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カレンツ・ナクターの事情  作者: 籐仙日々人
12/18

身体には魔法が眠る

全くをもって、構成の甘いですが宜しくお願いします。

 12.身体には魔法が眠る


 アーロネスは、三人に囲まれていた。

 たとえ訓練としても、余程の実力差がなければ囲まれた場合、一方的にやられてしまう。三対一とは、そういう差である。

 事態を、護衛でなく喧嘩を想定したのは師範代である。

 街中で、格闘技を嗜む者に囲まれる喧嘩など滅多に起こりえないが、近衛を殺しに来る暗殺者の想定をするより無理がない。

 近衛は立場上、謀略とは切り離せない。

 優れた謀略とは、行動を不能にして制限を掛けることである。

 だから、囲む三人の勝利条件はアーロネスに一撃を入れる事。アーロネスの勝利条件は三人を行動不能、戦意喪失に追い込むこと。

 近衛官といえど、人間である。一対多では守勢に廻らざるを得ない。実務による物理的な対処には常に数的限界の問題に晒されている。

 近衛官というものは、そんなに数が居るわけではない。

 では、どうするべきか。

 単純な方法としては、年齢毎に優秀な者を集める。そして、鍛える(・・・)。それしかない。

 綺麗に三方に散った三人が囲みを縮めようとする。

 素人の対応ではない。

 なかなかの修練がみられる。

 それを、彼は僅かに足を一つ分下がり貫き手が来るのを防ぐ。パンチがヒッティングに於いて有効的な距離は拳一つは無い。

 実のところ、人は一対一で戦うことが殆どだ。戦う理由が二人以上に跨ぐなど、まずあり得ない。

 だが、近衛に入れば、ごく当たり前のように懸かる事態に直面する。

 喧嘩レベルの襲撃は、三人で襲うにしても、だいたい自分が攻撃を受けたくはないものだ。確率三分の一で暴力の当事者には成りたくは無い(・・・・・・・)。また、そういう風に人の本能と理性は出来ている。

 喧嘩を理性のない状態だと考えるのは危険を伴う。問題なのは、相手が何を『理』と考える『(さが)』を主体にしているかなのだ。それを読み間違えると、どんなに小物の人物であっても、想定の結果を歪ませてしまう。

 だが今の三人の現状は、弱い者虐めのゲームをしているのではない。

 そんなに小難しく考える必要はない。

 ただの模擬された仕合だ。

 彼らに、まだ情況を加味した設定の戦いには早すぎる。まだ、学生なのだ。

 そう、強弱で言ってしまえば、圧倒的強者(アーロネス)を三人の弱者が囲んで押さえ込もうとしている。いや、その努力しているとでも言うべき状況なのだ。

 アーロネスは全ての感覚が立体的な視覚として構築(・・)されている。

 彼自身も、つい先程に得た能力。

 出来ることは手探りだ。

 後ろには、先程対戦した彼。その呼気を感じ取り、手の位置、姿勢、視線、重心が、アーロネスには良く見える。その心情さえも。

 怖れ。

 言ってしまえば、それだけの一つの感情。

 格闘術を志す者の、最初で最後でもある“壁”

 それは、ある種の“域値”だ。

 どのような水準値にあろうと、けっして無くなりはしない。本能と理性が視る壁だ。

『出来る』or『出来ない』

『動く』or『動けない』

『届く』or『届かない』

 戦闘とは、本能と理性を踏み越えた時間だ。

 簡単に踏み越えれば、簡単に死ぬ。怖れに留まれば、座して死す。

 そういう生死の伴う戦闘には人を促す何かがあるが、訓練に、そこまでの覚悟が必要な事は、さらに稀なことだ。

 それを、アーロネスは彼らに与えている。

 あまりの技量差に、真剣の立ち会いに等しかった。

 呼吸のリズムと重心の揺れるリズムを把握されてしまった三人は、攻撃が出来ない。アーロネスの見せる動きに、自身のリズムで戦えないのだ。

「止め!」

 アーロネスが戦闘モードから外れると、三人はその場に崩れ落ちた。

 いや、後ろにいた彼は、なんとか立っている。

「すごいな、こいつら、ウチの道場でも、かなりヤル方なんだがな」

「そうなのか?」

「ここは、辺境探索者になろうって、強者が来るところだぞ」

「俺の鍛錬の筈、だったんだが」

「そんだけ、強ければ充分だろ」

「そうか、足りない瞬間(とき)には間に合わないものなのだな」

「で、それは『魔法』なのかい」

「さあ、どうだろう。魔法のような魔術のような」

「なんだ、わからないのか」

「これは、『魔術環処』に出向かないといけないかな」

 師範代に顔を酷く顰めて「あそこか、」と呟いた。

 魔術士と闘術士の相性は、一般にいって良くはない。

 思考と体幹の才能は相容れないことが多い。

 それは人の持てる能力の限界が、そうしてしまうのかもしれない。

 魔術では、座学の占める比率がどうしても高い。だが闘術では座学は瞑想による訓練を指す。その為、瞑想は『居眠り』と呼ばれて殆どの者が真面目には修練しない。

 しかし、才能あるものは漏れなく瞑想の利を知るし、習得も早い。

 結局のところ、全ては才能に帰結してしまうのは、仕事の究極的な話であって、大多数の人には、才能は無く、努力にも限りがある。

 世界が成り立つのは、大多数の普通の幸せのあり方であって、少数の才能ではない。

 そうではない者。

 そうでは居られない者。

 その多くは、近衛官や辺境探索者、職業軍人になる。

 正解はない。

 用意もされてはいない。

「コートレック師範代、一つ頼む。このままでは説明にも苦慮する」

「はー、1回だけだぞ」

「助かる」

「ったく、どんな罰ゲームだよ。木剣はなし。素手だ」

「有り有りで?」

「無し無しに決まっているだろ。急所無し、魔法無しだ」

「意識的に切れないんだが」

「切れっ、お前なら出来る」

「片眼の不随(ハンディ)があるんだが」

「知らん」

「はぁー、やってみるか」

「忘れてた。この勝負、勝った奴が、晩飯の奢りな」

「なに」

「条件、付けとかなきゃ元が取れないだろ、どれだけ俺がお前に負け続けたと思うか」

 コートレックは、アーロネスの同期で、辺境特科の特待生だった。しかし、在学中に人に物を教える才が開花してしまい、不本意ながら教員の道を進むことになった。そうでなければ、今頃は北部辺境植物学の基礎データ収集に邁進していたはずだ。

 辺境探索者に何故格闘が必要かというと、北部には角力、東部には拳撃、南部に柔術、西部に刀仙と武術の盛んな少数民族が多数居るからなのだが、単純に強い者が尊敬を集める地なのだ。

 勿論、酒と話術で何とかしてしまう強者もいるが、推奨はされない。

 基本の性能としては、胃腸が強く、熱にも判断の鈍らない者が辺境探索者に向いているとされる。

 いくら疲れていても、歩かなければいけない場所では、決して歩みを止めない強靱な意志も、当然のように必要だ。そして、その正反対の意志も、間違いなく必要だ。

 けっして、判断を誤らない。

 また、違う事態に至っても狼狽えない。

 コートレックは、殆どの資質を持っていたが胃腸だけが弱かった。

十三歳、カレンツ・ナクター嬢は、花嫁修業で曾祖父様にお茶を淹れています。

大都会の帝都の傍に生まれながら、田舎娘な処がございます。

なにしろ、恐ろしいまでの気骨のある一族に産まれてしまっているので、女だてらに子爵を、ちょっと考えたりもしたりもします。

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