秘密結社『親愛なる悪役諸君』
「物語における最も大切で魅力的なものはなんであるか
主人公?
当然大切だ。そもそも主人公に魅力がなければ話を読みたくならない
ヒロイン?
これも大きい、ヒロインが魅力的であればそれだけで評価されるべきだ
ライバル?
魅力的なライバルは時に主人公の人気すら凌駕するだろう
だが私の考えは違う
そうではない、いくら人を集めてもそれだけでは物語は始まらない
では何が必要なのか、
お答えしよう
敵だ。敵なのだ。
少女に絡み、主人公によって無様に成敗される不良
恋物語を進める上で姑息な手段で出し抜こうとして当て馬になる金髪ロール
冒険者ギルドに登録した瞬間に絡み、返り討ちになるチンピラ冒険者
頭が悪いほどの重税を課し、領民に手を出して領民を苦しめる領主
律儀に一人ずつ送り込み敗北する怪人と悪の軍団たち
わざわざ回りくどく人を殺し謎を作る殺人者
ここで私が言う敵とは何もキャラクターに限った話ではない
いきなり始まる理不尽なデスゲーム
脈絡なく現れるご都合満載のダンジョン
戦いの理由すら忘れた百年戦争
世界征服などというどの国もやりたがらない糞面倒な主義を掲げる秘密結社
世界に対して立ちふさがる問題や障害、つまりは敵
物語が動き出すにはそれこそが必要なのだ。
そう、悪役こそ物語を回し続ける真の功労者なのだ。
だというのに……、だというのにだ……。
足りない!! 圧倒的に足りない!! 需要と供給があまりにも追いついていない!!
この世は英雄どものなんと多いことだ!
この世にあふれんばかりいる主人公に対して消費されゆく悪役はあまりにも多い!!
今、現場が欲しているのは供給過多なヒーローなどではなく私たち悪なのだ!
我ら悪役こそが今、世界に必要とされている!!!!
……熱くなりすぎたが、その自覚をもって我が結社に入社してもらい、君たち新入社員への訓示とさせてもらう」
歓声が上がる。
その声を上げているのは凶悪な顔をした人間かどう見ても人間に見えない怪物たちだ。
「やべぇな、この会社」
俺は今、猛烈にこの会社に入ったことを後悔している。