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例にもよって題名は変わる恐れがあります。
「んじゃ、次の町にでも行きながら、魔物でも狩っていくか?」
朝食をとりながら、俺は早速こう切り出した。
「そうだな。レベルがないのはありがたいがそれでも戦闘経験は積んでおきたい」
コウが普通に強いことは昨日のスライムを斬ったことでなんとなくは把握した。
どうやら、格闘技やらを少しかじっていたらしいが、本当かどうかは知らない。
次の町に行くまでには、スライムやゴブリンやらオーク、コボルトと比較的有名な魔物が多い。
「そういや、銃なんかは作れたりするのか?」
「ん? あぁ、お前んとこの世界の化け物みたいな武器か…。まぁ、作れなくはないな。ただ、リロードまでもたねぇだろうな」
「暗器は?」
「お前、王道キャラじゃないのかよ…。もちろん、作れるぜ」
俺はてっきり名前的にも初日から考えても王道のキャラだと思ってた。ていうか、王道っぽい顔じゃねぇかよ。
「いや、王道もいいんだが、ヘパイストスの特性から考えると邪道の方が生存率が高そうだしな」
…そりゃあ悪かったな。
「取り敢えず、シンプルな銃を二丁。あぁ、回転式じゃなくて自動の方な」
刀といい、拘りはありそうな性格だ。
手を叩いて作るのも芸がないなと思ったんで、今度は袖から出すことにした。
作り出した銃はポケットに突っ込まれ、見ると刀を三本差して拳銃を二丁ポケットに入れている和と洋が混ざった格好みたいになってる。
「これが和洋折衷ってか?」
「いや、違うからな?」
意外とボケるのが好きなのだろうか?
そんなこんな言ってるうちに森の中に入っていった。
「ん? ちょっと待て。森に入る必要ないだろう。せっかく整備された道があるんだから、そっち歩けや」
「うーん、見る限り魔物が全然いなかったからな。少なくとも戦闘経験は積まないといけないんだろう?」
「まぁ、それもそうだが」
理屈としては合ってるがわざわざ自分の危険を上げて行くのはどうなのだろうか?
やっぱり、少しこいつは変わってる。
「レベルが無いってことは、ステータスっていうのは上がりようがなくねぇか?」
「はぁ? あぁ、わかりにくかったか?」
要は、地球と同じっつうことだ。筋トレをすれば筋肉がついて力はつくし、同じ練習をすればそれは出来るようになる。
地球と違うのは特殊能力があるか無いかだけみたいなもんだからな。
つーか、ステータスは無いって話はしただろうが。
ついでに言うなら、スキルっていうのは得意なことみたいなもんだ。
地球でだって人によって向き不向きがあるだろう? 野球が上手いやつとサッカーが上手いやつみたいな。
あれを親切に教えてくれているのがスキル。
最も、スキルは教会の人間やハグレの者、神とかしか鑑定が出来ないがある程度は感覚で分かるんで心配はする必要がない。
隠れたスキルってのが鑑定でようやく見つかるもんなんだが、大抵がショボい物が多くて、見たあとの絶望感がすごいんで見る奴はそうそういない。
「んで?」
「ん? 何がだ?」
「俺のスキルはあんのか?」
「ちょっと待てよ…。無いな。っていうよりかはお前自身が理解しているので全部らしい」
コウだが、その事実を聞いてもがっかりはしていないらしい。
「まぁ、そりゃあそうだろうな」
どうやら、小さい頃から色んなことをやってきたらしい。格闘技から生け花、ピアノにドラム…。俺でも、嫌だなそんな生活は。
「まぁ、俺も嫌だったが、たまに面白いものに行き当たることもあって退屈はしなかったな」
しばらく大したことのない会話を続けていたが一匹の魔物の出現で会話が途切れる。
「こいつはゴブリンってやつか」
そうだなと相槌を打った途端、コウは刀に手を当て、一気に肉薄し首を落とす。
「相変わらず、肉を斬るのは良い感触はしないな。まぁ、罪悪感なんかは思ってたよりもなかったが」
すると、急に鼻をクンクンし始めるコウ。
「な、なんだ。急に気持ち悪いぞ?」
「いや、このゴブリンと血の匂いが先の方からする気がするんでな」
「お前、鼻がいいってレベルじゃないぞ?」
生憎、地上に降りた状態だと見通す力は俺にはないから、嘘か本当かは分からないが嘘を言っているようには見えない。
「んで、どうするんだ?」
「まぁ、見に行ってみるか? 危なかったら逃げればいいんだろ?」
そうして、先へと歩みを進める。コウは先の方といったが木々に隠れていて見えなかっただけで数百メートルもたたないうちに件のゴブリン達のいたところへと到着する。
「ここだろうな。ゴブリンの匂いと何か違う匂いもあるが」
そこには血が辺り一面に飛び、人と馬、ゴブリンの死体が多く散乱していて、傍らには馬車の残骸と見てとれるものが放棄されている。
何故、こんな通り辛そうな森で馬車を引いてきたのか。という疑問も存在するが、隣のコウの行動は早い。
「血が続いているな。行くぞ」
確かによく見ると地面には赤いものが続いているがこれに気づくのは相当の洞察力が必要だと思い、改めて目の前のコウのデタラメさを感じる。
それにゴブリンの死体やらを見ても大して気にしたそぶりをしないのもそうだったが今回は人も死んでる。よくもまぁ、そういう態度でいられるなと思う。こちらとしては、魔王退治に行くのだから胆力がある方がいいのだけど。
ついて行くと、なにやら戦闘の音がした。
剣と棍棒がぶつかり合う音のようだ…。悪い、今のはコウが言った言葉な。
「様子見をしたいところではあるが、あれは手に余るだろうな」
見ると、きらびやかなドレスを着た若い少女を守るように三人ほどの男が剣を構えている。
あれはゴブリンキングのようだ。ここら辺では滅多なことでは発生しないのだが、たまに発生するんで出たら基本は逃げるのが鉄則だが、少女連れとあればそうも行かないのだろう。
おまけみたいなゴブリンが複数体いるにはいるが警戒には及ばないレベルのようだ。
「おい、援護に入るぞ」
そんなコウの一言にちょっとだけびっくりしながらも後に続く。
「援護する」
隠れていた木の陰から飛び出すと刀を抜き近くにいたゴブリンを二体ほど斬り捨てる。
それが勘に触ったのかゴブリンキングはコウへと棍棒を振りまわす。
「力はありそうだが、筋は読みやすいな」
襲いかかってくる棍棒に対し、刀を使うことなく攻撃を避けていく。
「まずは武器を使えなくするか」
四回ほど、避けたところで攻撃に移る。空振りしたことで空いたゴブリンキングの右の手首を掻っ切り、ついでとばかりに左の手首も落とそうとするが失敗する。
スライムように火の魔術を付与していた武器で攻撃したお陰で血が飛び散ることはなかったが、血が出てない姿っつうのも中々にエグい。
しかし、この間にも、男衆が周りのゴブリンを殲滅し、残るはキング一体となったが片腕が使えないというのに逃げるそぶりさえ見せない。
「んじゃ、試し撃ちだ」
刀を投げつけ、ポケットから二丁の拳銃を取り出す。
装弾数は適当に作ったんで十発しかはいってないはずだ。計二十発をコウは惜しむことなく、両手で消費していく。
それは日本人が出来る技量を明らかに超えていた。一発目が目に当たったと思うと次々に様々な場所に当たっていく。
「まぁ、久しぶりだが、こんなものか」
全弾撃ち切った拳銃は瓦解し、コウの手元から落ち地面に落ちる前には消滅していた。
「んで、大丈夫か? あんたら」
ゴブリンキングを易々と倒したコウが助けた少女とその連れに声をかける。
「ひっ、ひぃ。殺さないでくれー」
一人が拳銃の恐ろしさを目にして走り去ってしまった。まぁ、なんだかんだ言って仕方のないことだとは思う。俺だって、若干引いてる。
「…お前は誰だ? 我々をどうする気だ」
一人が少女を庇うように前に出る。
「どうするも何もこっちは手助けに入っただけだ。むしろ、礼一つ出来ないのか?」
男が少女の方を見ると、少女は小さく頷く。
「…すまない。非礼を詫びよう。それと、先ほどは助かった。ありがとう」
「事情を詮索したい訳じゃないが、何があってこんなところにいるんだ?」
当然の疑問であった。わざわざ、舗装された道があるのに森に馬車で入っていたことは不自然と言わざるを得ない。
「…すまない」
「分かった。深くは聞かない。そちらにも事情ってもんがあるだろうし」
…会話が止まる。
「では、我々はこれにて失礼する。何のお礼も出来ないのは心苦しいがまた会うことがあれば必ず」
そのまま少女を抱え、二人は去っていく。
「さて、ヘパイストス。あいつらは?」
「あ? あいつらか…まぁ、知りたきゃ教えるが」
「いや、いい。面倒臭そうだ」
んじゃ、聞くな。と、内心で思ったりするが口に出したりはしない。
そもそも、それを言うにしたって、奴は既に歩き始めている。今更言ったところで聞こえないだろう。
しばらく行けば、コウから声がかかる。
「ヘパイストス。悪いんだが道に迷った」
どうやら、こいつでも弱点はあるらしい。