたので、教師に会いたいといっていたことも確認されています。そのため、職員室へすぐに上がって行った事も不審に思われませんでした。
そのときに、職員室を実力で占拠しました。
その後、彼が手引きをして、仲間を職員室へ呼び、体育館へ生徒全員を呼びました。
しかし、一部の部員たちはその場に残り続けました。今回のこの事件の解決には、その彼らの力が必要不可欠でした。
その点も、ここで発表させていただきます。
これ以上の点は、警察側からの発表にゆだねたいと考えております。
それでは、私は、職員会議がありますので、これで失礼させていただきます」
桃井先生はそれだけ伝えると、礼をしてからそのまま会見場から去った。
学校は、この日から臨時休校になっていた。
だから、生徒達は、それぞれの家や寮で休んでいた。
幌と桜も例外ではなかった。
「ふぁ〜…」
「姉ちゃん、眠いの?」
桜と幌は、居間にいた。
テレビをつけて、桃井先生の会見を見ていた。
前日に家に帰ってから、すぐに眠った二人は、昼まで起きなかった。
ふと気付くと昼ぐらいになっていたので、幌が昼ごはんを作っていた。
会見が終わると、テレビを切った。
その時、誰かが来た。
「はいはい。少し待って下さい」
桜が、ソファーから立ちあがり、玄関へ向かった。
そこに立っていたのは、両親だった。
「大丈夫だったか!」
「父さん。母さん」
幌が、その声を聞いて、玄関へ向かった。
「トルコで発掘していたら、高校が襲撃を受けたって聞いて飛んで来たんだ。大丈夫だったのか?」
「大丈夫だから。それよりも、発掘って大変じゃないの?」
「そっちの心配はしなくていいから。そうか、誰も怪我をしていなかったら何よりだ。そのあたりの情報は何も言ってなかったから、心配したんだ」
「とりあえず、部屋の中に入ったら?」
「そうだな。自分の家で玄関で立ち話をすることも無いだろうしな」
そういって、4人で居間にいた。
次の日になると、両親は再び発掘現場へ向かった。
そして、学校が再開されるという話が入ってきた。
その話は、星井出からだった。
「もしもし、星井出です。井野嶽さんですか?」
「そうです。幌です」
「ああ、幌か。よかった。学校側から連絡で、情報部から全員に連絡を出しているんだけど、明日から、学校を再開するっていう話。一応、桜さんにも連絡を入れておいてほしいんだけど」
「わかった。姉ちゃんの方には、俺から話を通しておこう」
「ありがとうな。じゃあ、別の人たちにも掛けておかないといけないから…」
「がんばれ」
そして、電話を切った。
幌は、そのまま眠り続けている桜の部屋へはいった。
「姉ちゃん、入るよ」
部屋の中は、少し乱雑だったが、それでも整理されている方だった。
「ん〜〜〜」
誰かが入ったことを察知してか、もぞもぞと布団の中で動いていた。
「イモムシみたいだな」
「イモムシじゃないもん…」
寝言のように言葉が軽かった。
「スゥスゥ…」
そのまま、再び深い眠りについた。
幌は、ため息をついて部屋から出た。
昼過ぎ、ようやく桜が起きた。
「おはよ〜。って、あれ?もう13時?」
「そうだね。昼ごはん食べなよ。それよりも、顔洗うか?」
「どっちもしたいな〜」
「じゃあ、さっさと洗面台に向かう。ほらほら」
手を叩いて、急がせた。
ご飯を食べ終わったときには、14時になっていた。
「ごちそーさまー」
「オソマツサマ」
幌は、先に食べ終わっていて、食器を洗っていた。
「お父さんと、お母さんは?」
「もう仕事に出ていったよ。姉ちゃんがずっと寝てるから…」
「あ〜あ、私のせいなんだ」
「そうだよ」
「はっきりと肯定したね…」
「当然だよ。姉ちゃんがずっと寝ていたから、父さんと母さんを見送れなかったんだろ?」
「幌が起こしてくれたらよかったんだよ」
「そうかもしれないけどさ…」
幌は、食器を洗い終わり、タオルで手を拭いてからソファーに座った。
すると、食べ終わってシンクに食器を入れただけの桜が、幌のすぐ横に座った。
「そうだよ〜。だからさ、幌がちゃんと起こしてくれるように、何か考えない?」
そう言いながら、桜は幌の膝に手を伸ばした。
「結構です。期末テストの勉強してるから、部屋には入らないで」
幌は、桜の手の甲をはたいてから立ち上がり、そのまま部屋に戻った。
「あ〜あ、また失敗だ…でも、私はあきらめないぞ!」
何かの決意を胸に、桜がいった。
外では、今まで曇っていた空がうそのように晴れ渡っていた。