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カレンツ・ナクターの事情  作者: 籐仙日々人
11/18

近衛学術法

色々、不出来ですが、宜しくお願いします。

 11.近衛学術法


 近衛には、修めるべき知識と習練がある。

 一つは、『体術』

 一つは、『薬学』

 そして、『魔法』と『魔術』

 これらの統合技術を称して近衛学術法という。

 帝国千年の歴史を持ってして生まれ得た特殊な学問である。

 月皇陛下をお守りするために体系化された、学術法(それ)は高度な能力を遺憾なく発揮させるべく、構成されている。

 だが、誰にでも修めることが出来るような、生易しいものではない。

 その資質がなければ、それぞれ教授される指導の殆どは理解できない。また、資質と教育が揃っても体現が適わなければ、やはり近衛官にはなれない。

 体術は、漢禄帝国の全盛期に亡命してきた靇・弘(る・こう)を祖にして、築かれている。現在では龍手と呼ばれる体術だが、これは、手の位置と振り抜きで相手を崩し、瞬時に暴漢を無力化するべく考案されたものだ。後の龍脚と併せて、近衛官には叩き込まれる。

 近衛官は体術に於いても圧倒的技量を持っていなくてはならない。

 月皇陛下を守護するは、ただ事ではないのだ。

 薬学に於いては、月皇陛下の往かれる土地の植生を調べ、虫毒の有無、その強度の確認など、幅広い知識が必要とされる。もちろん、毒による薬殺も注意せねばならない。

 これは、医術として身に付ける術ではない。

 宮中に医師ならば居る。

 近衛学術法と云うものは懸かる事態の謀略を阻止する防術なのだ。

 宮中に伝わる魔術には幾つかの流派がある。

 月皇の血脈に備わる“ゼルーティア”

 婦女子の嗜み“ガーデン”

 騎士道の必須“ディライツ”“ノアーク”

 近衛の秘技“アセント”

 帝国の魔術の秘密は多岐にわたるが、真に秘なるものは少ない。

 魔法を志し魔術を得る。

 それが、近衛の秘密の概略。

『魔』(ether)には、絶対の『法』(rule)がある。そして、その『法』を行使するのを『魔術』というが、それは確立された『機構式』を指す。

 魔術の上には魔法がある。

『魔』のあるべき『法』を自在に行使し『世界』をその手で歪ませる者を『魔法使い』と呼ぶ。

 今『魔法使い』と呼ぶべき者は帝国全土を見渡しても、五人しか居ない。

 それ以外は『魔術士』と称される。

 故に近衛官は研鑽する。

 自在に『魔術』を扱い『魔法』を超える為に。

『魔法』とは理論の果てしない応用である。ただ『魔』を使うだけなら難しいことは何もない。構築済みの『魔術』を憶えればいいのだ。

 しかし、それだけでは職務には、到底足りない。

『魔術』を『魔法』のように。

 近衛官は、物事の表裏を把握することを求められる。

 体術にしても人体の構造を把握していれば、その技の理解は進む。

 たとえば、相手の手のひらが上を向いているか、下を向いているか、内か外かによって懸かる技が変化するし、懸かったあとの姿勢も決まってくる。

 そう、事態は変わらなくとも状態と位置取りと仕掛けに間違いなければ、ある程度の結果を予想し得ることが出来るのだ。

 それが、近衛学術法である。


 アーロネスの今日の目的は、久しぶりに身体を動かしてみることだった。

 帝都三部ファーフス地区。

 イーサ七星候下、辺境学の考学編所大学院。

『龍聖院』

 それは大学院内に併設された訓練所、道場といったもので、辺境学に必須である体術の修練場。

 彼の母校だ。

「いらっしゃいませ、御用向きを伺います」

「龍手の師範、師範代はいるかな」

「ええと、つ、机向きのご御用でしょうか」

『机向き』龍手周りの独特の言葉である。

 事務方の総称だ。

 そのとき、後ろの机から声が掛かる。

「ファルネット、この方は近衛の方ですよ。お久しぶりです、アーロネス様」

「カルセード、久しぶりだな。元気だったか?」

 彼女はアーロネスの同期である。

「ファルネット、師範代コートレックが道場に居るはず、暫しお留めしてきて」

「はい」

 元気に、ポニーテールが揺れて出て行った。

「あの娘は、今年の新人配属なのよ、ちょっと『慌てん坊(イールス)』なの」

「カルセード。…まさかとは思うが、定着したのか?」

「イールス・マルドネートの失敗譚は、伝説的ですもの」

 アーロネスは額を中指で押さえて、

「マジか」

「マジです」

「くくく、」

「ハハ、、、」

 なんと言うべきか暫し迷って「久しぶり、」と、アーロネスがもう一度言った。


「始めよ」

 師範代コートレックの硬い一声が響く。

 アーロネスの自然体に対して、学生である彼は戸惑いを隠せないでいた。

 木剣を下に構えて震える。

 彼は、近衛官志望だった。

『今回はツイている』心がはやった。怪我の退職とはいえ現役引退したばかりなのだ。

 自分の実力を確認したかった。

 だが・・・

 無手の、それも立っているだけの相手が、これほど遣りにくいとは考えた事もなかった。それなりの研鑽を積んだ筈の自負。

 その自負はあった。しかし、それが役に立たない。

 鉢金式の眼帯が左眼を覆っているのを見て取って、右回りを選ぶ。

 当然の事だ。

 だが、アーロネスは動かなかった。

 視覚は身体の九割以上を制動する、その本質は危機反応だ。光ある処に住む生命体には眼があるのは、その為にあると言って良い。身近に起こる事態に際して瞬間に反応しなければ死に直結する。

 ただ、人間という生物は理性により合理を得た。

 それは牙と角の代わりに備えた剣。

 ただ、それには手間と暇が懸かる。

 才を見出し、基礎を叩き、型に羽目て整え、刃を付け、拵えてやらねばならない。

 彼は、アーロネスの死角に入ったと確信を得た瞬間に、木剣を切り上げた。

 須臾の間の事だ。

 なのに、その木剣はアーロネスの左足に踏みつけられていた。

「それまで」

 残心を解く。

 彼は、その場に崩れた。

 百も呼吸しない間の出来事に疲弊してしまったのだ。

 意識の領域外の知覚反応を初めて使わされた所為だろう。

「彼、優秀ですね。ちゃんと手が動きましたよ」

「期待の近衛予備生候補を、簡単にあしらい過ぎだ」

「左を失ったが、視覚野が何重にも拡がったみたいだ」

「なんだって、…勿体ない。職が未だなら、体術講師に推薦してやる」

「ありがとうございます、コートレック師範代。残念ながらというべきか、次の就職先は決まっています。まあ、頸になったら、宜しくお願いします」

「ほう、やはり、近衛官が前職となると仕事が決まるものなんだな」

「さあ、どうなんでしょうか。今日は身体を動かしに来たので、学生何人か貸して下さい。納得したら、稽古ぐらいなら協力しますよ」

「はあ、…わかった、左の手足は攻撃禁止な」



彼女が、出るまで頑張る。


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