表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カレンツ・ナクターの事情  作者: 籐仙日々人
16/18

命の向こう側

頑張って見ました。


  16.命の向こう側


 アーロネス・ツイス・ワウターは死を迎えていた。

 其れは、意図されたものではなく、ある意味必然とも云える事象(・・)ではあった。

 生きている者が、神に会うことは能わない。

 それが摂理であり、曲げることは適わない。

 運命に書かれた『死』を越える。

 それは出来ない。

 しかし、“神”との出会いは運命ではなかった。神は運命線を越える存在。故に、アーロネスには抗う余地があった。

 しかし、意識はない。

 もちろん、無意識さえも。

 自我は、アーロネス・ツイス・ワウターという肉躰の“容”(カタチ)のみが、この刻、この場所にのみ『在る』だけであった。

 人の死は『三死』あるというが、その全てが喪われようとしていた。

 人意。

 人躰。

 人羅。

 それは、この帝国の智慧ではない。

『漢禄帝国』

 その貴人たる『帝王』、あるいは『聖帝』の命を守る為に培われた『技術』の上に識ることの出来た『生命』の『智慧の実』

 前にも述べた様に、帝王の前に人は皆“平等”である。

 厳密に『死』は取り調べられている。

 普通の死とは、肉躰の限界によって(せい)が適わなく成る者を指す。

 滅多にない死に、肉躰の『意』が亡くなる場合がある。

 更に有り得ない死とは、『魔』との繋がりが断たれてしまうものだ。

 アーロネス・ツイス・ワウターは、その類い稀な資質によって、人羅を喪ってはいなかった。『世界』と『彼』は密接に繋がっていた。

『魔法』は『世界』を改変する。

 それは、基本的には『人』のみ、為せる技だ。

 人が、改変する触媒となって意識『人意』を凝らす。変革された『世界』は『人意』によって固定される。つまりは、人が“そう”と『認識』をしなければならない(・・・・)

 人は『世界』と繋がっている。

 『魔』(ether)『法』(rule)は、一つの例外を抱えている。

 それは、何者であれ、何物であれ、抗えない。

 悠久から続く『刻』

 これは絶対である。

 些細な抜け道はあれど、ここからは抜け出た者は誰も居ない。

 今、アーロネス・ツイス・ワウターを『世界』に繋いでいるのは、僅かばかりの『時間』でしかない。

 血脈の資質に拠って『世界』と『人羅』が濃く繋がっていた。

 それが、最後の命の証明。


 だが、


 彼には、生かされる運命があったのだろう。

 そこが、魔術環処であったこと。

 機関長が伯母であるオゥタレストであったこと。

『物の理』による治療院『病院』であったこと。

 シアーナ部長に野戦治療の経験があったこと。

 全ての手が幸いへと導いた。

 魔術環処には、魔法因果律による建築によって通常よりも濃い『魔』(ether)が渦巻いている。(通常であれば違法建築)そして、今回は使用に至らなかったが、ここには『加速魔機那(カソクマキナ)』《ether・accelerator》もあり、『魔法』的な手段には事欠かなかった。

 オゥタレストは、濃い血縁としての『人意』の代理体として意識の保全を担った。これは長時間、おこなわれてしまえば、二重意識病や、二重人格者になる場合もある。非常手段としても、あまり推奨はされてはいないが、資質と相性の面でも稀な例と言って良いだろう。

 ここは『物の理』の府であり、それによる延命の最新設備が揃っていた。死者蘇生に必要なのは、空気の強制呼吸器と疑似心拍律動器だ。

 野戦の治療法は、乱暴で、正確性に欠けると考えられがちだが、命の仮を為す事に於いては重要度が高い。流血には止血。衝撃による心肺の停止には『魔法』による生体代替法。

 突然の『死』を曲げるだけのモノには殊欠かなかった。

 彼は、その命を長らえた。


「それは、きっと『神降ろし』でしょうな。確たる証拠などはありませんが、状況からして、そう判断するのが、適当かと」

 それは、アーロネス・ツイス・ワウターを診察した、ここの実務医官の意見だ。

 彼は顔色一つ変えることなく、診断を下した。

「それは、…本当か」

「どうでしょう。嘘ではないと申し上げるのが、今の私では精々ですな」

「んー、むぅ」

 オゥタレストは、悪い美貌も陰を潜めて唸っていた。

「だいたい、私は、あんな装置の存在自体を知りませんから、複合的な判断などは出来ません。アレについての知識があれば、また違った判断を下せる余地もあるかもしれませんがね」

「そうか、あれは『魔術遺産』の一つでな」

 その妖しい唇の動きも悪い。

『魔術遺産』

 関係者のみが使う、特殊な隠語だ。

 普通の人が聞いても、然して違和感を憶えないよう配慮されたソレ(・・)は、凡てが帝都の秘密機関所有とされる。特殊管轄約款のどこかにソレ(・・)は、『発見、発掘、相続にかかわらず、公務認識発生次第、機関管轄下のモノとする』と書かれている。

 そこには、効果の大小等は考慮されていない。

 見つけ次第、あらゆる人から隔離する。それを目的に書かれた一文だ。

「それは、なんと言うべきでしょうか、『ご愁傷さま』ですかな」

「すまんな、アレは責任は私にあるのだが、調査は三年待ちだったのだ」

「そんなものを使ったので?」

「使用実績は充分でな、三十年ぐらいの簡単な診療記録もあった。村の医者代わりだったらしい」

「なるほど」

「ただの、催眠自己診断機だと思っていたが、認識不足か」

「『神降機』とでも名付けますかな」

「そうだな、そう具申しておく」

「では、」

 彼は、用は済んだと、踵を返した。

 機関長は溜め息を吐きながら、兄サンドロークへの連絡を気が重いながら魔導応喚でコールを取り始めた。


 彼、アーロネス・ツイス・ワウターは突如として夢を見ているのに気づいた(・・・・)

 そこには、近衛官に成る前の未熟な存在である自身がいた。

 いつも、何事にも、適当な気持ちで居た頃の、ちょっと苦い記憶だ。

 アーロネスは、然して気力を上げずとも、他の人の苦難ともいえる事態を乗り切る事が出来た。才能と資質はずば抜けていた。

 それに対して、悪ノリすることもなく、特に何の感慨も湧かない。そんな子供だった。二十二も過ぎた大人には、無理ある言葉だが、彼は、正しく子供だったのだ。

 周りに集まる人も、出来た人間ばかりで、無茶や無理を通したこともなかった。

 それでも、人は、出来ることと出来ないことを苦い記憶と共に学んでいく。それが、普通だ。でも、彼は普通ではなかったのだ。残念なことに。

 彼が、近衛官の仕事を選んだのは偶然だ。

 ほんとうに、彼は、卒業後の仕事を決めかねていた。

 いや、人生というべきなのか。

 あのとき、あの偶然が無ければ、このような事態には為らなかった。のかもしれない。なければ、なくてはいけなかったのかもしれない。

 夢で、考え事をすると『世界』が廻ってしまう。

 あのとき、お忍びで出歩いている、

 月皇陛下を『認識』しなければ、、

 ああ、あの人が、あんな風に笑わなければ、、、

 彼は、一種の後悔をしていた。

 選ぶことのなかった、曖昧で、あやふやな、何もない人生を、望んでしまう自分自身を、


 そう、いくら、人が、その意思で、『世界』を変えてしまおうとも、


 そう、決して、結して、(くつがえ)らない、


 時間だけは、


『魔法』の効かない歯車の行方。


 そうして、彼は夢のない眠りに落ちていった。



彼女は、傑出した美貌ではない。

だが、実物を見た人々は言うのだ。

『素晴らしい』

『あれは、普通では、とてもない』

カレンツ・ナクターは傑出した存在である。

いい詩人がいたら、連れて来て欲しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ