表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

勇者サマへの誕生日プレゼント①

 僕がパーティーから追放されたのは、勇者サマが魔王が住む大陸に移ってすぐの事だった。

 その日の食糧を調達している最中、突然聖女に結界の中に閉じ込められたのだ。


 結界を必死で叩く僕に、戦士は言った。


「勇者にはテメェーが魔物を見ただけで小便漏らして逃げた腰抜けって事にしておくからよぉ。そこで野垂れ死んでろこの大間抜けが!」


 戦士と聖女は、何が楽しいのかバカ見たいに下品に笑い合って、何処かへ消えた。消えたと言うよりも、勇者サマのところへ戻った。


 僕は絶望した。


 このままでは勇者サマの勇姿を拝む事が出来ない。勇者サマがどの様にこの大陸を駆け抜け、どうやって魔王を倒したのかを吹聴出来ない! なんたる事だ、なんたる事だ!


 くそぅ、くそぅ!


 戦士め、聖女めぇ!


 なんて酷い事をするんだ! 僕を勇者サマから引き離すなんて、人間じゃない! なんたる非道、なんたる外道!


 結界に閉じ込めるなら中の空気を抜くくらいしたらどうだ! 手緩いにも程がある!


 嗚呼、勇者サマ!

 こんな中途半端な非道しか行えない小物が貴女の傍に居るなんて、僕はどうしても許しがたい! 貴女の傍に居て良いのは大物だけです!

 そんな低俗で野蛮で卑猥な連中は貴女の仲間で居るべきではない。勇者サマも知っているでしょう!? 毎晩毎晩股を開く聖女に戦士が粗末な棒を突っ込んでいる事を! 静かになるまで顔を真っ赤にして枕に顔を埋める貴女が愛らしくて愛らしくて堪らなかったんですからね!


 勇者サマ! 勇者サマ、勇者サマ、勇者サマぁ!


 結界が解けたのは三週間後だった。


 完全に餓死させるつもりだったのだろう。かなり気合いを入れて結界を構築していたらしい。


 僕はすぐに行動を開始した。


 川を見付けて、形振り構わず飛び込み全身で水を浴びた。

 流石に、ずっと土で飢えを凌いでいたせいで喉がひりつき、頭の奥がズキズキと痛みを発していた。

 三週間ぶりの水はとても美味しく、文字通り生き返った気分だった。


 その後、魔物を仕止め、しばらくの食糧として勇者サマを追ったけれど、既に魔王を倒して王国へと帰還した後だった。


 僕は戦士と聖女を心底恨んだ。


 あんな下らない連中のせいで、勇者サマの勇姿を拝む事が出来なかった事に激しく憤った。


 くそぅ、戦士め、聖女めぇ!


 まっ、いっか。


 勇者サマが帰ったと言うのなら、僕も王国へ戻りましょう。


 当然の事だが、魔王の大陸と人間の住む大陸に行き交う船は無い。魔王の大陸に来た時も、勇者サマが造らせた特別な船で雷雨と嵐の中を突き進んで来たのだから。


 陸続きではない大陸。空は嵐、海は津波。およそ人が住むには悪条件てんこ盛りな大陸。


 海を泳いで渡るのも良いですが、もっと楽な手段がある事に思い至りました。

 魔王はこの大陸から、魔物の軍勢や幹部を人間の大陸へと送り込んでいた。なら、魔王個人の力ではなく、大掛かりな装置が有ってもおかしくはない。


 まぁ、無かったら泳ぎですね。


 それから、僕は魔王城へと向かいました。


 魔王城付近には、魔王軍が必死の防衛戦をした痕跡が有りました。


 地面に色濃く残る破壊の痕跡は、一本の線の様に真っ直ぐ魔王城まで続いている。勇者サマによる剣の一振りで、防衛部隊は壊滅したのでしょう。


 勇者サマの圧倒的な強さの前には、魔王軍や幹部、それ以下である戦士や聖女は霞んでしまいます。


 閑散となった魔王城に難無く侵入し、人間の大陸へと渡る装置を探しましたが、一向に見付かりません。


 さて、荒れる海を泳ぐかと思っていると、何やら玉座に凭れる人物を見付けました。


 激しい戦闘が有った事を見る者に痛感させる破壊の痕跡。荒れ果てた広間は、恐らく魔王城の謁見の間なのでしょう。


 近付くと、僅かに息が有りました。


「ぐ、ぬぅ………。き、さまは、勇者の、仲間、か?」


「おお! これはなんたる僥幸! なんたる奇跡! 勇者サマ。まさか貴女が倒した魔王とこうして対面出来るなんて、夢のようだあ!」


「仲間、なら、勇者に、伝え、ろ。仲間は、選んだ方が良い、と」


「えぇ、ええ! 伝えましょうとも! 魔王の最期の言葉、しかと僕が勇者サマにお伝えしましょう!」


「……ふっ。瀕死の私を前にして、止めの功績よりも伝達を喜ぶか、中々に、イカれている」


「魔王サマ、事切れる前に聴かせて欲しいのですが、勇者サマはどの様に戦いましたか? どの様なお顔でどの様な言葉をどの様に述べましたか? お聞かせ下さい魔王サマ、どうかどうかお聞かせ下さい魔王サマ」


「……勇者は、対話を望んでいた。それを、強引に殺し合いに変えたのが仲間の二人だった。私に止めを刺した後も、奴は悲痛な顔を浮かべていたよ。後悔の念が、剣を通して伝わって来た」


「えぇ、そうでしょうとも。勇者サマ程慈悲深い方を僕は知りません。あの人程、誰かに歩み寄る方を僕は知りません。だから、僕はもっと沢山の人に勇者サマという人間を知って欲しいと望んでいるのです」


「私は、一人の王として、魔族を背負う長として戦った。ここよりも住みやすい土地を求めて、すがり、騙され、争った。勇者なら、我等の希望になり得た。話が和解に進もうとした時だ。勇者の仲間が、蛮行に及んだ。女が突然苦しみ始め、男が我等に有らぬ疑いを向けた。洗脳しようとしている、とな」


「和平に進むと人間側としても不都合だったんでしょう。勇者サマにはそんな事関係ありませんが」


「人間とは、相容れぬな。……どうか、頼まれてくれ。今も何処かで、隠れている同胞が居る。我が同胞を、頼まれてはくれぬか?」


「……魔王サマ。僕はね、他人の最期の言葉は大事にすると決めています。安心して下さい魔王サマ。あなたの同胞は、決して悪いようにはしないと誓いましょう」


「嗚呼、ありがとう。私の剣を持って行け。それがあれば、隠し通路が開く。そこには、人間の大陸へと続くポータルが今も開いている筈だ。人間、最期に、貴様の様な者と話せて、良かっ、た」


「魔王サマ……。あなたは偉大な王サマです。下らぬ人間に翻弄されなければ、きっと、良い未来が待っていたはず。その未来を見れず、僕は、ただただ無念でなりません」


 魔王サマの遺体を丁重に弔い、件の剣を拾いました。


 何かが侵食してくる感覚があったが、何故か怯える様にして剣の中へ引っ込んでいった。


 恐らく、魔剣の類いなのだろう。強靭な精神力を持たなければ、魔剣に人格を乗っ取られて狂ってしまう呪われた武器。けれど、使いこなせば強力な力となる。


 魔王城を後にして、残された魔族とやらを探しました。捜索は案外簡単で、魔剣の力で楽々発見、そして説得。魔剣を見せたら彼等彼女等はすぐに大人しくなり、涙を流していた。


 一応大陸の隅々まで捜索したけど、未発見の魔族は居ませんでした。


 隠れていた彼等彼女等は、魔族の中でも一段と非力らしい。人間からすれば十分な脅威だけど、格差が下であった影響か、積極的に打って出ようとする思想は無かった。どうにも、受け身なスタンスらしい。


 彼等彼女等を連れて、隠し通路を通り、まだ起動していたポータルを潜り、僕達は人間の大陸へと帰ってきた。


 折角の人材、折角の労働力。


 勇者サマに魔王サマの伝言を伝える前に、一つ、商売でも始めましょうか。

作者「魔王は人間に土地を頂戴と交渉するも、騙されて同胞の半数を失ってしまう。激怒した魔王による報復を、人間は被害者面して非難しました。みたいな」

友人「まだまともなのね主人公」

作者「因みに、主人公くんが飛び込んだ川は有害です。魔族ですら一度浄化してから飲みます。そして食べた土は猛毒です。魔族が食べたら死にます」

友人「何その死の大陸みたいなの? というか死の大陸なの?」

作者「まぁ、魔王がどれだけ必死だったかが少しでも伝われば良いなぁ。もう一個言っとくと、主人公くんの言った悪いようにはしないだけど、飽く迄も主人公くんの基準である事を忘れないように」

友人「うっわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ