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カレンツ・ナクターの事情  作者: 籐仙日々人
13/18

魔法とは何か

見直しはしていますが、つたなくて済みません。

 13.魔法とは何か


 近衛官である最後の日。

 シトシトと雨が降っていた。帝都特有の緩く長い雨。勿論、広い帝都では東西南北で雨の降り方も少しずつ違う。ツイス・ワウター家のある貴族街では、未だ降っていなかった。

 少し雨に濡れながらの急ぎ足の人や傘の人を尻目に、アーロネスは魔法で『コート』を着ていた。

 その歩く姿に続く、彼の痕跡は霧の航跡の様に煙っている。

『コート』は雨を弾き、滴そのものを消す。

 帝都は、全区画を禁地魔術式で埋められている。

 石畳の下。上下水道。帝都市民軍詰め所。消火栓。あらゆる場所に見えないように、常用魔術式十八、汎用魔術式十三、の禁地魔術式が仕組まれている。

 禁地魔術式は大地に所属する精霊魔法の転用だ。

 常用と、汎用の基礎式は、庶民の殆どが覚える魔術で、誰もが使える。

 それは、言語よりある意味旧い。

 視線や、笑顔や、怒りや悲しみの次くらいには、人に共通する『阿頼耶識』だ。

 早い子であれば、三歳で見様見真似で魔法を唱える。しかし、不用意に唱えられた『火』の魔声で、街が火事になっては困る。

 それを押さえるべく、刻まれたのが禁地魔術式だ。

 魔術や魔法には手順がいる。

 その効果を高く求めるには必要とするものがある。まず、常用であれば、魔声と統魔器具。この二つを揃えれば、最大魔術値が得られるのだ。しかし、汎用となれば少し複雑化する。練習が必要であり、魔声楽と魔材による立意文字列を揃えた場合に、最適魔術値の解が得られるのだ。

 常用魔術は、極限までに効率化したものを指し、汎用魔術は極限までに最適化したものだ。

 もちろん、例外はある。

 だが、概ねはその通りだとしていい。

 効率化とは、人の思考形態や身体的作業性、簡略化の解であり、古いモノでは五百年以上費やしていると云われる。

 最適化とは、優れた魔法を再現するべく理論構成に基づき魔術構築するものだ。効果の大小、強弱、濃淡、あらゆる検証を重ね、複雑解を一覧にされている。

 効率化と最適化を識れば、禁地魔術式の構築も容易なのだ。

 では、今、アーロネスが使っている魔法は?

 禁地魔術式は、各魔術に共通する立意文字を意図して相殺している。精霊術の転用なのは、原初の魔法に近く、効果の減衰があまり見られないからだ。

 そう、魔法や魔術そのものが使えないわけではない。

 もともと、『世界の構成体』の一つ『魔』を世界からは締め出せない。

 だから、帝都内でもアーロネスは魔法を使えている。

 そう『魔法』である。

 魔法使いでなくとも、魔法は使える。

 誰でも。

 普通の人は、むしろ正確な『魔術』は使えない。

 魔の持つ法則性を利用したものが、魔法。だから、小さな子供でも感覚が掴めると、魔法は発動する。

 とは、いっても、法則性の理解が進んだ今、不可解な魔法などはなく、魔術は魔法の亜流なので、発動条件は解明され尽くしている。

 だから、禁地魔術式は有効なのだ。

 話を戻す。

 アーロネスが使っている『コート』の魔法は、軍隊では必須の魔法である。人体には雨から体温を保持する毛皮がない。代わりに魔法で雨に逢わない。

 軍属すれば識るので、軍用としては一般にも普及しているが、なかなか保持が難しい中度の魔法だ。

 自然現象の雨を、そのまま魔法的に弾く事は出来ない。

『コート』

 その手順を解いてみよう。

 まず、生命圏の境界を魔法圏にする。

 これにより、世界を魔法下に置くことが出来る。

 人により、その範囲は異なるが、掌か片腕までが通常だ。これを『視える才能』とも呼ぶ。

 魔法下にモノがあれば、魔法化が可能になり『法』の支配の及ぶところとなる。自然は『物の理』で動いている。自ずと然り。だから『魔法下』に置かなければならない。

 雨。

 それを、魔法圏にて、魔法下に置き、魔法化し、領域魔法を用意し、雨を弾く。

 勿論、その常態化は無意識を以て制御。

 これが『コート』の行程である。

 そして、これは“応用”が利く。

 だが、無意識で常態発動出来ないのであれば、あまり意味が無い。濡らしたくはない対象を意識に収め、その意識を無意識下に移行し、雨が止めば無意識下に収めた意識を解除する。この一連の軍事教練を突破しないと、上位部隊には配属されない。

 軍隊の教練の最重要なモノは、無意識でどれほどの事を為せるかに掛かっている。

 この『魔法』を極めた者は大砲の弾でさえ弾くし、刺突と斬撃を意に介さない。

 だから、雨は訓練に向いている。

 死ぬことはないからだ。

 また、雨のような都合の良い自然現象が、他に無いのもある。

 ただ冬の雨は、とても厳しい(・・・・・・)訓練扱いだが。

 アーロネスは貴族学校初等科のときに、これを制御するに至っている。かなり早熟と言えるのは、普通は魔法の正確な発動に手間取る時期なのだ。

 ただ、習得の理由は存外、子供っぽい。

 雨に濡れて遊んで泥だらけになったため、母メルネイーイットに懇々と諭された、からだ。そのあとのメイドや家宰に泣かれたのも大きい。丁度、冬の流行病が猛威を振るっていた所為もあるだろう。

 残念ながら、医療としての『魔法』は解明が滞っている。

 予防的魔術が進んだ弊害かもしれない。

 医療の分野における最先端技術は、ようやく花開きつつある『化学』が担うのかもしれないが、アーロネスには門外漢すぎて、然程の知識はない。

『魔法』のもたらす『治癒』

 それが、今日向かう『魔術環処』にはある。

 通称、レセーテ機関。

 帝都にあるものとしては、おそらく一番新しい医療機関だ。勿論、魔法大学であり医療大学であるスワェルグ大学院に、それはある。この部署の立ち上げは、七星候の肝煎りとのことだ。


 その医療機関は認識阻害の魔法によって、守られている。

 さらに警備員ではなく、警護兵が施設管理をしているのは、研究内容が高度であり、危険になる可能性があるからだ。

 二世代前の要塞でも、もう少しは華があるものだが、最新のメゼル・コンクリート製のそれは、一面を灰褐色で覆っていた。外から見る限り窓はない。

 正面からは、全貌を窺いしれないが四角い箱型の五階から六階建ての高さは見て取れる。

 入り口は、人が一人通れるだけの隙間のような門構えだ。

 アーロネスは、左右にあるうち、左の警備室に近づく。

「止まれ」

 幻体の警備兵が急に現れる。

 “これは、かなり腕の立つ”な、とアーロネスは害意がないのを掌を見せて軽くあげる。

「治験にきた」

「お前がか、」

「ああそうだ」

「本当にか」

「ああ、ここもか」

「何だと? それ以上は動くな。紹介状はあるか?」

「職務に忠実なの喜ばしい」

 “ただ、毎回、初めての施設に、この対応は辛いものがあるな”と心で溜息を吐く。

「ツイス・ワウター家から、機関長に用命書を廻しているはずだ。私の魔法登録は踵にある。…ゲートに立っても?」

カレンツ嬢、帝都にお遣い。

彼女、ハーブに煩い女子ですが、説明が出来ません。下手なのです。重要なコトの順序が巧くないのです。だけど、解る人と話し始めると止まりません。

額縁の誂えがお遣いなのですが、心はハーブ専門店にあります。

「あれも、これも、話すことまとまってる?」

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